23.王の提案
──翌朝。
早速、王の間に案内された僕は、今度は言われる前に正座の体勢に入る。
これで文句はないだろ?
ちゃんと膝をついてる。
そんな僕にやや奇妙なものを見る目を向けながらも、王様が口を開いた。
「まずはそちの行動について、不問とすることを伝える」
「それは、どうもご親切に」
「続けて、魔法薬の供出について。謝意と報奨をここに」
大臣が怯えた様子で積まれた金貨を見せ、それを袋に入れて僕に手渡した。
すまなかったとは思ってるんだ。そんなに怯えないでいただきたい。
しかし、ちゃんとお金をくれるなんてなかなかしっかりした人じゃないか、王様は。
少し見直した。
「さて、ここからは今後のことについて話したい」
「今後?」
「そちが錬金術師として有能であることは、先の一件でよくわかった」
そう深々とうなずくエウレア王。
なんか、威厳ある感じになってますけど……城中の衛兵がイキまくったって話をしてるんですよね?
「もし、そちが敵国の間者であれば、あの日我が国は滅びていた」
「ま、まあそうですね」
そう言われればそうか。
僕に悪意や害意があれば、先日の時点でこのエウレア王国は終わっていたかもしれない。
ま、事実として社会的に終わった人は結構いたかもだけど。
例えば、そこで直立不動の近衛騎士団長とか。
「それで、だ。その事実を深く受け止め……そちを我が城に招くことに決めた」
「はい?」
文脈の前後がつながっていない気がする。
いや、王様的にはつながっているのか?
「今後は我が国の管理下において、その錬金術の力を存分に揮ってほしい」
「えっと、嫌ですけど?」
にこやかな顔のまま王様──いや、周囲が凍り付く。
なんで錬金術のことをまるで知らない国家に管理されねばならんのだ。
そう思っていると、恰幅のいい宰相が僕を指さして口を開く。
「よ、よく聞け……ヴァイケン・オルド。お主の力は非常に強く、危険だ。個人が管理しうる域を越えているッ」
「さっきから管理管理と仰っていますが、どう管理するんですか?」
「な……っ?」
僕の言葉に、宰相が怯む。
「お言葉ですが、あんなにあっさりと城内を制圧されておいて、どうしてそこまで上から目線になれるんです? 僕と僕の錬金術を管理? 誰が管理するんです?」
「それは、その……これから枠組みを作ってだな。王国法に照らし合わせて、適切に判断をする機関を設ける」
「いやいや、嘘はいけませんよ。確認しましたがね、錬金術と錬金術師の運用に関してのエウレア王国法は存在しませんでした。それどころか、市井の薬品使用や流通に関する法すら整備されてませんでしたよ?」
そのせいで、エドガーさんは体内腐敗を起こすような粗雑な魔法薬を飲むことになった。
こんな状況で、王国法に照らし合わせてなど、失笑ものである。
「だから、それは今から有識者で整備を……」
「つまり、僕を好き勝手に運用する法律を今から作りますってことですか?」
まったくもって話にならない。見損なった。
「話が終わりなら帰ります。錬金術は人々を幸せな未来に向かわせるための技術なんです。あなた方が好き勝手に利用するものじゃありませんよ」
「貴様……ッ! 言わせておけば!」
ずっと黙っていた近衛騎士隊長が剣を抜き、それに併せたように周囲の近衛騎士も得物を構えた。
「陛下の厚意を無下にするつもりか! 今ここで貴様の首を刎ねてもいいのだぞ! いかに貴様の魔法道具が強力だとはいえ、この人数は相手にできまい! 」
「いえ、この程度の人数なら余裕ですね」
僕の言葉に、近衛騎士団長があんぐりと口を開ける。
だって、事実だから。
特に魔導金属や駆動装置を備えた鎧ではあるまいし、鉄製のガワを被ったくらいで偉そうにしないでほしい。
「陛下、これはあなたの指示ですか? 王宮の総意ですか?」
「あいや待たれよ、ヴァイケン殿。彼は少しばかり気が短いのだ」
王様の言葉に、近衛騎士団長が首を振る。
「いいえ、もう我慢なりません。この者は王国に害を成す者です。即刻この場で切り捨てるべき邪悪です!」
「言う事聞かなきゃ邪悪扱いして殺すなんて、聞いて呆れますね。あなた方のほうがよっぽど邪悪ですよ」
小さくため息を吐きながら、王と宰相を見る。
「身近な人の管理もできていないようですけど?」
「貴様ぁぁぁぁぁッ!」
激昂した近衛騎士団長が長剣を振り上げて迫ってくる。
言うことを聞かないと暴力で解決しようなんて、そこらの野盗や山賊と変わらないじゃないか。
これが王宮で起こっていることだというのだから、ため息しか出ない。
ああ、世界は野蛮になってしまった。
「〝起動〟」
キーワードと共に、近衛騎士団長が緑色のスライムに包まれる。
【レギュレーション18型スライム】は解除コードで動きを止めただけで、消え失せたわけではない。
そんなことも知らないで、どうして僕を管理しようというのか。
本当に君たちは愚かしい。
「おぉンッンンッオッ──おっ!!! おっ!!!!」
近衛騎士団長が、レッドカーペットの上で跳ねる。
それを見て、近衛兵たちは動きを止めた。
団長殿と違って、君達は意外と勘がいい。
そう、キーワード一つで君達もこうなるってことだ。
しかし……どうも現代人は、この魔法道具に弱すぎる。
まぁ、基本的な耐性が過去とは違うのだろう。
「ヴァ、ヴァイケン殿……!」
「ええと……王様。僕はこれで失礼しますね。今後は、僕に関わり合いにならないようにお願いします。今度は死人が出ますよ」
顔色を悪くする王様その他と、白目をむきながら弓反りになっている全裸の近衛騎士団長を残して、王の間をすたすたと歩いて出ていく。
当然ながら、今度は誰も僕を止めなかった。
「はー……疲れた」
「お疲れ様です。解除コードを発信しますか?」
「しばらく放っておこう。死にはしないだろ」
社会的には二度目の死を迎えたかもしれないけど。
お読みいただきありがとうございます('ω')!
今日も頑張って書いてます!
【用語解説】
・社会的な二度目の死……近衛騎士団長ガイガードはこの後も元気に職務に励んでいる。安心してほしい。
いかがでしたでしょうか('ω')
王国編はこれにていったん終わり、次回からはサルヴァンに戻ります。
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