6話 激突
「……よし、リューガ。作戦はさっきに
言った通り、お前が神子を連れてさっさと逃げりゃァ俺達の勝ちだ。絶対に敵と戦うんじゃねえぞ?」
「分かってるって! 全部ぶっ倒して神子を助けりゃOKだな!!」
「こいつ……だから、違ぇって言ってんだろが! お前は逃げろって言ってんだ! そうすりゃ国だって助かるかもしれねぇんだ。」
ガエンは真剣な顔つきでリューガの肩に手を置く。
「いいか? この先に居んのは俺より強いか、良くて互角なバケモンだ。だけどな、俺がそう簡単にやられるわけはねぇ。だから、安心して突っ走れや。」
「おう。自分でも俺が戦えないのは分かってる。でもな、オッチャン! 目の前でやられたりしてたらすぐに助けるからな!!」
リューガは意気揚々とガエンに向けて、そう宣言した。
「バカヤロウ、俺は負けねぇよ!」
ガエンは笑顔で大樹の間の扉に手を掛ける。
「それじゃあ、行くぞッ!!」
ガエンの合図と同時に2人は大樹の間へと乗り込む。
大樹の間は10mはあろうかという大部屋で、その中央には大樹が雄々しく立っている。
部屋の隅に誰かが蹲っている。
それに近寄るように距離を詰めていた男がこちらを振り返る。
「なんだ? まだ生き残りがいたのか? アイツらは一体何をしているんだ……」
蛇のように鋭い目を持ち、スラっとした体型の男が苛立ちながらこちらを振り返る。
「お前らは何だ? 邪魔をしに来たのか? だとしたら殺すぞ。」
男の雰囲気はどこか静かで、しかし、容赦なく殺すと言う意思が強く伝わってくる。
ガエンが一歩前に出て大剣を男へ向ける。
「王江戸の国、先代王エド・ガエンだ。此度の戦争、随分とメチャクチャしてくれたじゃねぇか。覚悟は出来てんだろうなァ!!」
男は少しだけ笑みを浮かべて
「ほう! あの先代王か! 一年前の戦争では戦う機会がなかったが、少しばかり気になってはいた。戦いを所望とあらば、此方は受けて立とうか。」
「その前にお前、名を名乗れや。お前が俺を気にかけても、俺はお前を知らねぇんだよ。」
頭を掻いて男が誰かを思い出そうとするガエンに向けて男は
「アガリア五星卿、蛇楼卿のダリスト、と言えば分かるかな……?」
ダリストと名乗る男は腰の剣を引き抜き、そう宣言した。
「……成る程な、だとしたらこの殺気も納得だぜ……こりゃあ人間には出せる代物じゃねぇからな……バケモンなら簡単に出せるのに合点がいくぜ……!」
ガエンは中段で剣を構え、ダリストと向かい合う。
「リューガッ! 今のうちに行け!! 俺が抑えといてやれる内に!!」
「お、おう! 分かった!! よく分かんねえけど相手がそんなに強ぇのか……とりあえず俺は神子とやらを……」
リューガは部屋の隅に蹲る少女に話しかける。
「お前が神子ってやつか?」
「…………」
少女は静かに頷き、震えた手でリューガの腕を掴む。
「よし、それじゃあ俺と一緒に逃げるぞ! 背中に乗れ!!」
その場にしゃがみ込むリューガに神子が掴まる。
「それじゃ、オッチャン!! 後は頼むぜ!!」
リューガは城門を目指して走り出した。
「神子を捕獲しろという話だったのだが、まあいいか。外には奴が居るからな。殺してしまうかもしれんが、俺はもとよりあんな小娘などどうでも良いのだ。」
ダリストが独特な波を打つような剣を脱力したように構え、ガエンに向けて
「お前のその大剣、中々良い出来じゃないか。銘は何と言うのだ?」
「オメェもかなりの業物じゃねぇかよ。俺のは『鬼龍紅』だ。」
「俺の剣は『蛇楼剣』と言う。蛇と言う字が冠するのは抑えようのない狂気らしい。酷いと思わないか? 俺はこんなにも冷静だと言うのに。」
ダリストは壁に向かって剣を一振りし、壁に一筋の傷が刻まれる。
「コイツはやべぇかもな……俺も最初から本気でいかねぇとな……!」
気を引き締めるガエンが感じた違和感は、非常に恐ろしいものだった。
ダリストの付けた傷は、よく視ると幾分もの斬撃が重なることで、まるで一本の傷に見えている、というものだったからだ。
ガエンが地面を蹴り、ダリストに向けて飛び込む。
「フンッ!!」
身の丈程の大剣でダリストを豪快に斬りつける。
だが、寸前のところでダリストの剣に阻まれる。
「……重い……な。これ程のものは未だに感じたことがない。期待が膨らむばかりだよ。」
大剣を押し返し、ダリストはコートを脱ぎ捨てる。
「……7割ってところか。俺は老人には敬意を持っているからな。手を抜いてやるから全力でかかって来い!」
「……ケッ! 誰が老人だ!! ……だが、俺が7割で斬りかかったってのが見抜かれたのか……?」
ガエンの周囲で小さな火種が舞い始め、パチパチと音を立てて弾ける。
「コイツは使わないに越したことねえんだがな……どうやら使わなきゃ厳しそうだ。」
小さな火種が大きな火炎へと変わり、ガエンを包み込む。
「灼炎。」
ガエンが炎に飲まれ、身体が紅く染まる。
その身体はまるで『燃えて』いるかの如く熱く、激しく揺らめいている。
身の丈程の大剣は原型を失い、周囲の炎が大剣へと収束されていく。
収束された刀身が紅く輝き、片手剣サイズに収まる。
「コイツは長くは持たねぇんだ。さっさと決着つけちまおうぜ!」
「……面白い。俺より強い奴がこの国に残っていたとはな……俺も本気を出さねばな。」
ダリストの指が蛇へと変わり、各々が自由に動き回り始める。
「スネイ・ドレイク……」
蛇楼剣が10つの刃に変わり、10匹の蛇達がそれぞれその刃を咥え、ダリストの周囲に漂っている。
「面白いな! エド・ガエン!! その灼炎、如何なものか確かめさせて貰おうか!」
「ナメんな。バカヤロウ……こいつはお前ェが測れるようなシロモンじゃねぇぞ……!」
ガエンが剣をダリストに突き出し、堂々と宣言した。
「お前が見てんのは、一つの命の輝きだ。コイツは俺の、真っ赤に滾る魂の乱舞だぜ?」
ガエンが纏う燃え盛る炎は、今にもこの場を焼き尽くさんとしていた。
「よーし!! とりあえずは城を出たぞ! 後は、避難所まで一直線だぜ!!」
神子を担ぎながら必死で走るリューガは、早くも城を抜けて城下町へと辿り着いていた。
「なあ、神子ちゃん? ガエンのオッチャンが言うにはお前の力で国を救えるんだってんだが、ほんとにそんなことできるのか?」
走りながら話しかけるリューガに神子は何も答えない。
「黙ってちゃ分かんねーな……まぁ、オッチャンが言うなら何か秘策があんだろうな! 大樹がアイツら全部枝で捕まえちまうとかさ!」
呑気そうな顔で笑いながら話すリューガに、神子が緊張が解けたように微笑み返す。
「お! 笑えるじゃねぇか! ……てか、よく見るとめちゃくちゃ可愛いな?!」
顔を赤らめ、前を向くリューガに微笑む神子。
この地は戦乱の最中と言うのに、彼らの周囲はとても和やかで愛おしい空間に包まれていた。
こうした他愛もないやり取りを続けていると、前を向いた神子が戦慄したような顔で固まっている。
「ん、どうした? いきなりそんな顔して。せっかく可愛いのに、それじゃ台無しだ……ぜ……」
リューガが足を止める。
否、止めたのではなく、止まったのだ。
足は震え、顔は絶望に包まれている。
リューガ自身も、予感はしていたのだ。
『アレ』がさっきから見えていなかったことに。
「な……んで、『コイツ』がここに待ち構えてんだよ……」
その場で立ち尽くすリューガを、まるで嘲笑うかのように『ソレ』は涎を地面へと垂れ流す。
リューガが1番出会いたくなかった『ケモノ』はリューガに立ち塞がる。
それはまるで、仕組まれた『運命』
「大狼……!! 正直、もう2度と会いたくなかったぜ……」
震える足を無理矢理止めて、リューガは剣を抜く。
「さっきは、逃げたけど……今回は誰も助けちゃくれねぇ……! 俺1人の力で、大狼、 お前を倒す!!」
城から見える大広間で、新たな戦いが始まった。
色々と用事があって遅れました……
6話です!
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