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灼炎のリバーサル  作者: 神原綾人
1章 王江戸の国篇
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5話 計算と怠慢


「そんじゃあ、おで達もそろそろ始めるとするホゥ。」


王城の中央に位置する大広間では巨大な牛男と小さな少女との戦いが始まろうとしていた。


「大丈夫、私なら出来るから。お姉ちゃんは見てて。」


少女は胸に手を当てて誰にも聴こえないように静かに囁いた。


「本当におではラッキーだったホゥ。遅れてここに来た時にはダリスト様が全部殺しちまってたホゥ。つまらない仕事だと思っていたところにこんな上玉が現れるなんてホゥ!」


ホゥガは興奮した様子で鼻息を荒立てる。


「わ、私は、そこそこ強い、です。だ、だから、そんな簡単には、やられない……」


少女の足は震えていて、今にも倒れそうに不安定だ。


ホゥガは気味の悪い笑みを浮かべ


「お前みたいな弱い女を嬲るのがどんなに楽しいか……! ああ! 滾ってきたホゥ!!」


ホゥガが一直線にミコト目掛けて飛び込んでくる。


「セ、分離(セパト)ッ!!」


ミコトは地面を素早く指でなぞり、地面がミコトの目の前に飛び出す。

ホゥガは分離した地面に直撃するも勢いは止まらず、壁まで走り抜ける。


「あ、危なかった……」


ミコトは間一髪で横に避け、攻撃から逃れた。


「あれ? おかしいホゥ……仕留めたと思ったのにホゥ?」


崩壊した壁の中から、不思議そうな顔で頭を捻るホゥガが出てくる。


「まあいいホゥ。次で両足を折ってやるホゥ!」


再度、ホゥガが勢いよく迫ってくる。


「……ッ?! 分離(セパト)!!」


ミモリはもう一度地面をなぞり、先ほどよりはるかに分厚い壁を目の前に創り出す。


「……それはさっき見たホゥ。」


ホゥガは壁に衝突する寸前で地面に自身のツノを突き刺し、急ブレーキをかける。

そして、壁の背後に回り込んで再び突進を始めようと構える。


「そこっ! 結合(ケパト)!!」


ミコトは壁より10歩ほど後ろから両手を重ね合わせた。

そして、壁と地面がものすごいスピードでホゥガを挟み込む。


「グゥァ……!!」


壁と地面に挟み込まれたホゥガは苦しさのあまり、声を上げる。


「ど、どう! わ、私だって、お姉ちゃんみたいに……ッ!!」


ホゥガの方を向き直ると、ホゥガは壁と地面を自身の拳で打ち砕いていた。


「ってて……中々効いたホゥ。でも、所詮この程度かホゥ。」


少し残念そうなホゥガの体は未だ無傷のままだ。


「そ、そんな……これが効かないなんて……」


「他の2人だったら無理だったホゥ。アイツらは貧弱だホゥ。でも、おでは強いから全く効かないホゥ!」


体に付いた小さなガレキをはたき落としながらホゥガは自慢げに語りかける。


「わ、私の力じゃ、敵わない……」


ミコトの震えはさらに酷くなっていく。


「逃げ回られるのは飽きたホゥ。そろそろ本気で足を潰させて貰うホゥ……」


そう言ったホゥガの体が徐々に巨大化し、3mは超える大牛となった。


「そ、そんな……い、いや……お姉ちゃ……ん……!」


恐怖で座り込むミコトはその巨体を見上げることしかできなかった。






「俺達も始めないか? ウズウズしてもう我慢できないんだよ。」


チーターの様な男は嬉しそうな顔で飛び跳ねている。


「そうだね。ここまで離れればあっちに邪魔は入らないだろうしな。」


「でも、俺はあのビビりくんとやりたかったんだけどね。君はもう倒したし、あんまり期待もしてないんだよな。」


「不意打ちで倒しといてよく言えるな。でも、ハッキリ言うとアンタよりは強いよ。」


「おっ! 言うじゃないか! ちょっとだけ楽しみになってきたなぁ! ところで、お前は一体何してるんだ?」


所々地面を踏みしめたり、叩いたりしているコハクを見て、ガックは不思議そうにそう尋ねる。


「気にするな。周りの状況を確かめるのがクセなんだよ。」


「ふーん。まあ、良いけど。」


ガックは屈伸をし始め、コハクはそれを静かに見つめる。


「なんだ? こないのか? こんなに隙を晒してるってのにさ。」


「行かないさ。そんな殺気放ってる奴に無闇に突っ込んだら、どうなるかくらい僕でも分かってるさ。」


「へぇ、これが読めるなんて、中々良いセンスしてるね。君ってもしかして戦いの天才なのかな?」


「いいや。視たことがあるだけさ。」


空を見上げるコハクは静かに目を瞑る。


「じゃあ、俺らもそろそろ行こうか!」


ガックが勢いよく飛び上がり、拳を構える。


「かかってきなよ。言っとくけど、さっきと違って1対1じゃ僕は負けないよ。」


「へぇ、それは面白そうだ……ねッ!!」


ガックが目にも留まらぬ速度でコハクへと飛びかかる。


コハクはそれを上に飛び上がり回避する。


「おいおい、何だよそのジャンプは……お前ほんとに人間か……いや、能力か?」


「その通りさ。僕の能力は力の蓄積だ。物体に力を蓄積させ、それを任意のタイミングで放出させることができる。今のは、地面に蓄積されていた力を放出させて、跳躍力に上乗せさせたんだよ。」


「なるほどなぁ…でも、それじゃあ遅いんだよ。こんなことにも気づかないんじゃな。」


コハクは違和感を感じて、自身の足首を見る。

そこには小さな針が刺さっていた。


「そいつは遅効性の麻痺毒だよ。あのお方の部下から借りたモンだ。じきにお前は体全てが麻痺し、動けなくなるんだよ。」


「なるほど、道理で少し足の感覚が鈍いわけだ。だが、それなら出し惜しみは無しといこうか。」


直後、ガックに衝撃が走る。

上に吹き飛ばされているのだ。


「フンッ!!」


コハクがガックの胴体に強烈な蹴りを入れる。


「ガハァッ!!」


ガックは地に落とされ、受け身も取れずに地面に転がる。


「ッ! そうか、そういうことかよ……」


「気づいたようだな。お前が準備運動をしてる間にここはもうすでに、僕のフィールドだ。」


「こりゃあ、こっちも厳しいなぁ。全身麻痺まで待ってられねぇし、俺も本気を出そうか……!!」


ガックの体が本物のチーターのようにしなやかな四足歩行獣へと変化していく。


「体が麻痺するまでに決着……か。ギリギリだな。」


「その前に切り刻んでやるさ。覚悟……はしなくてもいいか。終わるのは一瞬だしね。」


ガックの跳躍と共にコハクも足に力を込め、体を右に傾ける。


解除(ディペクト)。」


コハクの体が右へと押し出される。


「鬱陶しいなぁ……いつまでそれで避け続けるつもりだよ。」


ボーッとした表情で天井を見上げるコハクがため息を吐きながら


「まだ、かな。」


と、独り言のように呟く。


「早くしねぇと麻痺が体に回っちまうぞ? 俺もそんなつまんねぇことはしたくねぇよ。」


つまらなそうな顔で顔を伏せるガックは地面を指でいじっている。


「でも、お前らがここらでゆっくり戦ってると、あのガキ死ぬんじゃねぇのか?」


ふと、顔を上げたガックがコハクに語りかける。


「アイツら、大樹の間ってとこ目指してんだろ? あそこにはダリスト様がいるんだぜ。」


「……何だと?」


「だーから、死ぬんじゃねぇかって言ってんの。ダリスト様は俺達全員でかかっても片手であしらえると思うぜ?」


コハクにとってこれは大誤算だった。

自分が一番強い相手と戦えばリューガ達が安全に神子を救出できると考えていたからだ。

しかし、相手があの『五星卿(ごせいきょう』の1人、蛇楼卿(じゃろうきょう)のダリストとなると話は変わる。

一年前の戦争でも、王江戸の国の兵士を一番殺戮したのはあのダリストなのである。


コハクの額に汗が流れる。


「おいおい……どうしちまったってんだ? ハッハァー! なるほどな、お前今頃気付いたのか? あのガキはもう終わりだってことによ!」


ガックは豪快に笑いながらコハクを煽り始める。


「残念だったなぁ! ダリスト様はな、容赦って言葉が大っ嫌いなんだよ! あのガキはそりゃあもう無惨に斬り殺されてるだろう……ぜッ!!」


「……ぐ……ッ!!」


突如、ガックがコハクに殴りかかってくる。

コハクは咄嗟に腕を出して防いだが、左の手のひらがグシャグシャに潰れてしまっている。


「甘いなぁ、油断してる方が悪いんだぜ。あのガキのことは諦めて、大人しく俺に殺されようぜ。」


コハクはその場にへたり込み、右の拳を地面に叩きつける。


「クソ……ッ、僕がガエンさんについていけばよかった……こんなことになるなんて……ッ!!」


コハクは言葉にならない怒りをあらわにするかの様に地面に強く、拳を撃ち続ける。


「もうお終いなんだよ。お前も、あのガキもな。そろそろ麻痺が身体中に効いてきただろ? 両足とも痙攣してんじゃねぇかよ。」


コハクはつい先程から、身体がまったく動かないことを理解しながらも、右手を地面に撃ち続けようと、必死で動かそうとする。

しかし、身体はとうに動かない。


「これ以上は終わりだな。暇だしアイツらを助けに行ってみるかな。」


ガックが地面に伏せるコハクに目もくれず、その場を立ち去ろうとコハクに背を向ける。


解除(ディペクト)……」



コハクの身体が一瞬にして消える。

気配を感じたガックが振り返るも、何も見えない。


「あの野郎……どこに行……ッ!!」


周りを見渡すガックが足元を見ると、こちらに右手を向けるコハクがいた。

その右手の中には何かが握られていた。


「……これで、終わりだ……解除(ディペクト)…ッ!!」


コハクが右手をガックの腹部に当てると、ガックが目にも留まらぬスピードで壁へと押し飛ばされる。

勢いよく壁に叩きつけられたガックは白目を剥き、血を吐きだす。


「お、お前、さっき俺の打撃を食らう時、その石を左手に持ってやがったってのか……」


苦しそうに血を吐きながらガックが呟く。

コハクの右手には小さな石が握られている。


「お前じゃ、僕には勝てないよ……視てきた絶望の数が圧倒的に違うんだからな。」


「だ、だとしたら、甘かったな。俺はお前にトドメを刺すくらいの力は残ってるぜ……」


「そのよう、だな。でも、これで終わりだ……解除(ディペクト)……ッ!」


ガックが壁から衝撃を受け、宙を舞う。


「こ、ここまで、考えて、狙ってやがった……と……は。」


「ここまで、考えて相打ちなら、全然、割りには合わないな……」


地面に叩き落とされ、息を失うガックと共に、コハクも意識を失った。



少し遅れましたが、5話です!

6話はまだ執筆中なので遅れるかもしれません。

感想等、ドンドン送って頂けると嬉しいです。

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