4話 戦いの火種
「ここら辺でいいかニャ? あんまり離れすぎると、さっきの奴らに逃げられるのニャ。」
「ここで大丈夫だ。僕もリューガ達の後を追わなきゃいけないからな。さっさと終わらせようか。」
「あんまり調子に乗らない方がいいと思うニャ。ペットが犬畜生だと、飼い主もバカなのニャ。」
「そんなことはないさ。少なくとも君よりは賢いと思っているからね。」
「生意気な奴だニャ〜……早く切り刻んでやりたいのニャ。」
ベリスは自身の鋭い爪を舌でなぞりながら不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ、いいニャぁ。良い肉だニャ。犬はムカつくけどこれ以上ないくらい美味しいのニャ。しかもその犬、鍛えられてて凄く唆られるニャぁ……」
息づかいが荒くなるベリスを睨みつけるようにカイリが一歩前へ出る。
「ベス、怖がる必要はないさ。僕らでさっさと片付けようか。」
「ワンッ!!」
「それじゃぁ、こっちから行くニャ!」
ベリスが勢いよく地面を蹴り、カイリへと跳びかかってくる。
「全身身体倍化、2倍ッ!!」
体が黒い瘴気が纏い始め、カイリの体が若干大きくなる。
カイリは咄嗟に横に移動し、攻撃を回避する。
「ベス! ガンをくれ!!」
「ワンッ!」
ベスが前足に取り付けたポケットから小さな木の実ほどの大きさの鉛玉を取り出し、カイリに向かって投げる。
「部分身体倍化5倍ッ!!」
カイリの手がドス黒く変色し、鉛玉が高速で発射される。
鉛玉はベリスを捉え、
「っと、危なかったニャ。」
ベリスは飛んでくる鉛玉を軽々と避け、四肢で壁に張り付きながら舌舐めずりをしている。
「中々凶悪なモン持ってるじゃニャいか。とっとと、あの大男とガキを追いかけようと思ってたのに、こいつ、もしかしてハズレかニャぁ……」
「それは、同感だな。こんなに強いとは思わなかったよ。」
カイリの頬からは血が垂れている。
「初撃は避けたと思ったんだけどな……その爪、相当な鋭さのようだ。」
ベリスは満足そうな顔を浮かべて大声で喜び
「そりゃあそうニャ! あちしの爪はダリスト様の蛇楼剣にも匹敵するのニャ。避けたとしても、風圧に触れただけでも人を切り裂けるのニャ。」
「どうやらその通りのようだな。ベス、
あの爪には充分警戒しろよ。」
「ワンワンッ!!」
「鉛玉は中々厄介だニャぁ……先にクソ犬から殺すか、ニャッ!!」
ベスは勢いよく跳びかかってくるベリスを間一髪で躱す。
しかし、胴からは血が垂れていて、ベスは苦悶の表情を浮かべている。
「ニャァァァッッ!!! このクソ犬がぁぁ……!!」
ベリスは顔に複数の切り傷をつけ、痛みで顔を抑えて蹲っている。
その足元にはマキビシが散りばめられていた。
「ベスは普通の犬と違って賢いからな。僕の小道具を持てば、かなりの脅威になるだろ?」
「……クゥッ、ワンッ!」
「大丈夫か、ベス? まだまだ戦いは終わらなさそうだ。少し、本気を出していこう。」
「ワンッッ!!」
「犬畜生にインテリぶってるクソガキ……お前ら調子に乗りすぎニャ……」
ベリスが顔を抑えながら震えだす。
「猫だからって舐めてんじゃねェよ……クソイヌどもがッ!!」
明らかに空気が変わり始め、重く、身体の奥底にずしりとのしかかってくる。
「こっから先は、蹂躙ニャ……ッ!」
巨大な化け猫へと変貌したベリスとの第二ラウンドが始まる。
「……なァ、もう機嫌直せや。ずっとそんな調子だとやりにくいんだよ、リューガ。」
「オッチャンが悪ぃんだろうが!! あんなことされて怒んない奴なんか居るわけないだろ!!」
先ほどからずっと怒っているリューガをなだめるようにガエンが頭を掻きながら謝っているのだが、リューガは一向に受け付けない。
「でもよォ、ほんとは楽しかったんだろ? あんなに喜んでたじゃねぇかよ。」
「何言ってんだ! 俺は死んだかと思ったんだぞ!! まだ頭がグラグラするくらいだ!!」
「アイツにしてやった時はあんなに喜んでたってのに、あんま似てねぇモンなんだな。」
「ん? なんか言ったか?」
「いいや、何もいってねぇよ。昔話だ。」
「何か言ってんじゃねぇかよ……」
「っと、そんなことより、この先だぜ。」
急に止まったガエンが指差すのは突き当たりの大きな門の前だった。
「ここが、大樹の間ってやつか。」
「そうだ。俺の読みじゃ、この先に神子がいるぜ。」
「よし! それじゃあさっさと助けてアイツらに加勢しに行こうぜ!」
リューガが扉に手をかけようと扉に近寄る
「お、おい! ちょいと待てや!! 話は最後まで聞け!!」
ガエンが慌ててリューガの手を止める。
「何でだ? 神子を助けるだけだろ?」
ガエンは険しい表情を浮かべる。
「どうやら、そうもいかねぇようだぜ……中からやべぇ奴の気配がビンビンしやがる……こりゃあ一筋縄じゃいかねぇなぁ。」
「じゃあ、そいつをぶっ倒してさっさと逃げちまおうぜ! よーし! ここは俺の出番だぜ!!」
「バカヤロウ!! お前の敵う相手じゃねぇよ! だから、お前は俺が足止めしてる隙に神子を連れて避難所まで逃げろ。言っとくが、これが1番重要な事だ。敵をぶっ倒すことよりもな。」
「わ、わかったさ。神子を連れて逃げりゃいいんだな?」
ガエンは優しく微笑みながらリューガの頭を撫でた。
「そうだ。例え俺が追い詰められてたとしても振り返るな。最後の希望は神子にある。」
「頭撫でんじゃねぇ! ったく、お前は俺のオヤジ気取りかよ!!」
「オヤジ……か。懐かしいなァ……」
ガエンは遠くを見つめるように静かに頷いていた。
以上、4話です!
戦いの表現が思っていたより難しくて、自分の中で最初に考えていたものからかけ離れてしまうものもあります。
5話も明日投稿しようかなと思います。
感想や修正点など、お待ちしてます!!