3話 反撃の一閃
リューガ達は城を目指し、駆け抜けていた。
道中の敵は全てガエンが斬り飛ばしているので思っていたより早く城へと辿り着きそうだった。
「にしても、オッチャンなんでそんなに強ぇんだよ!!」
また1人の戦闘員を薙ぎ払ったガエンは豪快に笑いながら
「そりゃ、王だったからなァ! だてに『焔火の鬼神』なんて呼ばれちゃいねぇよ!!」
「なんだよそれ、初めて聞いたぞ……」
「そりゃそうだ! 俺が自分で言ってるだけだからなァ!!」
しかし、その強さは『鬼神』も怯えて逃げ出すような、凶暴さで溢れている。
身の丈程の大剣を豪快に振り回す様はあの『オーパーツ兵器』をも超えるかもしれない。
「そろそろ着きそうだなァ! お前ら、こっから敵も強くなりそうだ! 気ィ引き締めろや!!」
確かにガエンの一撃を躱す戦闘員が現れ始めている。
とはいえ、二撃目で大体は斬り飛ばされている。
「なあ、カイリ、俺たち別に来なくて良かったんじゃないのか? オッチャン1人で全部斬り飛ばしてるじゃねぇか。」
「ま、まぁ僕たちもそのうち戦う場面が来るかもしれないからな。気は引き締めておけよ。」
「おいお前ら、城に着いたぞ。」
目の前にそびえ立つのはこの街の中央に存在する王江戸の国一の大きさを誇る王城である。
しかし、ところどころ城壁が崩れて、完全に崩壊している所もある。
「大樹の間はこの城の最上階だ。お相手もウジャウジャいるだろうから油断はするんじゃねぇぞ。」
しかし、目の前には大きな鉄の城門がそびえ立つ。
「門が閉まってるな。これじゃ中に入れないな。」
突如として、空気を斬り裂くような鋭い音が耳に走る。
「ふんッ!」
ガエンの左腕が目にも見えぬ速さで振り下ろされる。
「さァてと、反撃といこうや!!」
轟音を立てて崩れる城門と共に、リューガ達は王城へと乗り込んだ。
王城の中は不自然なほど静かで、誰一人として人が居るような気配を感じない。
不思議そうな顔で周りを見渡すコハクは
「死体すら残ってないのはおかしくないかな? それに、王直属の親衛隊と神子の親衛隊があんな戦闘員如きに負けるとは思えない。」
「そりゃ、そうだな。何か嫌な予感がするぜ。」
広間にたどり着いた時、ガエンは二階からこちらを見つめる視線が3つあることに気づく。
「……おい、お前ら。戦いに備えろ。」
「どうしたってんだ? オッチャン。敵ならまた斬り倒してくれよ。」
「どうやら結構手練れのようだぜ……俺1人じゃ3人は相手できねぇかもしれねぇ。」
3つの影がリューガ達の前に降り立つ。
「へぇ、気付いてたとは驚きニャ。生きの良いのが来てくれるなんて、今日はツイてるのニャ!」
「そうかホゥ? ガキは全員弱そうだホゥ。」
「おっ! あのガキさっき逃した奴らじゃないか! また来てくれるなんて嬉しいなぁ!!」
そこに現れたのは『獣』だった。
しかし、人だとも言える。
『獣人』と呼ぶのが相応しいだろう。
「聞いたことがある。動物との親和性の高い人間はその動物の個性を能力とし発現することがあるらしい。奴らは恐らく、その類だろう。」
猫のような鋭い爪を光らせる女が
「なんニャ? あの頭良さそうなガキと忌々しい犬畜生は。あれはあちしが殺してもいいかニャ?」
荒々しく鼻息を吐く牛のような男は
「じゃあ、おではあの女をやっていいかホゥ? 女をなぶり殺すのが1番楽しいんだホゥ!」
チーターのようにしなやかな脚を持つ先程の戦闘員は
「じゃあ、俺はビビりくんにしようかな。残りは後で片付けるとするか。」
「めんどくせぇなァ……早く進まねぇといけねぇってのに……」
苛立つガエンに対して、カイリとミコトとコハクは一歩前に出て
「ここは僕たちに任せて下さい。すぐに片付けてそちらへ向かいます。」
「わ、私も、やります!」
「さっきの不意打ちのお返しをしなきゃいけないからね。あいつは僕がやるよ。」
「すまねぇが、ここはお前らに任せるぜ! リューガ、俺たちは先に行くぞ!!」
「あ、ああ、わかった! お前ら……死ぬんじゃねぇぞ……!」
「誰に言ってんのさ。1番弱いくせにね。」
「う、うるせぇ! 俺だって能力を使いこなせたらお前らなんか……」
「ほら! とっとと行け、リューガ! 僕達が相手しているうちに目的を達成するんだぞ。」
「任せとけ! お前らが追いつく頃にはもう終わらせといてやるぜ!!」
リューガはカイリ達に背を向け、ガエンに続いて走り出した。
「あの2匹は追いかけなくていいのかニャ? ダリスト様が怒るんじゃないかニャ?」
「いいんだ、ベリス。こいつらをすぐに始末してから追いかけても間に合うさ。」
「ガックの言う通りだホゥ。今はこの女をグチャグチャにしてやりたいんだホゥ。」
「ホゥガの言ってることはいつも気味が悪いニャ。正気の沙汰とは思えないニャ。」
「おい、さっきのガキ。ここじゃ戦いづらいから場所を移そうか。あっちの広間がいいな。」
「いいよ。死に場所くらいは選ばせてあげるよ。」
「言ってくれるじゃないか、虐め甲斐があるってもんだな。」
コハクと若干苛立った様子のガックは西の広間へと駆け抜けて行った。
「あちし達も移動するニャ。ホゥガの近くは戦い辛いのニャ。」
「いいだろう。僕はどこでだって構わないさ。」
カイリと楽しそうなベリスは中庭へと向かう。
「それじゃあ、おで達も始めるホゥ。すぐに死なないでくれると嬉しいホゥ。」
「……お姉ちゃん、ここは私に任せてね。」
城内で各々の戦いが始まった。
「リューガ、もう少しで大樹の間だぜ。」
リューガの意識は上の空のようで、集中が途切れている。
「あのなァ、心配なのはわかるが、少しは信じてやれやァ。アイツらもそこそこ戦えんだろ?」
「あ、あぁ、わかってるんだけど、敵も中々強敵だっただろ。」
もちろんリューガ以外の全員も敵の強さは把握していた。
あれは王直属の親衛隊に匹敵、最悪圧倒できるほどかもしれない。
「敵は強かったかもしれねぇ。だが、だからといってあそこで全員で戦って勝ったとしても、神子の所に間に合わなかったら国は終わりだ。」
「なぁ、気になってたんだけどよ。神子を助けて一体何になるんだ? 国を元に戻すほど強い能力でも持ってんのか?」
「神子は代々、大樹のお告げを授かることが出来んだよ。王江戸が今まで戦争で潰されなかったのは大樹のお告げのお陰だ。だから、そいつがありゃまだ活路が見出せるかもしれねぇ。だから、助けに行かなきゃなんねぇんだ。」
「なるほどな……でも、城がこんな状態じゃ、もう死んでんじゃねぇのか?」
「そいつは大丈夫だ。神子は大樹に近づけば近づくほど、加護が受けられんだ。大樹の加護はそんじょそこらの攻撃を一切受け付けねぇんだ。だから、緊急時になると神子は大樹の間へ向かうように言われてんだよ。」
その時、上の方で鈍い音が響く。
その轟音にガエンが一瞬足を止める。
「マズいな……この調子じゃ間に合わねぇかもしれねぇ。おい、リューガ! ちと離れてろ!!」
ガエンはその場で大剣を正面に構え、何やら力を溜めている。
空気が熱く、まるで灼熱のように周囲の温度が上がっていく。
「砕けッ! 炎我衝ッッ!!」
直後、ガエンの大剣が炎のように揺らめき、その剣先が天井に触れた瞬間衝撃が天井を砕き、空まで舞い上がる。落ちていくガレキは全て地面に着くまでに溶けて消滅していく。
リューガにとって、その一撃は鮮明に、鮮烈に記憶に深く焼き付いていた。
「近道が出来たんだ、ちょっくら飛ぶか!」
「ちょ、え、待って……」
リューガはいきなりガエンに担がれ、混乱した様子で引き攣った顔をしている。
「ゆ、ゆっくり頼むぞ……?」
「ガッハッハッハ!! そうかそうか! ほんじゃァ、歯ァ食いしばれや!!」
直後、体が壊れそうなほどの風圧がリューガに直撃する。
とんでもない衝撃と恐怖が訪れる中、リューガは泣きそうな顔で
「ふざけんじゃ、ねぇぇぇーーーッッ!!」
城中に響き渡る大声と共に、リューガとガエンは城の最上階へと辿り着いた。
3話でした!
ここから戦いが始まっていくので、書くのが楽しくなってきました!
次回もでき次第投稿します!!
感想や修正点があれば、是非お願いします!