2話 王として
遅れましたが、2話です。
「エド・ガエン……だと?」
戦闘員はエド・ガエンを名乗った男を向いて、小刻みに震えている。
「いいや、そんなはずはねぇ……! あの老いぼれの先代王は一年前にボロフ様が深手を負わせ、二度と戦線には戻って来れない体になってたはずだろ……?」
「おいおい、あんな若造に俺がやられるわけねぇじゃねぇかよォ。っと、おい、ボウズ!
無事か? 間に合ったみたいでよかったぜ。」
ガエンがリューガのもとに駆け寄り、安心そうな表情を浮かべた。
「オ、オッチャン……? なんで生きてんだ?! あの時死んでたじゃねえか!!」
ガエンは不思議そうに頬を搔きながら
「あの時ィ? 一体いつの話をしてんだお前は?」
「ラーメン屋の下に下敷きになっ…………ッ!」
リューガはさっき食べたラーメンを思い出した。
「そうか! 『濃厚なトマトのスープ』だ! あの液体はそれだったのか……」
「……おい、今なんて言った?」
ガエンは真っ青な顔で呟いた。
「あぁ……今回のは今までで一番美味かったってのに……!」
ガエンはショックのあまり、ため息を吐き頭を抱える。
「まーた仕入れなきゃなァ……とはいえボウズ、ここは一旦引くぞ! あの狼も気絶さしただけだからじきに動き出すかもしれねぇ!」
「ん?? オッチャンアイツのこと倒してくれるんじゃないのか?」
「それでもいいと思ったんだが、ソイツがやばそうだ。すぐに治療しねぇと腕が使えなくなるぞ!」
戦闘員の男は大狼に近寄り、苛立ったように頭を蹴りながら
「おいッ! 起きろってんだ! こんなことでやられてんじゃねぇよ!」
「あの狼がいなけりゃァ、アイツも追っては来ないだろ。分かったらとっとと行くぞ!」
地面に倒れていたコハクを抱き抱えてガエンは走り出した。リューガもその後を追い、ひとまずは戦線を離脱した。
そこは広場からは離れた、教会のすぐ隣にあるテントがいくつも立っていて、いわゆる、避難所というものだった。
数十人だろうか、忙しそうに食べ物を運んだり、怪我人を担いで救護テントのようなものへと連れて行く人がいて、残りは倒れた人、全てを失ったかのようにぼんやりと俯いている人がいた。
その中に見覚えのある顔があった。
「リューガ! 無事だったか!!」
カイリがリューガに近寄りホッとしたように一息つく。
「カイリ! お前ここに居たのか! どこにもいなかったから心配したぞ!!」
「店長さんに助けてもらってね。ここにいるみんながそうさ。」
「あのオッチャンが、そんなに凄かったなんてな。」
ガエンは険しい表情を浮かべ
「そうでもねぇよ。救えなかったモンが多すぎる。王として、国民は守んなきゃいけないってのにな。」
「そんな、店長さんは充分多くの人を救っているはずです。皆、貴方には感謝しています。」
「そうかァ。」
ガエンは少しだけ笑みを浮かべてすぐに真剣な表情へと戻った。
「コハクは今治療の能力を持った奴に治療してもらってる。で、こっから本題になるんだが、今アガリアが攻めてきてマズいのはこの街だけじゃなく、どうやら国全体らしいんだ。」
ガエンは顔を伏せ
「だとすると、この国はもう持たねぇかもしれねぇ。そこでだ、今すぐ城に向かって神子を助けに行かなきゃならねぇんだ。神子がいりゃあまだ立て直せるかもしれねぇ……」
「そこで、お前らについて来てもらいてぇんだよ。この街で戦えそうなのはお前ら3人しか残ってねぇからな。だから、俺と一緒に城に来てくれねぇか?」
「コハクはともかく、僕なら同行します。」
カイリは迷う暇もなく即答した。
「お、俺も、さっきはビビっちまったけど次は、戦える!!」
リューガも戦意を取り戻し、戦う意思を表明した。
そこに、影から話を聞いていたミコトが現れ、
「そ、そういうことなら私も行くよ……!」
「ミコト! 今街は危ないんだぞ! お前もそれはわかってるだろ!!」
「わ、わかってるけど、2人がピンチになった時に、助けられないのは嫌だから……」
「いいぜ、ミコトっちゃん。今は少しでも戦力が欲しい。コハクが動けない以上、ミコトちゃんが来てくれるのはありがたいぜ。」
「誰が、来れないって?」
一同が振り返るとそこには右腕に包帯を巻き、こちらへ向かってくるコハクがいた。
「コハク! もう動けるのか?!」
「ああ、腕はもう大丈夫そうだからね。それより、リューガとカイリが行くなら僕も行くよ。」
「でも……お前その腕で……」
「腕はもう大丈夫だよ。第一、僕は腕さえ動けばあんな奴倒せたんだよ。」
ガエンは笑いながら拳を打ち合わせる。
「そういうことなら、コハクも連れていく! これなら、充分戦えるってモンだなァ!!」
「ところで、お前らの『能力』はなんなんだ? 詳しく教えてくれねぇか?」
この世界における『能力』というものは600年前の戦争において偶然生まれた人々が、ごく稀に不思議な力を持ち、その力の大きさによってはオーパーツ兵器に匹敵するレベルの力を発揮するものである。
リューガ達はそんな『能力』を持ち、王からも守護者試験に推薦されるほどの実力の持ち主であった。
カイリは手を挙げながら
「僕の能力は身体能力の倍化だ。戦闘においてはコイツと一緒に戦うことになる。」
そう言い放つカイリの足元にはカイリの飼い犬のベスが凛々しい顔で構えている。
「コイツは優秀な犬でな。主に僕の戦いをサポートしてくれるんだ。」
「僕の能力は力の蓄積だよ。地面とかに力を加えて、ソレを解除するとそこから蓄積した分の力が跳ね返ってくる。」
コハクがボーっとした表情で淡々と説明する。
「私は結合と分離、物同士をくっつけたり、引き離したりすることができるんだけど、生き物はできないんだよね。」
「いい能力持ってんじゃねぇか!! で、リューガはどんなの持ってんだ?」
「……剣が使える!!」
「そりゃ、能力じゃねぇだろがァ。」
「この剣がありゃ俺は充分戦えるぜ!」
カイリがため息を吐きながら
「……リューガの能力は周囲の敵や味方、物体を全て把握できる能力です。」
「なんだァ? 結構いいの持ってんじゃねぇか。」
「……ないんです。」
「ん?」
「……こいつ、バカすぎてまともに能力を使えないんですよ。」
「……マジかよ? 能力っていやぁ、人それぞれ自分にあったものが発言するっていうのにか?」
「そうなんですよ。でも、能力抜きで戦ったら誰もリューガには勝てないというのは事実です。剣の腕においては右に並ぶ者はないでしょうね。」
「じゃ、じゃあ、それでいいか。で、作戦だが、正面突破で城を目指す。道中の敵は俺が蹴散らすから、城に入ったら大樹の間を目指すぞ。お前らには取りこぼしを潰してもらいたい。」
「分かりました。それじゃあそろそろ向かいましょうか。」
リューガは城の方を眺め
「……待ってろよ、大狼。次は逃げずに本気で戦ってやる。」
リューガの瞳には、燃え盛るような闘志が揺らめいていた。
能力についての補足ですが、能力は成長したりすることもあります。
それを踏まえて見ていただけると物語の中でリューガ達の成長を大いに感じられると思います!
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