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灼炎のリバーサル  作者: 神原綾人
1章 王江戸の国篇
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1話後編 そこにあったモノ

「イダァッッ!!」


頭に鋭い痛みを感じ、リューガは目を覚ました。


「ようやく起きたのか、寝坊助だな。」


「コ……ハク、どうなってんだ? 確かお前と特訓してる時にいきなり……ッ!!」


リューガの視線の先には右腕から大量の血を流すコハクがいた。


「お前……あの時、俺を庇っ、てそん……なことになったってのか……?」


「僕がリューガを押しのけなきゃリューガがガレキで潰れて死んでたんだよ。それに比べれば腕の一本くらい安いもんさ。」


「でも、それでも、そうだったとしても、お前がそんなになっちまったら……」


「今はそんなことどうでもいいんだ。どうやらここより国の方がマズいらしい。」


「どういうことなんだ?」


「戦争だよ。アガリアが攻めて来たんだ。」


「アガリアって、1年前に戦争を仕掛けてきて、停戦したはずじゃ…」


「アガリアの飛行船が空に見えたから間違いない。あっちが停戦協定を無視して攻めて来たんだ。でも、あっちも戦死者が大勢いてとても戦える状況とは思えない。とりあえず、街へ向かおう。カイリ達が心配だ。」


「そうだ……な。」


リューガは頭が真っ白になりながらも頷き、街を目指してコハクと共に走り出した。






「何……だよ……これは……」


リューガの脳裏に1年前の景色が蘇る。


「これじゃ、あの時と一緒じゃないか……」


街は凄惨なものだった。

家はほとんどが焼け落ち、ガレキの山に埋もれている。

ガレキの下から赤い液体が流れて出て…


「リューガ、カイリ達はこの辺にはいないみたいだ。家の方に行ってみよう。……リューガ?」


「あ、ああ…そうだな。………ッ!」

リューガは赤い液体の流れているところがあのラーメン屋だということに気づいた。

ほんの数時間前までそこにあったはずの小さな店は小さなガレキの山と化していた。


「オッチャン、こんなことって……」


「リューガ、行くぞ。」


コハクに手を引かれながら、リューガはラーメン屋の跡地から目を離せなかった。







「なあァ、ダリスト、これって高く売れるかよォ?」


身体中に宝石が埋め込まれている大男が死体を漁りながら目を輝かせている。


「知るか。そんなことより話しかけるな。殺すぞ。」


目つきが鋭く、見るものを怯ませる蛇のような男が苛立ちながら言葉を返す。


「なんだァ、おめェ。誰が殺されるってェ?」


「まぁまぁ、ブラト、そんなに怒るなよ。せっかくのディナーが台無しだぜ。」


野犬のように牙を尖らせた男が、幸せそうな顔で何かを食べている。


「うえぇ……気持ち悪……ッ! ちょっとボロフ、そのウネウネしたものは何よ!」


全身黒一色の貴族令嬢のような格好をした長身の女が顔を歪めながらボロフを睨みつけている。


「この国だと魚を生で食うって聞いてな。これはウミヘビって言うらしいぜ。うめぇなァ、おいしいなァ!! なぁ! アミラタもどうだ?」


「結構よ。どうしたらそんなモン食べようと思うのかしら……理解できないわ。」


アミラタは本気で嫌そうな顔をしながらため息を吐いた。


「……おい、ボロフ。お前は何を食べているって言ったんだ。」


「おうおう! ダリスト、お前も食いたいのか!? こりゃあウミヘビって言うんだぜ! 知らなかっただろ?」


「お前、今ヘビって言ったのか?」


「おう! そうだぜ、ウミヘビだぜ、

 ウ・ミ・ヘ・ビ」


「あらら……また始まっちゃうわね……」


「ボロフ……俺は元々3人チームが良かったんだ。事故で1人いなくなっても仕方ないよ……なァッ!!!」


ダリストが目に見えない超スピードでボロフを斬りつける。


「ったく、痛えなァ。いっつも斬られる俺の身にもなってみて欲しいもんだねぇ……」


気怠そうなボロフの肩には今もダリストの剣が刺さっているが、当の本人はまるで蚊にでも刺されたかのように平気そうな顔をしている。


「クソッ……」


ダリストはボロフの肩から剣を引き抜き、鞘へと戻した。


「アンタも何回ダリストを怒らせるのよ……ヘビの話はダリストには禁句っていつも言ってるじゃない。」


「悪かったって、ところでよォ結局残るのは誰にするんだ? 言っとくが俺は無理だぜ。これからペットに餌やりに行かなきゃならねぇんでな。」


「私もパスかしらね。これからティータイムなのよ。これ以上こんな汚いところに居られないわ。」


「俺様も無理だなァ。ここにもう用はねェんだよなァ。」


「俺が残る。このクソ野郎と1秒でも長く離れたいからな。」


「じゃあ、アミラタ、ブレト、俺たちは先に帰るとしようや。」


直後、3人は真上の飛行船へ光と共に吸い込まれて行った。


「さて、仕事といくか。たしか、神子とやらを捕獲しろとのことだったな。ならば、城を目指すとするか。」


彼らの去った広場には数百の死体が無惨に転がっていた。






「何……なんだよッッ! なんでこんなに……人が死んでんだよッッ!!」


広場へとたどり着いたリューガとコハクはその光景を見て、ただ立ち尽くしていた。


「ここの人ら、どう見ても斬り殺されている……てことは、オーパーツによる砲撃だけじゃなく敵兵士もこの戦場にいるってことなのか……? だとしたら……!」

 

コハクはリューガの手を取り走り出した。


「おい、コハク! どこ行くんだよ!!」


「ここにいたらまずい! 身を隠せる路地裏とかに逃げないと……ッッ!!」


「ってて……急に止まるなよな……」


「……リューガ、走って逃げるんだ……」


「どうしたってんだ? そんなことよりカイリ達を探しに行……」


「早く行け!!」


その怒号と共にリューガもようやく気づくことができた。


目の前に3mはゆうに超える大狼がゆっくりと迫って来ていることに。


「お? こりゃ上モノじゃねぇかよ!! ダリスト様の後を追っかけて来て正解だったぜ!! フェンリル、エサがそこに歩いてるぞ? 食べたいよなぁ? 喰いたいよなぁ!? ダリスト様はあんまりコイツにエサをやらねぇからなぁ……まあ、ペットの世話も手下の勤めか!」


リューガはその大狼を見た瞬間、足がすくんで動けなくなってしまった。


「リューガ!! 何やってるんだ! 早く逃げろ!!」


コハクの声ももはや聞こえない。


何故ならヤツは1年前に自分を庇った父親を喰らったあの大狼だからである。


逃げ遅れた自分のために大狼と1人で戦った父親を軽く捻り潰すように弄んだ、あの大狼が今再びこの場に現れたのである。


「あ……ぁ……あぁ……」


時間がゆっくりと、とても長く感じる。


コハクが大狼の懐に飛び込み、首元を蹴る、殴る、叩く、引っ掻く、だが、大狼にはもちろん何の意味もない。


大狼が前足を大きく振りかぶりコハク目掛けて振り下ろす。


右腕の動かせないコハクはなんとか攻撃を避けるものの、バランスを崩して地面に転がる。


「あーらよっと!」


「ガァァッ!!」


大狼の上にいた戦闘員がコハク目掛けて電撃銃を放ち、地面に転がるコハクに直撃した。


「シビれが解けるまではこっちのガキはエサにできないなぁ……こっちのビビリくんからいこうか!」


戦闘員が近寄って来る。


「来るなァッ! こっちに、来ないでくれッッ!!」


リューガは泣いてしまった。

両親が死んでからは一度も泣かなかったのに、あれ以来初めて泣いた。

命が惜しくて、大切で、失いたくない一心で戦闘員から逃げるように後ずさった。


「おとなしくしろよな? アイツが腹空かしてんだよ。だから、俺がお前を調理してアイツに食わせてやるんだよ。そしたら、あのお方もきっとお喜びになられて、俺も宮廷料理人として王宮であのお方のために仕えることができるかもしれない!! だからな、死んでくれや。」




「おいおい、宮廷料理人ってのは客にメシも食わさず、タラタラ喋り散らかすだけかよォ?」


見覚えのある人物だった。

嫌味ばっかり口から出てくる巨漢。

でも、そこにいるはずはなかった。



「済まねぇが、そいつぁウチの客人だ。まだお代を頂いてねぇんで、食い逃げされちゃあ困るんでなァ。明日も食いに来て、ちゃんと今までのツケを払ってもらわなきゃいけねぇんだよなァ。」


生きてるはずがない。

潰れて、グチャグチャになってただろ。

しかし、その男は以前のそれとは全く違う雰囲気を醸し出していた。



「メシ出す前に客に死なれちゃァ、料理人の名が泣いちまうぜ。」


その堂々とした態度は様になっていて、雄々しさや猛々しさで溢れている。

その男の纏う雰囲気はまるで……




「らぁめん処『我炎(がえん)』店主エド・ガエン。」


男は身の丈程の大剣を構え、そう言い放った。


「んじゃ、下準備といこうかァ!」


その男の下には地に伏せ、完全に意識を失った大狼が横たわっていた。




ここまでで1話です!

2話は今のところ分けるつもりはありませんが、長くなってしまったら分けようと思います!

感想や修正点などがあったら、書き込んで頂けるとものすごく嬉しいです!

文ができ次第2話も投稿します!!

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