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実践的聖母さま!  作者: 逆波


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32/46

事実は常に想定を超える

「すべては皆さんのためなんです!」


 レヘティ村の聴衆を前に叫んだ。

 集まる耳目に気持ちが昂る。


「心配で心配で、居ても立ってもいられず、こうしてご用意するに至りました!」


 容姿が良い、というのは実に便利だ。

 自分でいうのもなんだが、見目麗しい少女が涙ながらに窮状を案じ、憂いているというのはてきめんの効果がある。

 こればかりは元の姿、政治家畔村進ではなし得なかっただろう。


「みなさん、聖母さまのお言葉を信じてください!」


 普通ならば如何わしい、怪しいと一蹴されそうなものだが、訴求力を高めているのはサーシャの存在がある。

 マイナーとはいえ敬虔な信徒、若干融通が利かず頑固だが真面目で優しく、誰にでも分け隔てなく接する彼女の行いを村の人たちは見ている。


「薬や! ほんまもんやで!」

「よく効くっすよ!」


 薬の配り役として連れてきた樵のライハとリハヴァも一助となっているのかもしれない。

 最初こそ怪訝そうな顔もされたが、配っているのが薬と分かってからは反応も変わってきた。


「薬って本物なのかい?」

「その辺で拾ってきた……わけじゃないよね?」


 興味を持ってくれればしめたものだ。

 近寄って薬を見せる。


「長耳族に伝わる霊薬なんです! だから効きますよ!」

「長耳族? あの伝承の? おとぎ話じゃないの?」

「彼らから薬作りを教わった人たちが作りました!」

「本当なの? サーシャちゃん騙されてない?」


 伝承、というと想像し難いかもしれないが、日本的な表現をするのならば狐狸妖怪が近いだろうか。

 時には人を助け害もなす、不思議な存在から教わった薬だとすると、胡散臭くもある。


「騙されてなんていません! 効くのは本当です!」

「飲んでも平気?」

「毒は入ってないだろうね?」

「大丈夫です! ……ほら、ね」


 サーシャが一つ飲んで見せると、集まった村人たちは顔を見合わせる。

 いかに狐狸妖怪の類が作ったとしても、薬は薬。医薬品が未発達の状況で、無償で提供されるというのであれば、眉唾とは思いつつも試したくなるのが人の性というものだろう。


「私、一つもらってみるわ。ちょっと前からお腹が痛くなる時があるの」

「それはいけません! 痛みはへそより上ですか? 下ですか?」

「下よ」

「でしたらこちらです!」


 簡単なレクチャーを受けてきたサーシャが下腑の薬を渡す。


「お腹が痛くなったら飲めばいいのね」

「今飲んでも大丈夫ですよ! お水もあります」

「ありがとう。サーシャちゃんが言うなら試してみるわね」


 受けとった女性は恐る恐るではあるものの、薬を飲んだ。

 それを集まった連中も見つめている。

 丸薬を飲んだ女性はしばらく不思議そうに腹を摩っていた。


「飲んだ気はするけど、なんだかよくわからないわね」

「そんなにすぐには分かりません! だって、お薬は下腑に届いてから効くみたいですから!」

「あら、そうなの?」

「そうなんです!」


 サーシャは実に優秀だ。

 素直で愛想がよく、それでいて気遣いができる。頭も悪くない。

 まぁ、押しが強くて頑固で融通が利かないところがあるが、愛嬌の範囲と思いたい。


「他の人もどうっすか?」

「エエもんやで!」


 半信半疑といった様子の取り巻きも樵二人がすすめていく。

 一人が受け取れば、あとはなし崩し的に手に手に渡っていく。

 これを平成の世でやったら効果は薄い。しかし、ここは違う。薬どころか医療に乏しい。何よりも体を大事にしなければならない環境にある。

 初日にしては上々の成果だと思っていると、最初に薬を受け取ってくれた中年の女性とサーシャの話が続いていた。


「近頃見ないと思ったのよ。大丈夫? ちゃんと食べてるの?」

「はい! 今は聖母さまやライハさんやリハヴァさん、それにある人たちと一緒に北の森にいます。皆さん良い人ですよ!」

「ある人たち? 誰なの? まさか、悪い人たちに騙されていない?」


 女性の指摘にサーシャが私を見る。

 彼女の性格上、嘘がつけない。

 下手に隠し立てしても怪しくなるばかりだ。


「構わないよ」


 促せば頷き、話始める。


「王都から逃げてきた人たちです」

「! それって、手配書の?」


 悲鳴のような声に耳目が集まる。

 それまで、やいのやいのと騒いでいた連中がぴたりと喋るのをやめてこちらを見ていた。

 サーシャは毅然と、ライハやリハヴァは不安そうにしつつも姿勢を保っている。

三人にはこうした事態になった時は物怖じせず、堂々と振舞うようにと伝えてあったが、実践してくれて嬉しく思う。


「ここからは私が話しをしよう」


 両手を広げ、警戒する村人たちを見渡す。

 こうした事態そのものは想定済み。しかし、こんなにも早く露見するとは思わない。

 人々の関心と、知りたいという欲求を私が見誤っていた。これも一つの教訓だと思うことにしよう。


「君たちの想像通り、この薬を作ったのは手配書に書かれた人間たちだ」

「やっぱり!」

「犯罪者の作った薬だって?」

「そんなの、危ないじゃないか!」


 村人たちは手にしていたものを地面に落とし、あまつさえ踏んでしまう。

 サーシャが悲しい眼をするが、こればかりは仕方がない。

 当然の反応だろう。


「やい、お尋ね者が作ったものを配るなんてどういう魂胆だ? 何かあったらどうするつもりだ?」

「そうだ! 何が入っているかわかったもんじゃない!」

「まさか、俺たちを毒殺しよっていうのか?」


 混乱が一気に広がり、自分達の妄想をまるで事実であるかのように並べる。

 なんと愚かなことか。


「サーシャちゃんを騙して何をさせようっていうんだ?」

「アンタが現れた時から怪しいと思っていたんだ!」


 先ほどまでの懐疑的な表情を憤怒に変え、人々が迫ってくる。


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