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実践的聖母さま!  作者: 逆波


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人間素直が一番


 探し物というのは手間がかかる。

 見つけ出すためには情報を集め、人手を費やさなければならない。

 探すときに最も重要なのは金だ。

 情報も人材もタダではない。

 魔法、それに長耳族や竜人族と呼ばれる神話の中に消えてしまった存在を探すともなれば労力や金銭的な負担は莫大なものとなるであろうことは想像ができた。


「聖母様、どうかお助けください!」

「俺たちにも光をお与えください!」

「彼女が欲しいですぅ!」


 目の前で長耳族や王都からの避難民の一部が血涙を流している。

 彼らは余りだ。

 王都からの避難民は大半が女性と子供だが、少なからず男が混じっている。

 長耳族と避難民の数はほぼ同じだが、誰もが相手を得ることはできない。

 明暗が分かれることは目に見えていた。


「ふっ、まぁ、こうなるだろうな」


 同化政策を思い浮かんだところである程度差が生まれるであろうことは予想できた。

 だが、そのあとに魔法で戻る予定だったので後のことなど考えていない。しかし、結果としては残ってしまった。万が一の保険、と考えていたものを実際に使うことになろうとは……。

 これからは彼らを上手く誘導し、金を稼ぎながら魔法を探す。それもできるだけ早いうちに事を進めなければならない。そのための策はレヘティ村にいた三日間で考えておいた。今こそ実行に移す時だ。


「いいだろう、君たちの願いを聞き届ける。その代わり、いろいろと大変だ。覚悟はあるのかい?」


 私の足に縋りつかんばかりの連中と、代表であるヤヤンの顔を見る。

 暗となってしまった連中は何度も頷き、ヤヤンは別のことを憂いているからか肯定せざるを得ない。


「勿論です!」

「俺たちだって幸せになりたい!」

「もうこれ以上卑屈になるのは嫌だ!」


 言質を取ったところで深く頷き、人差し指を立てる。


「では諸君、想いを行動に移そうではないか」


 再出発だが仕方ない。

 日本が、いや、世界が私を待ち望んでいる。

 こんなところで歩みを止めるわけにはいかなかった。



     ◇


「諸君、まずは住環境の整備、具体的には新たな家を建てよう」


 長耳族の代表ヤヤンの家に大勢が集まっている。

 私の言葉に避難民の男と、長耳族の売れ残りが傾げていた。


「聖母さま、どうして家を建てるのですか? 今あるところではダメなのですか?」

「サーシャ君、良い質問だね」


 彼らの疑問を代弁するように、サーシャが手を上げる。

 ここからの説明と説得力が肝心だ。


「理由は簡単だ。女性に選ばれた者とそうでなかった者の違いは分かり切っている。君たちは不細工で不衛生だ」

「!」「!?」「??」

「聖母さま! それは皆さんに失礼です! いくら本当のことでも口に出すべきではありません!」

「!!!」「!?!?」「??!!」

「……サーシャ君、フォローになっていないよ」

「ご、ごめんなさい」

「まぁ、いい。とにかく、容姿や身なりで劣るのならそれを正すことから始めようではないか」

「聖母さま! 質問があります!」

「なにかね?」

「顔はどうにもなりませんが、身なりを整えて家の掃除をすればいいのではありませんか?」

「顔の不味さを補うための家だよ。少しくらい顔が不味かろうとも家が立派なら選択肢にも入ってくる。考えてもみたまえ、家が立派ということは生活が安定している証拠になる。この人と一緒にいれば生活に困らない、という安心感にもつながるものだ」

「なるほど! さすが聖母さまです!」

「皆も理解したかな?」

「はい!」「分かりました!」「家ですね!」


 元避難民と長耳族の売れ残りが頷き合い、新しい家を建てるために走っていった。

 モテない男と童貞は扱いやすくていい。

 それに、今の話は嘘ではない。

 戦後の日本でも独身男性が嫁をもらうために家を建てたという話はよくあった。

 住む場所、というのはそれだけ重要ということになる。

 しかし、私の真の目的は別にある。

 人を集めるには、まず入れ物が必要だ。

 私たちの世界では箱物と呼ぶ。移住政策を促進しても住む家がなければ選択肢にも入らない。

 街道や大きな町が近くにあるわけでもない、こんな辺鄙な場所に人を集めるのならば滞在場所が必須となる。逗留場所、というわけだ。


「さぁ、サーシャ君、我々は次の仕込みをしに行こう」

「お手伝いをしなくてもいいのですか? 避難民の人はともかく、長耳族は長い時間働く体力がありません」

「君はとても聡明だね。それも考えてある。ついてくれば分かるよ。ヤヤン殿には別のことを頼みたい」

「わ、私でできることでしたら如何様にも」


 ヤヤンに指示をしてからサーシャと一緒に魔法でレヘティ村へと戻る。

 向かったのは樵のライハの家。


「邪魔をするぞ」

 ノックもせずドアを開けると慌てて何かを隠すライハ、それにリハヴァも一緒にいた。これは手間が省けていい。


「うひぃ!? な、なんだ聖母様か」

「な、なんすか、いきなり!?」

「なんだ、二人で金堀の算段か?」


 隠したものの正体は分かり切っている。

 集めた砂金だろう。部屋の中を見回すと愛用の斧は刃の部分が真っ赤に錆びていた。


「突然どうしたんすか? せめてノックくらいしてください」

「それなりに儲けたとは思うが、そろそろお困りだと思ってね。前置きはなしだ。もっと儲けたくはないかね?」

「そ、そんなこと急に言われても……」

「砂金の欠点は扱いの難しさだ。この状態では使うに使えん。換金が必要だ。しかし、換金をするためには大きな町までいかなければならない上に危険が伴う。途中で盗まれでもしたら大事だ。かといって小出しに運んでも苦労が増えるだけ。効率が決してよいものではない」

「そ、それは……」


 言い淀む二人に追い打ちをかける。


「砂金は堆積地を見つければまとまって採取ができるが、一か所にある量などたかが知れている。すぐに採り尽くしてしまうはずだ。新たな堆積地を見つけるのも容易ではない。樵が本業のお前たちでは猶更だろう」

「……」「……」

「小さな壷一つで辞めておけ。そうでないと泥沼だぞ。  ん? どうだ?」


 砂金の欠点は就労に見合った利益を出し難いところにある。

 幸運が重なり堆積しているところを見つけられればいいが、そうでなければ苦労のほうが多い。

 金の輝き目がくらみ、のめりこんでは本業にも劣ることから目をそらしてしまう。

 二人が争いをしていたのは少ない金を取り合ったからではないか、という仮説があったからだ。


「二人には本業に戻ってほしい。良い木を高値で買ってくれるところがあるんだ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、もちろんだよ。金さえ手に入れば生活の質も向上し、ライハ君には嫁が来てくれるかもしれない。リハヴァ君は家族に楽をさせてやることができるよ」


 二人はこちらを真剣な眼で見ている。

 その眼差しが真剣であるほどに、私の言うことに従ってくれるだろう。


「? 聖母さま、涎が垂れていますよ」


 サーシャが口元を拭ってくれる。

 おっといけない、本音がバレてしまうところだった。


「さぁ、長耳族のところへ行こう」

「長耳族のところへ?」

「ああ、君たちを心待ちにしているはずさ」


 手を差し出し、誘う。

 人は素直が一番だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう「動き始めた!」みたいな話良いですよねー。ここまでの砂金の事とか樵たちの本業とかも回収されて、爽快感を感じます。
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