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実践的聖母さま!  作者: 逆波


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先行きの不安が募る


「さぁ、どうするんだい?」


 盗賊の統領と思しき女性に大ぶりの刃物を突きつけられ、そう迫られる。

 宣言した手前ではあるが、救うというのはとても曖昧だ。

何しろゴールがない上に判断基準は相手任せ、すべて解決してみせろと言われても問題すら明らかになっていない。


「どうするんですか?」


 サーシャまで聞いてくる。

 この子は自分の立場が分かっていないのだろうか。

 刃物と先行き不安にさいなまれながらも一人で頭をひねる。


「一つ確認させてもらいたいのだがね」

「いまさらできないとは言わせないよ」

「うひぃ……す、救うにもいろいろと準備があるのだよ」


 刃物を突き付けられるが余裕を見せるために人差し指を振って見せる。

 考えろ、隙を与えてはダメだ。

 自分に言い聞かせながら頭の中で状況を整理していく。

 これまで言葉の端々から彼女たちが何かから逃げていることは確実。それも追手を相当に恐れている。彼女たちがどうすれば納得してくれるのかが問題だ。

 考える時間を稼ぐためにも質問を重ねる。


「君たちは何人だね? さっき少し見えたんだが、正確な数は分からなかった」

「姐さん……」

「そのくらいならいいさ。小娘二人ならどうとでもできる」

「聖母さまは大丈夫です!」


 空気を読めないのが茶々を入れるが、気にしない。


「二八人だよ」


 女性の言葉に顎を摩った。

 二八人、中途半端な数だ。

 新しく村を作るにしても少なすぎる。かといってどこかに加えるには多い。


「二八人……か」

「聖母さま、どうなされますか?」

 

 本当はこんなことをしている場合ではないのだが、大きな問題が生まれてしまった。

 面倒ごとが重なりまったく光が見えない。

 暴力に怯えることなく考え事をするには腰を落ち着ける必要がある。


「面倒ごと……面倒ごとか」


 ここで天啓の如く閃く。

 こんな時こそいつもの手だ。

 目には目を、歯には歯を、問題には問題をぶつければいい。


「なるほど、わかったよ。サーシャ君」

「はい聖母さま!」

「いったん長耳族のところへ戻ろう。彼らの協力が必要だ」

「! 分かりました!」


 サーシャは分かってくれるが、盗賊たちは不審な眼をして、互いに顔を見合わせる。


「長耳族?」

「いるのか? あんなの伝説だろ?」

「嘘に決まっている!」


 彼らの言い分ももっともだ。

 私も会っていなければ疑っているところだろう。


「本当です! ここへ来たのも彼らの魔法があったからなんです!」

「魔法?」


 言葉と情報が錯綜し、このままでは収拾がつかなくなってしまう。

 なによりもサーシャに喋らせるとロクなことにならない。

 さえぎるように割って入る。


「お喋りはそこまでだ。君たちを救うには彼らの協力が不可欠、話し合いに行こう」

「長耳族? 魔法? 会うって……アタシ達を救ってくれるんじゃないのかい?」

「そのための準備だよ。サーシャ君、行こうか」

「はい!」


 この体では逃げられず、何よりも失敗しては取り返しがつかない。

 だとしたら、素直に彼らの言い分を聞き、解決してこそ光明が見えるというもの。

 そう自分に言い聞かせ、勇んで洞窟を出た。

 が、そこには見覚えのない鬱蒼とした森がある。


「聖母さま、長耳族の村ってどっちですか?」

「…………」

「聖母さま?」

「……わからん」


 啖呵を切って洞窟の外へ出てきたはいいものの、広がる鬱蒼とした木々に看板も目印も方向もない。

 どうしようかと悩んでいると、後ろから盗賊の首領格と思しき大柄な女性や、男たちが走ってきた。


「ちょっと待ちな! アンタ達、そういって逃げようと……」

「すみません、ここってどこですか?」


 女性の懸念をサーシャのボケが吹き飛ばす。

 空気が読めないのも使いようだ。


「聖母さまと一緒に出てきたのはいいのですけれど、ここがどこか、どっちへ向かえばいいのかわかりません! 教えてください!」

「あっ、いや、その……なんか調子狂うね」


 同感だ。

 しかし、この臆面のなさは好感度が高い。

 大柄な女は後ろ頭をかきながら応じてくれる。

 毒気を抜かれて疲れ気味だ。


「アンタたちが言う長耳族ってのはどこにいるんだい?」

「北の森です。でも、私の村で北の森と呼んでいただけですので本当の名前は分かりません。ここがどこなのかが分かれば行けると思います!」

「ここは……シーリ山の麓だよ」

「なるほど、シーリ山でしたか。名前は知っていますが、来たことはありませんでした」

「そうだろうね。この辺りは狼も出る、普通は寄り付かないところさ」


 森の中で出会う狼は怖い。

 まぁ、そういう場所でなければ隠れられないか。


「シーリ山の近くということはキベトの村の裏手ですね。そうすると……」

「サーシャ君、キベト村とは?」

「キベトは私や聖母さまがいたレヘティ村から街道を東に歩いて一日くらいのところにある村です。大きな川の近くで、石切りの人たちがたくさんいます!」

「東に一日? 距離感が分からんな」

「大丈夫です! 北の森まではレヘティ村と同じくらいですから!」

「……それは、ずいぶんと遠いのではないかね?」

「大丈夫です! 半日くらい歩けば着きますから!」

「は、半日も……」


 聞いただけで足が重くなる。

 送迎車が欲しいくらいだ。


「ちょっと待ちな。アンタたち二人だけだと不安だ。アタシもついていくよ。逃げられて告げ口されたらアタシたちは終わりだからね」

「そんなこと、聖母さまに誓ってしません! 必ずお救いいただけます!」

「そ、そうかい」


 姐御と呼ばれた女性と顔を見合わせて肩を竦める。

 もはや苦笑いだ。


「姐さん、一人で大丈夫ですかい?」

「一人のほうが身軽でいいさ。お前たちはみんなを守ってやるんだ。いいね」

「わかりやした」

「任せてください!」


 女性の言葉に男たちが力強く頷く。

 ずいぶんと慕われているらしい。

 そんなやり取りをみて、サーシャが笑みを浮かべる。


「お優しいのですね! 折角ですからお名前を教えてください。私はレヘティ村のアレクサンドラです」

「……本当に調子が狂うね。私はマトカだ」

「よろしくお願いします、マトカさん!」


 刃物を持っているにもかかわらず、サーシャはマトカの手を握る。


「さぁ、聖母さま、張り切って行きましょう!」

「そ、そんなに急がんでくれ」

「急がないと夜になってしまいます。狼が出たら大変なんですよ!」


 引っ張られ、歩き始める

 ここから半日、もう気が遠くなってしまう。


「私はこれからどうなってしまうんだ!?」


 不安材料が重なるばかりだった。

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