いやいや、化け物じゃなくて底辺ですが
「はん……。後悔するなよ? 俺に喧嘩売ったことをな」
ヘラヘラ笑いながら、男たちが俺ににじり寄ってくる。
ふむ……弱っちいのに、ずいぶんと自信がありそうだな?
よくよく見れば、連中が身に着けている防具はたしかに高級そうだ。
銀の兜、銀の鎧、これでもかと施された華美な装飾。
俺は武器防具には疎いからよくわからないが――なるほど、たしかに装備はすごそうだ。それゆえの慢心……ってやつかな。
「死ねやぁぁァァァァァァああ!!」
だからこそ、奴らの動きは鈍重そのものだった。
フォレストトータルといい勝負じゃないのか。
スキル発動――《フレーム回避》。
すかっ――と。
奴の剣が俺の身体をすり抜け、空気のみを切り裂いた。
「おわったったった……!?」
剣をすかった男が、慌てたように前につんのめる。
「は……?」
「どうなってんだ……?」
「いま当たったよな?」
「すり抜けたように見えたんだが……」
他の男たちも困惑の声をあげている。
外れスキルごときにこんなに戸惑うなんてな。
やはりこいつら、たいしたことない。
「頼むから投降してくれないか? こんな無駄な戦い、できればしたくないんだが」
「む、無駄な戦いだと……?」
「ああ。はっきり言ってアンタら弱い。もっと基礎レベルから鍛え直したほうがいいぜ?」
「な……な……」
途端、男がぷるぷると身を震わせる。
「この誉れ高き《バーダイク戦線》が弱いだと……? 舐めるなよ、クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
そのまま突っかかってくる男の剣を。
俺はやはり、最小限の動きでかわしていく。
《フレーム回避》さえあれば、大がかりに避ける必要がないからな。0.4秒の無敵時間をうまく利用すれば、剣はそのまま俺をすり抜ける。
当たっているように見えて、当たってない状態というわけだ。
このポンコツ相手にうまく避けられるくらいには、俺も成長したということだろう。あの3年間は、やはり無駄ではなかった。
「はぁ……はぁ……! なぜ当たらねえんだよっ! おいおまえら、すこしは手伝え!」
「お、おう……!」
攻撃が当たらないことに痺れを切らしたのか、とうとう残りの冒険者たちも俺に突撃してきた。
――が、複数との戦闘も経験済みだからな。
俺は五人の行動すべてを予測し、最小限の動きで避け続けていく。
男たちの剣は、俺の身体を通過するばかりだった。
「おいおい、おかしいだろ……!?」
「こいつ化け物か……!?」
おいおいひどいな。
人を化け物呼ばわりですか。
――まあ……投降するつもりもなさそうだし、そろそろ終わりにするか。
そう判断した俺は、ふっと大きく息を吐きだす。
スキル発動――《フレーム攻撃》。
《フレーム回避》と同じく、スキルを発動してから0.001秒から0.002に攻撃できた場合、《クリティカル》を発生させることができる。
まあ……避けることしかできない俺の、唯一の攻撃手段といっていい。
「はっ!」
かけ声とともに、俺は指一本をひとりの男の額に突き刺す。
「え……」
たったそれだけで、男はだらんと白目を剝き……
そして、そのまま膝から崩れ落ちた。
これが……クリティカルヒットとリリアスが呼んでいたもの。
クリティカルというのは――まあ、威力が何十倍にもなる必殺技みたいなもんだ。
しかも相手の防御力をも無視できるので、俺みたいに攻撃力が弱い人間にとってはぴったりのスキルである。
ちなみに指一本しか使わないのは舐めプではなく、それしかできないからだ。
なにしろクリティカルが発生する期間は本当に短い。
剣なんて持ってたら間に合わないし、指一本で攻撃するのが一番やりやすいだけのことだ。
だがそのことが、男たちには驚愕に繋がったらしい。
「おい……アーバが一撃でやられたぞ……?」
「しかも指一本……もしかしてこいつ、めちゃくちゃ強いんじゃないのか……?」
おいおい、どうしてそうなる。
俺は指一本でしか攻撃できない無能者なのに。
まあ……こいつらはそんなに強くないみたいだし、こんな俺でも強く見えるんだろう。たぶん。
「さて……それじゃ眠っててもらおうか」
「ま、待て! やめ――!」
男たちの返答を待たず、俺は指一本で全員を気絶させたのだった。
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