俺はポンコツとの戦いを始める
「お……」
《神秘の森》を抜けた瞬間、不思議な現象が起きた。
昨日まで、たしかにそこに存在していたはずの森が――跡形もなく消え失せたのである。
あとに残っているのは、だだっ広い草原のみ。
まあ、これが本来の光景なんだよな。
《神秘の森》はリリアスが作り上げたもので、その存在を知っているのは、俺と彼女だけだ。
「リリアス……」
一縷の寂しさはある。
だけど、彼女はまた会えると言っていたからな。
いまは――いまやるべきことをやろう。
とりあえず、目下の目標は冒険者登録を済ませること。
なにしろ3年も修行に費やしてきたわけだからな。
この経験が活かせるのは冒険者だろうと検討をつけた。
いかに外れスキルの所持者といえど、たぶん登録くらいはできるだろう。そこまで大活躍はできなくても、食い扶持さえ稼げればそれでいい。
「そのためには……まずは王都かな」
ここからだと、王都のギルドが一番近い。
実家のある場所でもあるので、できれば行きたくはないんだが。
まあ、あれから3年も経った。
いまさら白い目を向けられることはないだろう。
たぶん。
そう判断した俺は、王都の方向へと歩みだそうとして――
「…………っ」
突如嫌な気配を感じ、ふっと立ち止まった。
この気配は。
まさか。
俺は身をひるがえし、咄嗟に駆け出した。
3年の時を経て、スキル以外で身につけたものがある。
それが――この気配察知力だ。
《フレーム回避》を使いこなすにあたって、重要なのは相手の動きを見極めること。そのために編み出した方法のひとつが、この《気配察知》である。
外れスキル所持者なりに、できるだけ強くなっておきたかったからな。
リリアスは俺の気配察知に驚いていた気もするが……まあ、これくらいしないとナードの足元にも及ばないだろうし。
そして――数秒後。
予想通りというべきか――茂みのなかで異様な光景を見た。
男が5人。女が1人。
その女1人を、男たちが下品な笑みを浮かべながら囲んでいる。それぞれ剣だのナイフなどを手に携えているので、どう見ても穏やかな状況ではない。
対する女の子のほうは、尻餅をついたまま動けない様子だ。
怯えた目つきで男たちを見上げるばかりで、声をあげることさえできないらしい。
「げっへっへ……」
「観念しやがれよ。王女様」
「っ…………!」
うちひとりの男が剣を高く掲げたところで――
俺の身体は勝手に動いていた。
咄嗟に地面を蹴り、あらん限りのスピードで女の子のもとへ向かう。そして優しく女の子を抱きかかえ、そのまま走り抜けた。
「らぁっ!」
対する男のほうは、やっと剣を振り終わったところらしい。
もちろん、そこに女の子はいない。
フォレストタートル並に鈍重な攻撃……。たぶん、こいつらたいしたことない奴らだな。正体まではわかりかねるが、実力はそこまで高くなさそうだ。
「へっへっへ……って、え!?」
剣を振りかぶった男はやっと女の子がいないことに気づいたのだろう。
驚いたようにきょろきょろ周囲を見渡している。
うん。
やはりこいつら、たいしたことないな。
そこまでを確認した俺は、男たちからすこし離れたところで着地し、女の子を降ろす。
「さて、と。大丈夫か? 咄嗟に助けちゃったけど」
「え……? えっと……」
戸惑っているかのように目を白黒させる女の子。
「もう大丈夫さ。あいつらはなんとか倒しておくから、君は逃げな。それじゃ」
それだけ言い残して、俺は男たちの方向へと駆け出していく。
「あ、ちょっと待ってください! あの連中は危険です! 一緒に逃げ――」
背後で少女がなにか言っていた気がするが、もうそれすら俺の意識にはなかった。
戦闘する際には、あらゆる雑念を捨てる。
この3年間、俺が学んだもののひとつだ。
「よう」
「なっ……!?」
本当に、俺が少女を連れ去ったことに気づいてなかったようだな。
警戒心もあらわに、男たちが一斉に剣の切っ先を俺に向ける。
「なんだてめぇは……! まさかあの女を掻っ攫ったのは……!!」
「そうだな。っていうか、マジであれが見えてなかったのかよ」
「なんだと……!?」
「来な。てめぇらポンコツくらい、俺でもどうとでもできそうだ」
「な……な……!」
怒りが頂点に達しつつあるのか、男がぶるぶる身を震わせる。
「俺ら《バーダイク戦線》がポンコツだと……? ふざけんなぁぁぁぁぁああ!」
バーダイク戦線?
なんか聞いたことがある気がするが……まあいいか。
どちらにせよ、たいした敵ではないだろう。
そう判断した俺は、男たちからの攻撃に備えるのだった。
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