卒業のとき
結局、俺は《フレーム回避》の習得に3年も費やした。
なにしろ、このスキルは0.015秒しか効果を発揮しないわけだからな。
それ以上に攻撃時間が持続するものに関しては、回避することができない。たとえば魔法なんかがその最たる例である。
だが、これについては修行していくうちに問題ないことがわかった。
というのも……
リリアスいわく、《フレーム回避》は修行を重ねるうちに持続時間が伸びていくのだという。0.001秒ずつ伸びていくので、最初のうちは自分の成長を実感することができなかったわけだが……
今は0.4秒もの回避時間を設けることができる。
これでもまだ短いが、元の《フレーム回避》の20倍以上の効果があるわけだからな。そう考えればまあ上々だろう。もっともっと極めることもできるようだし。
《剣聖》スキルを授かり、ベルモンド学園にて至高の教育を受けているナード。
それに反し、どことも知れない森で無敵時間を0.4秒にしただけの俺。
悲しくなってしまうが、これが才能の差ってやつだろう。
それでも……俺は感謝している。
どこにいるかもわからない女性――リリアスに。
「ふふ……イスラ様、昔とはだいぶ目つきが変わりましたね」
「……そうか?」
昼。
森の家にてひとりくつろぐ俺に、リリアスがそう話しかけてきた。
「ええ。3年前はもっと尖った目をなさっていましたが……だいぶそのトゲが取れてまいりました」
「……はは。そう、かもな……」
いまにして思えば、当時の俺はだいぶ無茶をしていたと思う。
アルナス家を勘当され、ひとり王都を出た。そして聞き覚えのない女性の声に呼びかけられ――そのまま見知らぬ森に入ったのだ。
なんとも危険極まりない行為である。
「まあ……あのときは自暴自棄になってたからな……。自分の命すら、どうでもよくなってたし……。最悪、この森で死んでもいいと思ってたよ」
だが――この森で俺は思わぬ出会いを果たした。
謎の女性リリアス。
その正体はいまだ不明なれど、彼女のおかげで俺は《フレーム回避》の内容を知ることができた。
まあ、知ったところでしょせんは外れスキル。
極めたところでなにも変わらないが、すこしは自信を持てた気がする。事あるごとにリリアスが励ましてくれたわけだし、俺もひとつのスキルをそこそこ磨き上げることができた。
だから、リリアスには感謝している。
「それで……今日が《最終日》だったか?」
「ええ。私の力も長くは持ちません。この《神秘の森》は……今日で消滅するでしょう」
「誰にも見えない森を3年も作り続けた……。はは、本当にあんた、何者だよ」
この3年間、ついぞ来訪者はひとりも現れなかった。
リリアスいわく、この森は俺にしか見えないという。
だからこの森の存在には誰も気づけないわけだし、たぶん王都では俺は死んだことになってると思う。3年間も行方知らずになってるわけだからな。
だが、その森も今日で消滅。
出ていく日が訪れたらしい。
ちなみにこの《3年》という期間にも、なにかしらの意味があるとのこと。
図らずもベルモンド学園の在学期間と同じ年数になってしまったな。ナードも間もなく卒業する頃だろうし……きっと俺より強くなっているはずだ。
まあ、関係ない。
もうアルナス家と関わるつもりもないのだから。
「じゃあ……リリナス。もうあんたともお別れか」
せめて素性くらいは知りたかったが……
そう告げようとしたが、しかし彼女から返ってきた言葉は意外なものだった。
「いいえ。またお会いすることはできるでしょう。私は……しばらくお休みしないといけませんが」
「そうか……」
3年も俺に修行をつけてくれたのだ。
きっと疲れているだろうし、しばらく会えなくなるのも仕方ない。
「ですから、また会いにいってもいいですか……? イスラ様」
「……まあ、俺としては断る理由がないからな。あんたのこと、まだまだ知らないし」
「ふふ……ありがとうございます」
嬉しかったのか、リリアスがすこしだけ笑ったような気がした。
「それではイスラ様。しばしの間、お別れです。また会える日を……楽しみにしていますよ」
本格的な無双などは次回から始まりますので、どうかよろしくお願い致します!
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