彼女の優しさが身に沁みる
それから二週間が過ぎた。
この期間中、俺は謎スキル《フレーム回避》を徹底的に鍛え続けた。
なにしろ、魔物によって動き方が全然違うからな。
最初に戦ったフォレストタートルはまだ避けやすかったが、すばしっこい魔物となると途端に苦戦した。さらに魔法を使う魔物となると、どのタイミングで避けていいのかさっぱりわからない。
こうしてみると――《フレーム回避》の外れスキルっぷりを痛感させられるよな。
ナードの《剣聖》スキルは、とりあえず戦っているだけで多くの剣技を覚えると聞いたことがある。それと比べて《すり抜けバグ》はなんと地味なことか。
しかし、文句は言っていられない。
きっと今頃、ナードはベルモンド学園で最高級の教育を受けているはず。
強くなるためには、俺の努力がものをいうわけだ。
ほんと……情けない話である。
兄の俺が無職で……弟が名門学校に通っているわけだからな。
「ピギャー!!」
そんな情けない思考を繰り広げながら、俺はグリーンウルフの攻撃を避ける。
すばしっこい魔物だが、これにて100回目の《フレーム回避》に成功。
薄い光に包まれて、グリーンウルフは空中に溶けて消え去った。
「よし……こんなものか……」
長い訓練の甲斐あって、やっと無意識のうちに避けることができてきたようだ。特に苦労せずとも、自然に身体が避けるというか。
だが……まだまだだ。
いまでも、500回に1回くらいは攻撃を喰らってしまうことがある。
元のステータスが弱い俺にとっては、この1回が命取りになりかねないからな。外れスキル所持者たる者、まだまだ邁進していかねばなるまい。
「ふう……リリアス、こんなものでいいか?」
「…………」
しかしながら、彼女からの返答はない。
相変わらずリリアスの正体はわからずじまいで、彼女がどこにいて、どうやって声を発しているのかは不明だが……
それでも、俺が問いかけたときには必ず返答してくれていた。
「いえ……イスラさん、いまのグリーンウルフの攻撃に一回も当たりませんでしたよね?」
「うん? そうだが……」
「おかしいですよ! いくらなんでも強くなりすぎです!」
「そうか? そんなに難しいこととも思えんが」
「…………」
「ただ魔物の動きを察して避ければいいだけだろ? 訓練自体は、アルナス家で何度もやってきたからな」
まあ……それで外れスキル所持者だったから悲しいわけだが。
「なるほど……。今までの訓練があるから飲み込みが早いんですね……。いや、だとしても早すぎる気が……ぶつぶつ」
「いやいや……」
短い間だが、この二週間でリリアスのこともすこしわかってきた。
彼女は異様に優しいのだ。
外れスキル所持者で未来のない俺に、
「え!? もう50回避けたんですか!?」
「成長するの早すぎなんですけど!?」
「今の攻撃、昔の名剣士でもそうそう避けられませんよ!?」
というお世辞を言ってくれるのだ。
そしてそういうときは、だいたい俺が自分の無能感に打ちひしがれているとき。
だからリリアスはとても優しい性格なのだ。俺が落ち込んでいるときに、決まって励ましてくれるのだから。
「はは……ありがとな。リリアスの優しさに、いつも救われてるよ」
「いやいや!? 優しさじゃないっていつも言ってるじゃないですか!?」
「そう無理しなくてもいい。これくらいなら誰だってできるはずだしな」
「…………」
ふいに黙り込むリリアス。
これもいつものことだった。
たぶん驚いてる振りをしているんだろうが……そういうところも含めて、彼女は優しいのだと思う。
まさしく聖女の名にふさわしいほどだ。
「ほんとにもう……信じられません……」
なぜか呆れたようにそう呟くリリアスだった。
7話目から無双が始まります!
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