無駄な争いには付き合ってられない
それにしても……おかしい。
王都を走り回りながら、俺は不思議な感覚に陥っていた。
王都のこの光景。
王都のこの状況。
どこかで見たことがある気がするのだ。
もちろん、実際にはそんなことがあろうはずがない。俺が生まれてこの方、王都が襲撃されることはなかった。
にも関わらず――デジャブがあるのだ。
俺は……俺たちは、数千年前からこうなることを予見していたかのような。
――おのれ……国王ガイアに聖女リリアス……なんて厄介な……――
――覚えておくがいい……! 我が呪いは不滅! たとえ何千年経とうとも……必ずこの大陸を手中に収めてくれる――
またしても、謎の映像が脳裏に浮かび上がった。
息も切れ切れに這いつくばる俺と、おぞましい声をあげる化け物。
なんだ。俺は国王と呼ばれていたのか。
しかもリリアスって……まさか……
と。
「はっはー! ようやく見つけたぜ、イスラ・アルナスさんよぉ!!」
ふいに背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには見るも懐かしい双子の弟――ナード・アルナスの姿。
なんのつもりなのか、背後に数人の女性を引き連れている。
「ナード……久しぶりだな」
「はん! 本当に生きてやがったとはな。てっきり死んだもんと思ってたぜ、なぁ」
「…………」
俺はふうとため息をつくと、身を翻しつつ言った。
「悪いが急いでるんでね。話はあとにしてくれないか」
「そうはいかねぇなぁ。おまえを捕らえる約束をしてるからよ」
捕らえる……?
どういうことだ?
「いやいや、相手なら後でいくらでもしてやるって。いまはこんな事態だし、余計な争いをしてる場合じゃないだろ?」
「ふふん。なんだよおまえ、弟が怖いのか?」
「…………」
駄目だ、まったく会話が通じない。
ナード……昔はもっと話の通じる奴だったんだが、さらに傲慢に拍車がかかってるな。
「ナード様ぁ、なにしてるんですかー?」
「そんな奴なんか相手にしてないで、違うところ行きましょうよぉ」
取り巻きの女性たちが妙に甘ったるい声でナードに言う。
「へへ……」
そんな彼女らに、ナードはだらしない笑みを浮かべると。
「すまねぇが、個人的な用事なんだ。あいつは気に入らねぇ。この場で叩き斬らねえと気が済まねえんだよ」
……呆れた。
なんだかんだいって、ただのしょうもない私怨じゃないか。
そんなことしてる場合じゃないのに。
「そういうわけだ! 死ね、イスラぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
馬鹿っぽい叫び声とともに突進してくるナード。
奴は《剣聖》スキルを授かっているはずだが……慢心っぷりが動きに出ているな。対処は容易そうだ。
スキル発動。
《フレーム回避》。
「わわわっ……いてっ!!」
勢いよく剣を振り下ろしたあまり、ナードは体勢を崩してしまったらしい。
そのまま前につんのめり、無様に転がりまわる。
……なんだこれは、ギャグかよ。
「え……?」
「ナード様……?」
これには女性陣もドン引きである。
――こんな奴と遊んでる場合じゃないな。
一刻も早くメルア第三王女を見つけ出さねばなるまい。
いったいどこにいるのか、それがわからないが……
と。
ドクン――!
心臓が大きく高鳴り、俺の脳裏に再び映像が映り込んだ。
――ガイア国王陛下。この場所でよろしいでしょうか?――
――ああ。構わないだろう。きたるべき困難に備えて、王族専用の緊急通路は必ずや必要になる――
なんだ……これは。
またも俺が【ガイア国王】と呼ばれていて。
そして聖女リリアスが隣にいる。
しかもなにやら……重大なことを話している内容だ。
王族の緊急通路。
そう聞こえた気がする。
「む……?」
待てよ。
王族の緊急通路。
それってまさか……
そうか。
思い出した。
俺は。
俺の前世は……!
「おい、なに黙りこくってんだよクソ野郎」
恥をかかされたことを根に持っているのか、背後からナードがヤジを飛ばしてくる。
「かかってこいよ。てめぇがその気なら、俺が返り討ちにしてやるぜ」
「…………」
俺は一瞬だけそんなナードを見つめると。
「すまんが、おまえの相手なんぞしてられん。せいぜい生き残るんだな」
「な、なんだと……!?」
ぎょっと目を見開くナード。
その隙に、俺は駆け出した。
記憶に残っている王族専用の緊急通路。その場所に向けて。
「おいてめぇ、逃げるのかよ! 臆病者―!」
背後では、ナードのヤジが大きく響き渡っていた。
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