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自分のすべきこと

「え……?」


 女の子のひとりが、いっぱいに目を見開いた。

 泣き腫らした両目で俺を見上げている。


「もう大丈夫さ。魔物たちは俺が蹴散らした」


「お兄ちゃん……助けてくれたの……?」


「ああ。もちろんさ」


「えぐっえぐっ……わぁぁぁぁぁぁぁあああ!」

 いきなり胸にダイブしてくる女の子。

「怖かった……。誰も、誰も助けてくれなくって……」


「ああ。大変だったな……」


 ナード・アルナス。

 さすがは《剣聖》スキルを授かっているだけあって、まさに破竹の勢いで魔物を倒していっているようだ。


 だが――それでも俺はあいつを剣士だと認めない。


 認めてなるものか……!


「本当に助かりました。ありがとうございます」

 若い男性も俺に頭を下げてきた。

「もう、なんといっていいことか……。あなたは僕たちの恩人です」


「いえいえ……恐縮です。いまギルドで警戒態勢を張っていますから、この子たちを連れてそこまで行ってもらえませんか?」


「ええ。わかりました」

 素直に頷く男性。

「……その前に、ひとつだけ教えてください。あなたの名前を」


「…………」


 ははは……名前か。

 正直、外れスキル所持者の名前なんぞ明かしたくないんだが。


「イスラです。イスラ・アルナス……」


「へ…………」

 さすがに驚いたのだろう。

 男性は大きく見開いた。

「そうだったんですね。ちょっと驚きましたが……イスラさん。僕らにとって、あなたはかけがえのない人ですよ。あのナードよりも……」


「いえ……ありがとうございます」


「この騒ぎが落ち着いたら応援させてください。僕は……こういう者です」


 そう言って名刺を差し出してくる若い男性。


「へ? ルーアス商会の会長って……」


「ええ。このお礼は必ず。それでは……失礼します」


 若い男性は深々と頭を下げ、女の子たちを引き連れて退散していくのだった。


「私が大きくなったら結婚してください!!」


 その際、可愛らしい告白もセットだった。

 




 その後も、俺は目に入った人々をできる限り助けていった。


 動けなさそうな老人や、勇敢にも魔物に挑んでいった一般人など。


「きゃー!! ナード様、素敵!!」

「さすがナード様です!」


 ナードもナードで順調に戦えているようだな。


 助ける人間に偏りがあるのは最低だが……それでもスキル《剣聖》を授かった天才児。


 しかも聞くところによると、ベルモンド学園をダントツの成績で卒業したらしいじゃないか。


 注目を浴びるのはある意味当然。


 俺は俺で、できることをやっていかないとな……


 スキル発動。

《フレーム攻撃》。


「ギャ!!」


 悲鳴をあげながら、グリーンウルフがばたりと倒れる。


 これでだいたい120体目ほどだろうか。

 魔物の数は多いが、一匹一匹の強さはたいしたことない。正直、これくらいなら《神秘の森》のほうが楽だったとさえ思える。


 しかし、これではキリがないな。

 魔物の数が多すぎる。


 大元を叩かない限り、永遠に戦うハメになりそうだ。


 いったいどうすれば……


 ――イスラ様。メルア第三王女をお探しください。連中の目的はそれです――


「え……」


 突然聞こえてきたその声。

 まさか。


「リリアス……リリアスなのか!?」


「ええ。《バーダイク戦線》は第三王女を捕らえることで、悲願を達成しようとしています。私もすぐにそちら・・・に行きますから、どうかお助けください」


「第三王女……」


 考えてみれば、妙な話だよな。

《神秘の森》での修行が終わったその日に、王都が襲撃された。


 偶然か。必然か。


 わかりかねるが、いまは――


「わかった。あんたも見守っててくれよな、リリアス……!」


「ええ。もちろんです。愛していますよ……ガイア国王陛下」


「は……?」


 ガイア国王陛下?

 そこの部分は理解しかねたが、俺はひとまずメルア第三王女を探しに走りまわるのだった。


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