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あれのどこが剣聖なのか

「こ、これは……いったい……!」


 冒険者ギルドを出た俺は、あまりの事態に驚きを隠すことができなかった。


 王都。その大通りにて。


 さっきまで平和だったはずの町並みは、多くの魔物たちで埋め尽くされていた。かつて《神秘の森》で相対してきた魔物たちが、行きかう人々に襲いかかっている。


 ――地獄絵図。

 そう呼んでも遜色ない光景が広がっていた。


「いったいなぜ……門番たちはなにをしていたんだ……?」


 小声で呟く俺の隣に、アーレスが並んだ。


「――これが《バーダイク戦線》の厄介なところさ。……こうして、急に大勢の魔物を召喚することができる。まさか王都を攻めてくるとは思わなかったがね」


「…………」


 ひとり黙りこくる俺。


 やはりそうだ。

《バーダイク戦線》のことはよく知らないが、この短い間に決着をつけようとしてきている……!


 と。


 ――ガイア様! どうか私たちもお助けを……!――

 ――国王陛下。あなたは我らの誇りです――



 突如フラッシュバックした映像に、俺は思いっきり目を見開いた。


 なんだいまのは。

 もしかしなくても、見たことがあるような……


「どうした、イスラ君」


 ふいにアーレスに呼びかけられ、俺は我に返った。


「いえ……。なんでもありません」


「かなり重大な事態だ。ギルドも総員で戦闘にあたる。――イスラ君、まだ冒険者になったばかりの君に頼むのは申し訳ないが……君にも頼めるかな?」


「ええ……もちろんです」


 俺ごときが厚かましいことだが、さすがに四の五の言っていられる状況ではない。


 それに下っ端の《バーダイク戦線》なら俺でも充分に応戦できるからな。


 戦う相手を間違えなければ渡り合えるはずだ。


「よし……頼んだよイスラ君。君がいれば心強い」


「ええ。お任せください」


 とはいえ、俺はあくまで外れスキル所持者。

 余計なことをせず、先輩冒険者のサポートに徹しなくては……


 と。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」


 ふいに聞こえてきた叫び声に。

 あまりにも聞き覚えのあるその声に。


 俺は思いっきり目を見開いた。


「ナード様ぁ!」

「私たちをお救いくださいませ!」


 忘れもしない。


 ナード・アルナス……

 俺の双子の弟が近くで戦っているようだ。


 まあ、当たり前だよな。実家は王都にあるわけだし……襲撃してきた魔物と戦うのはなにも不自然ではない。


「きゃ―! ナード様、素敵―っ!」

「へっへっへ、そうでもねえよ?」

「ナード様! ナード様!!」


 ……気のせいだろうか?

 気配を探るに、ナードの奴、女の子しか助けていない気がするんだが。


「ぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

「ナード様! 我らにも慈悲を!!」


 なんと愚かなことか。

 女の子の叫び声以外はすべて無視している。


 ――あいつ、まさか助ける人間を選んでるってのか……!


「くそっ!!」


 いてもいってもいられなくなり、俺は咄嗟に駆け出した。

 そのまま悲鳴の聞こえた方向へ駆け寄っていく。


「ナード様! お助けをぉぉぉぉぉおおお!」

「お願いします、お願いします……!」


 どうやら建物と建物の間で魔物たちに囲まれているようだな。


 若い男性が2人、そして年端もいかぬ小さな女の子が3人。


 必死になって助けを求めているようだが、ナードは目もくれない。ばかばかしいことに、あいつが好みそうな女性のみを助けている。


 ――なにが《剣聖》だよ、ふざけやがって……!


「おおおおおおおっ!」


 スキル発動。《フレーム攻撃》。


「ギャ…………!」


 俺の突き出した人差し指によって、人間たちを囲んでいた魔物どもは声もなく倒れた。

 

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