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動き

「イスラさん、これがギルドカードになります♪」


 王都ベルモンド。

 その冒険者ギルドにて、俺は登録手続きを行っていた。


「これが……ギルドカード……」


 銅色に輝くそれを、俺はまじまじと見つめていた。


「ええ。ランクが上がることに色も変わっていきますから、どうかお楽しみになさってくださいね」


 そう言いながらはにかむのは、さっきの美人受付嬢。


 試験前はめちゃくちゃ心配してきたのに……いまはなぜか嬉しそうに俺を眺めている。


 そんなに見られると……視線の場所に困るんだが。


「あ……あの。どうされたんですか?」


「いえ、アーレスさんから期待の新人だと聞きまして♪ イスラさんはまだFランクですが、Cランクの依頼までは受けさせてもいいということで♪」


「いやいや、なに言ってんですか!?」


 そんな無茶な話があってたまるか。

 俺は外れスキル所持者なのに……明らかにおかしいだろ。


「はぁ……」

 俺はため息をつき、ギルドカードを懐にしまいながら言った。

「俺、世間のことなにも知らないんですが……そんなに切羽詰まってるんですか?」


「――ああ。まさに危機的状況だね」


 そう言ったのはBランク冒険者のアーレスだ。

 俺の隣でカウンターに頬杖をついている。


「……というか、イスラ君は山にでもこもってたのかな? これくらいの話、誰でも知ってるんだが」


「ま……まあ、そうなりますね」


 正確には森だけどな。


「……ふふ、なるほどね。それなら君の強さにも納得だ」


 幸いにして、アーレスはそこまで突っ込んでくることはせず。


 ここ3年の出来事について、ゆっくりと話し始めてくれた。


「そうだね……まず事の発端は《バーダイク戦線》が王家に宣戦布告をしたことだ。以前までも奴らは過激的な組織だったが、戦力的には取るに足らない相手だった。それがどういうわけか、3年前に急激に力をつけ始めたんだ」


「バ、バーダイク戦線……?」


「うん? どうかしたかな?」


「あ……いえ。なんでもありません」


 バーダイク戦線。

 まさかここでその名が出てくるとは。


「その……急激に力をつけ始めたっていうのは?」


「理由まではわからないがね。私でも苦戦するほどの力を身につけ始めたのさ」


「アーレスさんでも苦戦する……」


 おかしい。

 あのとき戦った《バーダイク戦線》は、そこまで強くなかったんだが。


 下っ端だった……ってことか?


「それだけじゃない。奴らは魔物まで使役できるようになった。そして大胆にも……王家をのっとると表明したんだよ」


「そんな……。王国軍やギルドはどうしてるんですか……?」


「情けないことに苦戦中だ。さっきも言った通り、奴らは魔物さえ使役できる。各地に突発的に現れる魔物に手一杯で……ずっと魔物との闘いに追われる毎日だよ」


 ……なるほど。

 それはたしかに……大変かもな。


 3年前は平穏無事な毎日が続いていたのに、ずいぶんと変わってしまったものだ。

 王都の雰囲気が暗くなってしまったのも、なんとなくわかる気がする。


「なるほど……。だからギルドはより強い戦力を求めているんですね……」


 であれば、試験の難易度が上がったのも納得がいく。

 下手をしたら、冒険者登録の初日に死んでしまう可能性もあるわけだしな。


 ――ん? 


 ちょっと待てよ。

 ふいにある予感を抱いた俺は、アーレスに疑問を投げかける。


「アーレスさん。これまでに、《バーダイク戦線》が直接王族を狙ったことはありますか?」


「む……?」

 意外な質問だったのか、アーレスが目を丸くする。

「……いや、ないはずだね。いくらこっち側・・・・が疲弊しているといっても、まだそれには早いんじゃないかな?」


「…………」


 なんだろう。

 嫌な予感がする。


 アーレスはさっき、《バーダイク戦線》が王家を狙ってるって言ってたよな?


「まさか、な……」


 その《バーダイク戦線》が、身分の高そうな女性を取り囲んでいたこと。


 いままでは直接手を出してこなかったのに、さっきメルアという女性が襲われていたこと。


 これって、もう相手側の準備が整ったってことでは……?


「アーレスさん。お願いがあります。王都周辺の警備を厚く――」 


 ドォォォォォォォォオオオン! と。 


 とてつもない轟音が響いてきたのはそのときだった。


  ★


 一方その頃。


「な、なに!?」


 第三王女――メルア・ロ・ベルモンドは大きな悲鳴をあげた。 


 今しがた聞こえた轟音。

 もしかして――


「ゴォォォォォオオオオオッ!!」


 続いておぞましい胴間声どうまごえが響き渡り、メルアは肩を竦ませた。


 次の瞬間メルアの目前に現れたのは……見るもおびただしい魔物の群れ。


 ゴーストハンドやレッドアイ、ブラッドグリズリーなど……その種類は多岐にわたる。 


「また《バーダイク戦線》……!?」


 王都にさっきまで魔物なんていなかったはずだ。

 それが急に現れたということは……奴らの仕業である可能性が高い。 


「くっ……!」 

 護衛のひとりが歯噛みしつつ、メルアの前に進み出た。

「王女殿下、私のそばを離れないでくださいませ! あなたは私めがお守りします!!」


「え、ええ……」


 発言の内容だけは頼もしい護衛だが、メルアは気づいてしまった。


 護衛の足がガクガク震えていることに。

 顔が青ざめていることに。


「イスラさん……。もしあなたが本当に王都にいるのなら、どうかもう一度……!!」


 そう神頼みしかできないのが、メルアにとってなにより情けなかった。


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