晴れて冒険者へ
試験会場はまたも静寂に包まれた。
アーレスも。
他の冒険者たちも。
誰も言葉を発さない。
ただただ無言のまま、俺を見つめるのみだった。
「……降参だ」
ややあって、アーレスがそう呟いた。
「まさか私がいいように弄ばれるなんてね……はは、完敗だよ」
「いえいえ……俺だってギリギリの戦いでしたよ」
実際にも、俺のステータスはクソみたいなもんだからな。
仮に一撃でももらおうものなら、俺は絶対に負けていた。
その恐怖心に打ち勝てたのは……きっと3年間の修行の成果だろう。
それに、アーレスはたった一撃当てただけで負けを認めてくれた。
いくら《フレーム攻撃》を発動しているといっても、Aランク冒険者がそう簡単に倒れるはずがないし……やっぱり手を抜いてくれたんだろう。
なんたって、《フレーム攻撃》もしょせん外れスキルだからな。
だから俺は、
「勝てたのはアーレスさんが手加減してくれたおかげです」
と言ったのだが。
「ん……? 手加減?」
しかしながらアーレスにはピンとこなかったようで、首を傾げるばかりだった。
「なにを言う。私は常に本気だったよ。手を抜いていたのは君のほうじゃないかい?」
「へ……?」
「だってイスラ君、ほとんど立ち位置が変わってないじゃないか。それで指一本でトドメを刺されてしまったんだから……正直、いま自信なくしてるよ」
「へ? い、いえ……これくらい普通では?」
「「普通じゃない!!」」
アーレスのみならず、他の冒険者からも強烈な突っ込みが入った。
おかしい。
なにか変なことでも言っただろうか。
立ち位置が変わってないのは《フレーム回避》があるからだし、指一本で決着をつけたのも《フレーム攻撃》を発動させるため。
なにをそんなに驚いているんだろう。
「さぁ、イスラ君!」
アーレスに笑顔で腕を掴まれた。
「君みたいな逸材はすぐに冒険者登録をすべきだ! さあ受付に行くぞ、いますぐにだ!」
「え……? いまですか?」
「当たり前だろう! ふふ、君が来てくれれば私たちもすこしは楽できそうだ」
ちょっとなんか怖いんですがそれは。
「ふふふ……さあ来たまえ。こっちだこっち!」
その後もアーレスに腕をがっしり掴まれ、俺は冒険者登録しにいくのだった。
「アーレス様があんなに嬉しそうにしているの……初めてだな」
遠くで冒険者がそう言っているのが聞こえた気がした。
★
王都ベルモンド。
その王城にて。
「イスラ・アルナスさん……ですか?」
「ええ……その可能性が高いでしょう」
メルア・ロ・ベルモンドは、執事から衝撃的な話を聞いていた。
さっき《バーダイク戦線》から自分を守ってくれた、謎の男。
彼にどうしてもお礼がしたくて、あちこちと情報を探しまわっていたのである。
短い銀色の髪に、ちょっと赤色に濡れた瞳。
王都ではあんまり見ない風貌なだけに、すぐ見つけられると思っていた。
そしてその予想は的中。
王都において、3年前に失踪したはずのイスラ・アルナスを見たかもしれないという情報が、あちこちから寄せられた。
このタイミングで、似た風貌の男が王都に現れたこと。
このことから、彼がメルアを助けてくれた可能性があるという。
――のだが。
「爺や。イスラさんって……その、外れスキルの所持者って言われてませんでしたっけ?」
「ええ。ですから私も耳を疑ったのですが……現時点で得られる有力な情報はこれくらいかと」
「ふむ……そうですか……」
難しい顔で唸るメルア。
「念のため、そのイスラさんに当たってみましょう。彼はいまどこに?」
「そこまではまだわかりません。ですが、3年ぶりに故郷に帰ってきたわけですからな。ご実家に行かれている可能性は高いと思いますよ」
「実家……そうですね……」
たしか、あそこにはナード・アルナスという名剣士がいたと記憶している。
ベルモンド学園をトップクラスの成績で卒業したわけだし、実力は折り紙つきのはずなのだが……
彼に対して、あまり良い評判を聞いたことがない。
女性に対して乱暴を働いたという噂すら広まっている。
だから正直アルナス家に行きたくはないんだが……背に腹は変えられない。
王族たる者、助けられっぱなしでなにもしないわけにもいかないのだ。
「わかりました。爺や。そのアルナス家まで……馬車を手配していただけますか?」
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