凄腕の冒険者
しん、と。
試験会場が途端に静寂に包まれた。
「え……?」
「アーレス様が吹き飛んでいった……?」
「しかもいま、指一本じゃなかったか……?」
周囲の冒険者たちは、アーレスの優しさには気づいていないようだ。
あれだけ隙だらけだったのだから、間違いなく手を抜いてくれていたはずなんだが。
だが、これは遊びの試験ではない。
俺が冒険者に向いているかどうかを決める厳正な試験だ。
おそらく……これで終わりにはならないだろう。
「ははは……面白いことをしてくれるね、イスラ君」
実際にも、アーレスはやはり普通に起き上がっていた。
すこし足がふらついている気がするが、きっと気のせいだろう。
「いまの動きは明らかに普通じゃなかった。いま、私の身体をすり抜けたね?」
「ええ。《フレーム回避》というスキルです」
「《フレーム回避》……やはり、聞いたことのないスキルだ」
アーレスは膝にこびりついた埃を叩くと、俺を見て不敵に笑った。
「合格だ。いまのはまぐれじゃない。たしかな修行に裏打ちされた一撃だったね」
瞬間、どっと周囲の冒険者が沸いた。
「マジかよ……!」
「外れスキル所持者が冒険者に……?」
「大丈夫なのかよ!?」
彼らと同じく、俺も拍子抜けしていた。
これで試験が終わり……?
あまりに呆気ない気がするんだが……
「だが」
アーレスの声が一際低くなった。
「確かめたくなった。君の可能性をね」
「…………!」
瞬間、俺は無意識のうちに防御の姿勢に入っていた。
なぜならば……
ドドドドドドドドドド……!
アーレスの周囲から真紅のオーラがほとばしり、さきほどとは比べ物にならない力を発し始めたからだ。そのオーラは天井にまで迫り、試験会場を少しだけ揺らしている。
この気迫……強い……!
「おいおい、マジか……」
「こんなアーレス様、久々に見たぞ……!?」
「ふふ」
アーレスは変わらず不敵な笑みを浮かべると、俺に向けて剣の切っ先を突き出してきた。
「イスラ君。ご存知の通り私はBランク冒険者だが……昔はAランクとして活動していたんだよ。ある事情があって、自分から降格させてもらったけどね」
「なるほど……そうでしたか……」
それなら合点がいく。
Bランク冒険者にしては周囲から尊敬されすぎている気がしたからな。
アーレスは本来Aランク相当の実力を有していて、さっきはそれを隠していたんだ。
――つまり、試験はまだ終わっていない。
「本来なら君はもう合格にしてもいいんだがね。昔の血が騒ぎ出した。――責任を、取ってくれよ?」
アーレスがニヤリと笑った、その瞬間。
彼がその場から消えた。
そして次の瞬間には、俺の首元に剣を差し向けているところだった。
――速い!
――けど、対応できない速さじゃない!
雑念を捨てろ。
あらゆる恐怖を捨てるんだ。
いままでも散々やってきたことじゃないか。
スキル発動。《フレーム回避》。
途端、アーレスの振り下ろした刀身が俺の右肩をすり抜けた。
「…………!」
アーレスはやはり驚いていたが、さっきとは様子が全然違う。
すぐさま立ち直り、俺に無数の剣撃を浴びせてきた。
「…………」
速い。
森で戦った魔物と比べても、上位といっていいほどのスピードだ。
けれど、やはりこれも《神秘の森》で訓練してきたこと。
アーレスが差し向けてくる無慮百もの剣撃を、俺は無言で避け続けた。
《フレーム回避》を成功させるコツは、下手に動かないこと。
そして時には、勇気を出して相手の攻撃へ向けて回避行動をすることが重要だ。この恐怖感にはいまだ慣れないが、それに打ち克ってこそ《フレーム回避》は成功する。
だから現在、周囲にこの応酬は珍妙に見えていることだろう。
「なんだこの戦いは!?」
「なにが起きてるのか全然わからんのだが!」
そしてアーレスはやはり凄腕の冒険者だった。
さっきのような隙は見せてこない。
《フレーム回避》で背後に回り込むことはできても、アーレスもすぐさまは振り返ってくるのだ。
……これでは埒が明かない。
だが俺はいつしか、勝利を確信するようになっていた。
このまま応酬を繰り返していれば、いずれ疲労が溜まる。そこは魔物も人間も変わらないはずだ。
そして。
「くっ……!」
167回目の剣撃を躱したところで、アーレスの動きが乱れた。
勢いあまって剣を振り下ろしてしまい、やや体勢を崩している。
――いまだ!!
俺は《フレーム回避》で剣を横方向に避けると、続けて《フレーム攻撃》を敢行。
「かっ……!!」
俺の人差し指をこめかみに当てられ、アーレスはその場に崩れ落ちた。
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