《フレーム回避》所持者、実家を追放される
※無双シーンは8話からになります!
「はぁ……おまえにはつくづく、がっかりさせられるのぅ」
俺――イスラ・アルナスは、幼少期より親からまったく愛されてこなかった。
理由はいたって単純。
弱いからだ。
生まれた頃より身体能力や魔法能力に秀でているわけでもなく、さりとて強力なスキルを持っていたわけでもない。
あるのはただ――《フレーム回避》という謎スキルのみ。
前例のないそのスキルを、誰も理解することができなかった。
――スキル名に「回避」とあるからには、敵の攻撃をかわす能力があるかもしれない――
昔こそ父からそう期待され、弟たちとともに訓練していったのだが……
結局、このスキルの効果はわからずじまいだった。
弟の剣には当然のように直撃するし、スキルを発動したからといって何かが変わった気もしない。
父ラルク・アルナスは、これが気に入らないようだった。
なにしろ、アルナス家は名門貴族として名を馳せているから。
貴族が貴族たる理由は、なにかしらの能力に特化しているから。
能力は遺伝する。
気高い血を持っている貴族が、外れスキルを持っていること――
それだけでも大きなストレスになりうるのだ。
特にアルナス家は訳あって没落の最中にある。
父の心境としても、才ある者を最優先で育てていきたいのだろう。
別に戦闘系の能力でなくてもいい。
知略に優れているのもひとつの才能だ。
けれど、俺はなにをやっても駄目だった。
剣を振っても、魔法を撃っても――なにひとつ成長しない。勉強もできない。
あるのはただ、《フレーム回避》という謎スキルだけ……
このことに、父は日に日に絶望を深めているようだった。
それに比べ、双子の弟――ナードは極めて優秀。
彼はなんと《剣聖》スキルを授かっており、剣の腕前がべらぼうに高い。
一方で魔法の才能もあるようで、それはもう父をおおいに喜ばせたものだ。
「おまえなぞ、産んでやるべきではなかった。奇病にかかって死ねばいいものを……」
だから、ごくごく自然なことだった。
父が、いつしか俺の死を願いはじめることさえも。
★
そして――15歳を迎えたある日のこと。
とうとう、運命の日がやってきたようだ。
「イスラ……わかっているな?」
「…………」
椅子にふんぞり返る父の前で、俺はただただひざまずいていた。
「ナードは見事ベルセルド学園に入学できた。これもきっと、類稀なる才能あってのことだろう」
ベルセルド学園。
それは座学はもちろん、剣や魔法など……将来有望な若者に対し、ありとあらゆる勉学を指導する学園である。
卒業者のほとんどは国の要職に就いている。
要職には就けなかったとしても、なんらかの分野で名を残している者が多い。
そしてそれだけに、入学希望者には難度の高い試験を課せられる。
そのベルセルド学園に――ナードは入れたというわけだ。
「ま、当然だよな? アルナス家の子なんだし」
よほど嬉しいのか、ナードは父の隣でニヤニヤしながら俺を見下ろしている。
「で、誰なんだっけ? 親にすがりついて試験を受けたはいいものの、ダントツ最下位で恥をかかせた馬鹿野郎は」
「…………」
「ふん、言葉も出ぬか」
黙りこくる俺に向けて、父が冷たい声を発する。
――そう。
ナードの言う通り、俺はせめてもの情けとして試験を受けさせてもらうことになった。
俺だって、才能がないことはわかってる。
でも、冒険者や王国軍のように、剣や魔法で人を助けるのが昔からの夢だった。
だから一縷の望みをかけて試験を受けたわけだが、結果は惨敗。
合格しなかった……どころの話ではない。
貴族でありながら成績最下位――そんな悪評がついてきてしまったのだ。
「わかっておるな……イスラ」
父の威圧が強さを増す。
「おまえは今日からアルナスの子ではない。せめて平民は平民らしく、慎ましく目立たぬように出ていくがよい……!」
ドサッと。
小汚い袋が投げ捨てられた。
中身は――金か。
「それだけあれば当分の生活には困るまい。どこへなりと逃げて、ひっそりと死んでこい」
「父上……」
現実を突きつけられると、改めて悲しくなる。
やっぱり……才能がすべてなのか。
父は昔から俺にだけ冷たかったけれど、それでも俺は父が好きだった。
剣の達人だから? 身分のある人だから?
違う。
俺はひとりの子どもとして、純粋に父に認められたかった。愛されたかった。なのに……
「そんな顔をするなイスラよ。ワシだってやりきれぬ思いなのだよ。――どうしてこんな無能で使えない子を産んでしまったのだとな」
「はっはっはっは! まったくですねぇ父上」
弟のナードが汚い笑みを浮かべる。
「きっと運が悪かったのでしょう。大丈夫です。俺がいるからには、イスラの分までしっかりとアルナス家を立て直してみせますよ!」
「ナード……おまえはなんと出来の良い息子なのだ……」
感激の表情を浮かべる父。
「うむうむ……出来損ないの分まで頑張ってくれ……! おまえだけが、我がアルナス家の誇りだ」
「ええ……頑張ります!」
これは……なんの茶番だろう。
俺はなにを見せられているんだろう。
父と弟はもう、俺をいないものと扱っている。
「ち、父上。これからも精進します。だからどうか……」
「やかましい! 薄汚い声を発するな、平民が!」
「平民……」
「召使いども! この部屋に汚らしい平民が紛れ込んでおる! とっととつまみ出せぃ!」
「そ、そんな! 父上! 父上――――――――っ!」
俺のそんな絶叫は、もう父には届かなかった。
こうして、俺は召使いたちに腕を無理やり掴まれ――アルナス家を追放されたのだった。
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