第一集
不仲との噂の夫婦の夫が
獣の肉を売りに来る夜
魔物の洞で裸の女が泣いている
その子はもう泣くこともないというのに
怪物を刺し殺す気安さで
恋人の胸を刺してみたいと思う
迷宮の通路で女がふっと微笑む
ここで俺は死んだのだ
ただ一度
バンシィが悲痛に啼く嵐の夜
産婆が双子を取りあげた
竜の腹から骸骨一つ
それ見て浮かぶ知り合いの面影
毒の息吹に犯されてのたうつ奴を
生かすか殺すかふと迷う
赤い月
隻眼の兎のごとく
血濡れた刃も曠野ではねる
外道の書
だんだんと崩れゆく文字
著し人の狂気を思う
地の果ての
澱んだ霧の心臓に瘴気が巡る
そのとき良心が眠りについた
目指す家
飛び立つ凶鳥の影を見て
急ぐ足を緩める
儚い人魚の淡い恋
銀の月に手向けの真珠
海の底の花婿に
誰に知られる事なく朽ちていく屍骸が
ただ一つ見つめる太陽が世界を見下ろしている
葬儀の夜妻を亡くした男を
悪魔が訪れてじっと見つめている
呪詛を吐いたその口が
今日蘇生の呪いを誦える
神が与えた火が人を
滅ぼすという終末の大予言
星辰のかがやき一つに
幾億の阿鼻叫喚の絵図を思見る
ぷかぷかと
海洋を宛もなく漂よう
瓶詰の呪いの言葉
点々と曠野を彷徨う血の行列
幽かに空いた墓の穴
失せ物を求めて水晶窺えば
一昨日殺した恋人の部屋
不死鳥の焔のごとく熱き血を
服して捕らわれ時の籠
妖刀の刀身よりなお
不気味に光る所持者の瞳
魂を戻したばかりの身体から
数匹の蠅が慌てて離れていった
死刑囚
行って帰らぬ竜退治
火刑八つ裂き晒し首
酔っぱらいが季節はずれのこの雪は
塵となった巨人の遺骨だというけれど
神の目に映る世界はこんなものかと
シャボン玉が高く浮かんではじけた