6話 魔術の授業(1)
ならば魔術を学んでみたいと考えるようになった。前世での自分は晩年魔術に傾倒していき、昔からの知り合いである元宮廷魔道士に魔術を学んでいたのである。
剣士の力とスピードを持って魔術を駆使する。最強の戦士が想像できる。しかし、前世では魔法が使える剣士と言うのはどちらも中途半端になる者ばかりで役に立たないというのが通説であった。そこで父ケイオスに頼んでみることにした。
「何、魔術を学んでみたい?確かに今の剣士は最低限の魔術が使えることが割と当たり前だ。簡単な魔術でも使えると命を助ける場合もある。特に人間相手でなく魔物相手であれば魔術は必要だ。騎士学校でも魔術は必修科目であるし、そうだな、少し考えよう」
数週間後に父ケイオスに呼ばれて応接間に向かうとそこには黒いローブのいかにも魔道士然とした人物が立っていた。その人物はローブの頭の部分を下ろすと。
「レオン、紹介する。彼女はクロエ・アマラン先生だ。これからしばらくレオンの魔術の家庭教師をもらうことになった」
「初めましてレオン君。私はクロエ・アマランと申します。これからしばらくの間レオン様の魔術の家庭教師を努めさせていただきます」
と言った。それはまだ20代の眉目秀麗な若い女性であった。
「初めまして、アマラン先生。よろしくお願いします」
「クロエで結構ですよ」
「ではクロエ先生よろしくお願いします」
「レオン、クロエ先生は年は若いが魔導学校を主席で卒業しており、宮廷魔道士としても実績がある、大変優秀な先生だ。魔術を学ぶにはうってつけと言っても良いだろう。まあ、辺境伯ともなれば宮廷魔道士の1人や2人引っ張ってくるのはそう難しいものではない」
なるほど、政治的なやりとりがあったようだが、ここは父に感謝する。
「父上、ありがとうございます。剣技とともに魔術にも励みます」
「よし、がんばれよ。レッドとヨハンはとんと魔術には興味がないらしいしな」
しかしクロエ先生の表情からは少し不満気であるように感じた。まあ、貴族の家庭教師をするのはともかく、魔道士志望ではなく騎士志望なのだから不満も出るだろう。
「じゃあレオン君、私はあなたに魔術を教えることになるけど、あなたは魔道士になりたいの?」
「剣術も魔術もどちらも使えるようになりたいです」
「あのねえ、剣術も魔術もって欲張ったらどっちも中途半端になるのよ。……でも騎士学校に入ってから困らないぐらいの魔術はちゃんと教えて上げるわ」
それからは夕方までは剣術の修行。夜になってからは魔術の修行と言うスケジュールになった。
夕食をとるとクロエ先生の授業が始まる。
「魔術の修行で基礎となるのが魔力量の増大よ。魔力量が小さいままだといくら術を磨いてもあまり威力のある魔法は使えないの。騎士学校ではこれを教えてないから大した魔術を使えないの」
と言うとクロエ先生は
「だからまず徹底的に魔力の増やすわよ。魔力が増えれば凄い魔術が使えるようになるわ」
まずは魔力の増大に絞って教えてもらえるようだ。魔力の増大は前世の魔術の修行ではなかったことなのでとても興味深い。
「あと、お父様に伝えておいてね。1日3回のお茶とデザート!これは絶対に譲れないって!」
どうやらお茶とデザートは彼女にとって最重要事項のようである。家庭教師の条件もこれだったのかもしれない。
そしてクロエ先生は昼過ぎに起き出すと、そこからは食っちゃ寝食っちゃ寝をしてだらだらと過ごしていた。夜中はなにやら研究らしきことをしているようだ。
それはさておき、魔力の増大の修行である。まず、体の中で魔力を循環させること。次に魔力を魔石の原石に魔力欠乏になるまで移していく。
魔力を体内で循環させることができないと上手く魔力を移すこともできないらしい。
魔力を移された原石は魔石となり、それなりの金額で売買されるため魔導学校の生徒が魔石作りのアルバイトをしていたり、宮廷魔道士も副業で魔石作りをしていたりする。
そういえば前世では魔力の増大なんてなかったな。魔力量は才能が全てだって言われていた。
「レオン君、近年になるまでは確かに魔力量は全て才能で決まるものだと言われていたの。でも、この魔力増大法が確立してからは魔力量は単に才能だけの問題ではなくなったわ。それでも元々の魔力量、魔力量の伸び方は才能によるものであると考えられている。現在では才能と努力、この2つが魔術には必要と考えられているの」
クロエ先生は椅子に座って、クッキーを齧りながらそう言った。
なるほど。この200年の間に魔術もかなり発展を遂げてきたようだ。では早速魔力の循環から始めてみる。
「体の中心付近に微かに魔力を感じとること。心を静め集中して」
やはりクッキーを齧りながらクロエ先生はそう言った。
魔力を感じ取ることはなかなかにできない。できないままその日は終了となった。
「最初はなかなか難しいと思うけど諦めずに頑張りましょうね」
クロエ先生は最後のクッキーを食べ終わり、お茶を飲みながら、そう慰めてくれた。