1話 転生
初めて投稿します。よろしくお願いします。
レオン・デイマーは死に臨んでいた。家族と弟子達はレオンを囲み、誰もが皆泣いていた。
もう目を開けても何も見えない。そして、思い返されるのは過去の日々。自分はあの男を超えられたのだろうか。あるいは遥かな高みにあの男はいたのだろうか。
死の予感が近づいてきた。かろうじて目を開け、ふるえる右手を差し出すとその手が握られた。
「お父様、エルザよ、しっかりして!」
娘は泣き叫んだ。強く握られた手に弱々しい力で握り返す。
「私はもう長くはない。これからは皆で力を合わせ生きて行け。ロランはいるか?」
「はい、ここに!剣聖よ!」
すらりとした長身の男が近づいてきた。目には涙を溜めている。
「弟子は多くいるがお前が一番のようだ。私が死んだ後、お前が剣聖を名乗るがよい」
「しかし、私はまだまだ未熟者で!」
「未熟さは乗り越えよ。そして皆に認めさせよ、お前が剣聖であるにふさわしいとな」
「はい、承知いたしました」
涙を溢れさせ、消え入るような声でロランは答えた。
「そして我が剣技を余すところなく後世に伝え、より良き剣技に発展を……私は少し疲れた……少し眠る」
目をつむると、自分の体が深く、重く沈むような感覚になった。そのまま深く、深く沈んで行く。そこに不安や恐れはなく、ただ安らぎがあった。そのまま意識が途切れていく。
……
……
……
それから長い、長い時が経過した。目を開け、辺りを見渡すとそこは見知らぬ部屋だった。ふと自分の手を見ると、そこには驚くほど小さな手があった。
「この体は?死んだのではなかったか?ここはどこなんだ?」
どうやら私は生まれ変わったようだ。もう一度赤子からやり直しということか?。しかし過去に戻ったのではなさそうだ。私の生家にはこんな立派な部屋はなかったはず。
確か書物には生まれ変わると記憶が全て無くなると書かれてあったが、今の私には過去の記憶が残っている。
そしてしばらく赤子としての生活を送っていくうちに少しずつ自分自身の事、周りのことが分かってきた。自分の名前は前世と同じレオン、そしてこの家はかなり裕福な貴族であること。
私はどうやら新しい人生を歩むことになりそうだ。成長すればかつて剣聖と呼ばれた剣術、そして宮廷魔導士に師事した魔術も使えるようになるだろう。
この新しい体でそれらを使えるならば、かつての私自身を超え、あの男の高みに届くのかもしれない。まあ、今となっては比べようもないのかもしれないが。
前世での家族や弟子達はどうなったのだろうか。いつか調べてみる必要があるだろう。あの男の子孫のことも。