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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転校初日の女の子に勢いで求婚したらなぜか承諾されてしまった女子の話




 趣味はなんですかと聞かれると、明確に答えることはできない。

 強いて言うのなら……女の子に抱きつくこと、だろうか。


 女の子を抱きしめると、気持ちが安らぐ。

 その柔らかさに包み込まれるような気持ちになる。


 それに、抱きしめられた女の子からの反応も、それぞれいろんな違いがあって(おもむき)深い。


 大人の雰囲気を漂わせる先輩は、よしよしと言いながら頭を撫でてくれる。

 同じクラスのあの子は、なんだかんだと文句を言いながら抱きしめ返してくれる。

 かわいらしい後輩ちゃんは、戸惑うように顔を伏せるのがかわいらしい。




 私は、女の子が好きだ。

 女の子は柔らかくて、優しくて、いい匂いがする。


 もし男に生まれていたなら、かわいい女の子に抱きつくなんて、おいそれとはできなかっただろう。

 同情するよ、世の中の男子諸君。




 あぁ、私は女に生まれて、本当に幸せだ!




 ◇◇◇◇◇




 私、奥村雅(おくむらみやび)は、どこにでもいる普通の高校二年生だ。


 勉強がちょっとだけ得意で、運動もそれほど嫌いじゃない。

 クラスの行事にもそれなりに積極的に関わってるし、先生からの信頼も厚い……と信じてる。


 自分の顔はそんなに好きじゃないけど、そんなに悪くない方だとは思ってる。たまにテレビでよく見るアイドルに似てるねって言われるし。

 身長も平均程度はあるし、体重も増えすぎないように気をつけてるつもりだ。

 ……胸だって……そんなに小さくはないはと思うんだけどなぁ……


 そんな私のスペックが災いしてか、時々よく知らない男から呼び出されて告白されたりすることがある。

 なるべく傷つけたくないし、今は男性とお付き合いするつもりはないと答えると、じゃあいつならいいか、とか聞いてくるのだ。……頼むから諦めてくれ。




 別に私だって、男が嫌いなわけじゃない。

 いつかきっと少女漫画みたいに、私にも素敵な人が現れて、恋人関係になって、結婚して、子供を産んで、素敵な家庭を持つんだろう。

 それくらいのことは考えるし、男の人とそういう関係になるのが心底嫌とか、そんなことでもない。


 ただ、昔、私のことが好きだと言ってきた男が、一日に何件もメールをしてきたり、こっそり私の写真を撮ったり、俺はあの女に告白したとか周りに言いふらしたりしてた時のことを思い出してしまうだけなのだ。

 ……思い出すだけで気分が悪くなる。立派なトラウマだわ本当に。




 別に男を生理的に受け付けないとか、そんなわけじゃない。

 男とそういう関係になるのが、今は考えられないだけ。


 今は、女の子とがいいのだ。




 ◇◇◇◇◇




 いつもと変わらないある日、登校すると、なんだか妙に教室がザワついていた。



「ひ〜めちゃん! 何かあったの?」



 クラスのマドンナ、陽芽(ひめ)ちゃんに抱きつきながらそう聞く。



「雅ちゃん! さっき先生が言ってたんだけど、今日から転入生が来るんだって!」



 陽芽ちゃんは、私の背中に手を回しながらそう教えてくれた。

 今日も陽芽ちゃんはかわいいわぁ……どうしてこの子が、三組の上田とかいう男子なんかに取られなきゃいけないのか……


 それにしても……転入生か。

 どうせなら、かわいい女の子だといいな。

 男だったら……せっかくだし、名前くらいは覚えておいてやろうかな……




 そしてやってきた転入生のせいで、私の人生は大きく変わることになる。




 ◇◇◇◇◇




前原夏鈴(まえはらかりん)です。よろしくお願いします」



 先生に促されて自己紹介をする、可憐な女の子。

 その子を見た途端に、何だか胸骨のあたりが苦しくなった。


 ……ひょっとしてこれが、世にいう一目惚れとかいうやつ……?


 肩まで伸びた綺麗な黒髪。

 小さい輪郭と整った顔立ち。

 170センチほどはあろうかという長身と、抜群のプロポーション。

 落ち着いた声。綺麗な作法。

 その上で身に纏うのは、他者を寄せつけないような冷たい雰囲気。


 簡単に言えば、圧倒的な美少女だった。

 クラスの女の子たちもかわいいかわいいと騒ぎ立てているし、男たちは下心丸出しで、その前原夏鈴と名乗った女の子を見ている。


 突然そんな子が転校してきたのだから、休み時間になれば、彼女の周りに人が殺到するのも至極当然の事だった。



「ねぇねぇ、どこから引っ越してきたの〜?」

「髪綺麗だね〜! シャンプー何使ってる?」

「ていうか〜、彼氏とかいた!? もしかして今もいる!?」

「ちょっと男子! 何変なこと聞いてんのよ!」

「でも私も興味あるな〜! 実際のとこどうなの〜!?」



 クラスメイトたちから質問攻めにあっている前原さんは、そのどれにも反応していない。

 きっと聞いてないわけじゃないんだろうけど、どの質問に対しても一言も返答はない。


 ……ひょっとして今なら、ちょっとくらい変なこと言ってもバレないんじゃないかな?


 それに、なんだかこのもにょっとした気持ちを抑えられそうにない。


 ……よし、言おう。思いの丈をぶちまけよう。

 大丈夫! みんな騒いでるし、きっと聞き間違いだと思ってくれる!



「かわいい! 好き! 結婚して!!」



 ……言った! 言ってやった!!

 何だかちょっと驚いたような顔になったけど、気のせいでしょ!


 この感じからすると、今日は仲良くなるのは無理そうだし、明日からちょっとずつ話しかけて、また今度改めて抱きつきにいこっと!


 のんきにそう考えていると、前原さんがこっちに歩いてきた。

 席の周りにいた人をかき分け、私の目の前まで一直線。

 え、何、ひょっとして冗談とか通じない人だった?


 私の戸惑いをよそに、彼女は自己紹介をしたぶりにその口を開く。



「えぇ、いいわよ」



 ……ふぇ?

 いいわよって、どういうこと?

 ……えっと、私が喋りかけてたのが聞かれてたとして、いいわよっていうのは……結婚? 結婚してって部分にいいわよって言われた??


 現実を受け入れられなくて困惑していると、前原さんは私の顎に手を当てて、顔を近づけてきている。


 ……あれ? これってキ……



「んむぅ!?」



 唇に柔らかいものが当たる感覚に戸惑って声が出そうになる。

 でも、それは声にはならなかった。何せ口を塞がれているのだから。


 ……キス……! 私のファーストキス……!!

 かわいい女の子と、キス……! それはたしかに嬉しいけれど、こんな形でなんて……!!


 ……というか、長い! すっごく長いよこれ!!




 数分とも思えるような、きっと実際には数秒だったのだろう時間が過ぎ、私の唇から前原さんの唇が離される。



「……あなた、名前は?」



 見下ろすような前原さんの熱い吐息が顔に当たる。

 顔と耳が、発火しているかのように熱い。脳も決して正常には働いてくれない。



「お、おくむら、みやび、でふ」

「そう、みやびね」



 みやび。

 今日初めて見せる微笑みと一緒にそう呼ばれると、頭が爆発しそうになった。


 そんな私を見て満足そうに、その場を離れようとする前原さん。

 ……ちがう、そうだ、さっきのいいわよって意味を聞かなきゃ……!



「あの、ま、まえはらさん……! そのーー」



 続きを言おうとした私の唇に、細くて綺麗な人差し指が置かれる。



「かりんって呼んで。みやび」



 そう言われた私は、それから何も言うことができなかった。




 ◇◇◇◇◇




 気付けば、体操服を着て保健室のベッドに横たわっていた。




 ……落ち着け。何があったか思い出すんだ。


 かりん、にキスされたところまでは覚えてる。というか忘れられるかあんなの。


 そのあと、授業、受けたっけ。

 いや、受けたことはきっと間違いないな。

 ……なんにも覚えてないし、ノートも書けてない気がするけど。また今度陽芽ちゃんに見せてもらお。


 そうだ。お昼ご飯、全然食べらんなかったな。

 なんというか、おなかいっぱいだったし……


 それで、たしか午後からは着替えて体育の授業で……あ。バレーボールしてたんだった。たしか前回の授業で、次から試合形式にするぞって言われてたんだっけ。それで……




 そうして思考をめぐらせていると、ベッドを仕切っていたカーテンが外から開かれた。



「みやび。起きたんだ」

「へっ!? なんで、かりんが、ここに!?」

「今日、体育あるなんて知らなかったから。体操服なんて持ってきてなかったし、見学してたの。それで、私が倒れたあなたをここまで連れてきた」

「そうだったんだ……ありがとう。……えっと、ちなみに、どうして私って倒れてたの?」

「顔にボールが当たって」



 ……あぁ、思い出した。試合の途中でぼーっとしてたから、敵チームのボールを受けそこねたのか。

 ……多分、普段ならしないミスだろうなぁ……


 ……それにしても、突然キスしてきた女の子がすぐそこに居たのに、全くの無防備だったなんて。

 変なこと、されてないよね?

 でも、そういえばなんか、胸元がスースーするよう……な…………!?



「〜〜〜〜!! なんで私、ノーブラなの!?」

「知らないわ。私が連れてきた時からしてなかったもの」

「なんで!? どこでブラ外したかもわかんないんだけど、なんでかりんまで知ってるの!?」

「……触り心地?」



 触られとるやないか!

 服の上からとはいえ、思いっきり変なことされとるやないか!!


 自分自身を抱きしめるように腕を交差させ、ジリジリとかりんから距離をとる。



「安心して。胸はおんぶした時に当たっただけだし。なにもしないから」



 うわぁ〜!

 突然キスしてきたっていう前科があるだけに信用ならねぇ〜!



「ねぇ、さっきの結婚って話だけど」



 必死にかりんの動きを警戒していると、今度はかりんからその話題に触れられる。

 ……そうだ! そのことについてハッキリさせておかなくちゃ!



「その、かりんが言ってたいいわよって、つまり……」

「ごめんなさい。やっぱり、私たちにはまだ早いと思うの」



 え!? なんで私が振られてるの!? 今そういう流れだった!?



「あー……なんていうかね? 口をついて出たっていうか、私もそこまで本気にされるなんて思ってなかったっていうか……だから、結婚っていうのはもう忘れて?」

「そう。……私、(もてあそ)ばれたのね」

「え゛っ!? いやいやそんなつもりじゃなくて! かりんはすっごくかわいいと思うし! こんな子と結婚できる人は幸せだな〜って思うし! だからその……結婚したいっていうのも、まるっきり嘘じゃないっていうかなんていうか……」

「ふふっ。慰めてくれるのね。ありがとう」



 うまく言葉がまとまらない。伝えたいことが伝わりきってない気がする。



「少し、私の話を聞いてもらっていい?」



 ふと、かりんがそう口にする。



「うん。いいよ。なに?」

「私ね、みやびに好きって言ってもらって、すごく嬉しかったの」



 ベッドに腰掛けたかりんは、消え入りそうな儚げな声で、さらにこう続けた。



「私、小さい頃から転校ばっかりしてきたの。それに私、こんな性格だから、みんなと上手く話せなくて。友達も全然できなくて。高校に入って、初めて一年間も同じ学校にいたわ。そこでそれなりに友達もできたけれど、でも結局転校することになっちゃった。それに、高校の転校の手続きってとっても面倒だったの。それもあって、きっと疲れちゃってたのよ」

「それは……大変だったね」

「だからここに来て、みやびが好きって言ってくれた時、すぐに友達ができるかもって期待しちゃって。わたしもみやびと友達になりたかったし、みやびのこと、好きになれたらって」

「それは分かったけど……どうしてキスまでしてきたの?」

「好意は口で伝えるよりも、行動で示した方がいいかなって」



 ……うん。この子、ちょっとやばい子かもしれない。



「ごめんね、私のこと、嫌いになった?」



 かりんの声が震えている。

 ……ズルいよ、その聞き方は。



「そんなわけないじゃん! 今日からかりんは、私の友達!」

「……ありがとう。やっぱりみやびは優しいね」



 うん、この分なら、明日からでも抱きついてよさそうかな!

 ……今日は多分、やめといた方がいいだろうけど。



「そうだ、結婚のこと、私はまだ諦めてないから」



 安心していた私に、休む暇など与えまいと爆弾が投下される。



「えっ!? さっき私振られてなかったっけ??」

「私たちにはまだ早い、って言っただけよ。少なくとも高校を卒業して、就職してお金を稼げるようになってからじゃないと」



 思ったよりもしっかり考えられてた!



「わ、私に彼氏がいるとか、そんなことは思わないわけ!?」

「えぇ。だって、キスも今までしたことなかったんでしょ? 反応を見れば、そのくらいはわかるわ」

「そりゃあ誰だって初対面でキスされたらああなると思うけどぉ!? というかかりんは随分慣れてる感じするね!? ひょっとして他のみんなにも同じことしてた!?」

「私もキスは家族以外には初めてよ。姉さんとは、よくするけど」



 し、姉妹百合……!? いくつ設定を持てば気がすむんだこの女子……!?



「それにね、私、みやびのこと、本気で好きになっちゃったみたい。だから、私と、結婚を前提に、お付き合いしてください」



 ……ひょっとして私、けっこう壮大な告白されてる?

 さっきまで初対面だったはずなんだけど? 急展開すぎない??


 ……いやまあ、先に好きって言ったのは私なんだけど……




 かりんが、真剣な顔でこちらを見ている。

 ……あぁ、なんて綺麗な顔をしているんだ。


 何回でも言うけれど、かりんはすこぶる顔がいい。

 声も聞いていて落ち着くし、スタイルも言うことがない。

 いろいろ話してくれたのは私に心を開いてくれてるから……だよね。

 それに極めつけは、たしかにあれはファーストキスだったけど、全然、嫌じゃなかったな……




 うん。好きじゃん。

 私、かりんのこと好きじゃん。



「はい……その、不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いします……」



 気付けば、そう言っていた。



「ありがとう。とっても嬉しい」



 かりんがベッドに上がってくる。

 何をしにきたのか? そんなの、決まっている。




 私とかりんの唇が重なる。

 恋人とする初めてのキス。

 それはとても甘酸っぱいもの……になるはずだったのに。


 かりんが舌を入れてくる。

 えっ、ちょっと、それはまだ早いって言うか、っていうか、なんでかりんは私の服に手をかけて……って! どこ触って……!!



「ぷはっ! 何してんの!?」



 かりんとのキスから逃げ、声を張り上げる。



「何って?」

「何で服の中にまで手を入れてそんなところ触ってるのかってこと!」

「ブラもしてないし、ちょうどいいかなって」

「ちょうどいいかなって、そんな、だって、まだ正式にお付き合いして何分ですか!?」

「時間なんて関係ない。大切なのは、愛しているかどうか」



 言っている意味が分からない。


 ……というか、この体勢は非常にまずいのでは??

 今私は、ベッドに足を伸ばしながら上体を起こした状態だ。

 その上に、かりんが私の足をまたぐように乗ってきている。


 ……あれ? ひょっとしてこれ逃げられないんじゃない??



「それとも、みやびは嫌だった?」



 うっ……だから、その聞き方はズルいって……



「……嫌じゃ……ないです……」

「まぁ、濡れてたものね」

「恥ずかしいからそういうこと言わないで!? っていうか、さっきから保健の先生は!?」

「みやびが起きる前からずっといないよ」

「だと思いました!」

「みやび、かわいい。好き」

「わ、私も好きだけどぉ……それとこれとは話が別というか、心の準備が……」

「大丈夫、優しくするから」

「ちょっと待って、本当にここで、今!? ちょっ、待っ、あっ、あぁぁ〜〜〜っ!…………」



 そのとき、校庭に咲く椿の花が一輪、ぽとりと落ちた。




 ◇◇◇◇◇




 尚、行方不明だったブラジャーは、制服と共に教室に脱ぎ捨てられていたのであった。




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[一言] ああ〜いいですね〜 主人公に抱きつかれていた子が嫉妬しちゃったりもするんでしょうか
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