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冥土の土産屋『まほろば堂』2 ~藍染着流し店主の謎解きおもてなし  作者: 祭人
其ノ七 忍姐さんのスピリチュアルなお仕事日記
68/68

7-6

 忍が東京へ旅立って数週間。

「店長、寂しくなりましたね」

「ええ」

 平日の午前九時過ぎ、開店前のまほろば堂にて。

 店主とメイドは顔を見合わせ、しみじみと言った。

「『まあ、ちょいちょい帰って来るって』とは言ってましたけど……」

 望美がそう呟いた刹那、表の扉がガラリと開いた。

 暖簾の向こうから「ただいま」と声がする。

「えっ、ただいまって。忍さん、まさかもう帰って来たんじゃろおか?」

 望美が驚く。しかし様子がどうもおかしい。

 そもそも声が違う。ハスキーボイスの忍に対して、もっと鈴が鳴るような綺麗な声だ。

 しかしその声質は、どこか忍と似たところがある。

 暖簾に映ったシルエットからすると、身長は165センチぐらいだろうか。

 女性としては高めだが、長身の忍よりかは5センチばかり低い。

「店長。もしかして、忍さんのお母様かし……ら?」

 真幌が完全に硬直している。

「店長?」

 目が点だ。口もあんぐりと開けたまま。まるで時間が止まったかのように。

 その女性が忍の母ならば、無理もないと望美は思った。真幌は妻の美咲が他界して以来、中邑家とはずっと絶縁状態なのだと忍から聞かされていたから。

 にしてもである。いつもは何事にも冷静な真幌が、こんなにも動揺する姿を見るのは始めてだ。

「てん……ちょう?」

 倉敷帆布の藍染暖簾を掻き分け、声の主が入店する。

 女性だ。

 年齢は二十三歳の望美と同じぐらいだろうか。

 しかしその美しさは、自分とは圧倒的に異なると望美は率直に感じた。

 長いストレートの黒髪に透き通るような白い肌。人形のように整った顔立ちだ。

 病的なまでに細い肢体に、レースの白いワンピースとつばの長い帽子を纏っている。

 忍も美人だが、更にその上を行く麗しさだ。

 望美は「ま、まさか⁉」と唸った。

 その来客の麗しき顔には、望美にも確かな見覚えがある。

 忘れもしない。以前、忍のスマホの画面に映っていた女性だ。

 例えるならば、ハナミズキの可憐な白い花。

 その女性は六年前に他界した筈の――。

「ただいま、まーくん」

 蒼月美咲だった。


(シーズン3へ)


☆あとがき


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

シリーズ第二弾、色々あって前作より約二年ぶりの再開となってしまいました(汗

前回とは異なり連作短編の形式です。新キャラも増えて人間模様も多彩に。書いていてとても楽しかったです(特に、ももちゃんスペシャルサンクス!)

ここにきて、ようやく本来描きたかったスタイルに落ち着きました。


今回は、望美の成長にも重点を置いてみました。

前作では引っ込み思案で頼りなさげだった彼女も、随分と落ち着いて今ではひとり歩き。娘を見守る親のような気持ちで取り組めました。


次回シーズン3で完結の予定です。

また、しばらく間を開けると思いますが(←今度は何年先だ?)気が向いたら結末を書きますね。

ぼくらのマツリは、ここからはじまる。


光明寺祭人


【2020年 春 初稿:約13万文字 執筆期間:約1ヶ月】

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