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年始の吉備津神社。
県を代表する有数の仏閣であるこの場所の初詣は、今年も大勢の参拝客で賑わっていた。
拝殿の控室。紋付き袴の和装姿をした中邑忍の帯を、お付きの巫女がぎゅっとしめ直す。
忍は腹部を、パンと威勢よく叩いた。
「さてと。そろそろ、おっぱじめるわよ」
職業霊媒師である彼女は、当神社にて行われる毎年恒例『新年ご祈願厄除け』でのお祓い要員に、今年も外部委託として駆り出されていたのだ。
「忍さんっ。よろしくお願いしますね!」
巫女の桃香が、ペコリと頭を下げる。ひまわりのような笑顔と、白桃のようなぽっぺが特徴の元気な女子高生だ。
彼女の苗字は吉備津。この神社の跡取り娘なのである。
「オッケー。任せといて、ももちゃん」
拝殿大広間。
老若男女、大勢の参拝客が正座している。その数は概ね百名を超えている。
静まり返る大広間の壇上に、上手から颯爽と霊媒師が現れた。
背の高い美人の女性だ。スタイルも、すらりとファッションモデルのようである。
ストレートロングの黒いぱっつん前髪には、白い鉢巻が結ばれている。
「お待たせしました。僭越ながら、これより祈祷を始めさせて頂きます」
首には黒光りする大きな数珠。手元にも小ぶりな数珠が握られてある。
手にした数珠を、天高く振り上げる女性霊媒師。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸わえ給え」
霊媒師はすうと息を呑むと、芸能界仕込みの腹式呼吸で盛大にハスキーボイスを張り上げた。
「悪霊退散!」
※参考サイト
神社本庁「神道での唱えことばについて」
https://www.jinjahoncho.or.jp/omairi/osahou/tonaekotoba