表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/68

4-6

 ハッと振り返ると、黒いサマーパーカー姿の美少年が、ニヤニヤしながら横からスマホ覗き見している。

 黒猫マホだ。真幌に憑依したまま、子供の姿で戻ってきたのだ。

「業務中に私用スマホは、いーけないんだーいけないんだー♪ てーんちょーに言うちゃあろー♪」

 おちゃらけた口調のマホ。相変わらずの人を食った態度だ。

 望美は真っ赤な顔をして「こ、これは」と、スマホをさっと隠した。 

「つうか最近、同窓会で再会した幼馴染の男の子といい感じなんだって?」

「……マホくん、どうしてそれを?」

「隠しても無駄だよ。神さま仏さまボクさまは、すべてをお見通しなのさニヤニヤ」

「べっ、別にそんなこと」

「いいねえ、若いっていいねえニヤニヤ」と誰よりも見た目に若いマホが言う。

 そんなマホの頭上から突然、バッシーン! と乾いた音が響いた。

「痛って―!」

「何がお見通しよ、この色ガキが。それってセクハラだかんね」

 全身黒ずくめのライダーズファッション。忍の登場だ。

「なにすんだよ、しのぶちゃん。そっちこそパワハラじゃんか!」

「お黙りなさい、この悪徳オーナーが。あんまり調子に乗ってると、従業員へのセクハラで最高神うえに通報するわよ。ついでに店長まほろへの日常的なモラハラもね」

「へっ、なに言ってんだか。だいたい人間のしのぶちゃんが、どうやって最高神おかみに通報すんのさ」

 今度は忍がニヤリと笑う。

「アンタ最近、ハナって白猫にチョイチョイちょっかい出してるでしょ」

「ゲッ、なんでそれを?」

「おねえさまは、何でもお見通しなのよ。アタシの情報網をナメてもらっちゃあ困るわね」

 忍は職業霊媒師。この周辺の心霊情報には、詳しくて当然なのだ。

「アンタのセクハラとモラハラ、あの子にチクっとこうかしら。そしたら天界うえまで筒抜けよ」

 忍がつんつんと天井を指差す。

「えー、それだけは勘弁してよ。モラハラはともかくセク……ハラの……方はさあ……」

 語尾が、ごにょごにょと小さくなる。

「なんでよ?」

「そ、それは……」

「ふーん、そういうことか。あのハナって子、性格はクールでツンツンだけど、顔は結構可愛いもんねニヤニヤ」

「そっ、外回り営業行ってきまーす。つうわけで、のぞみちゃん。店番よろしくう~」

 少年の姿をした黒猫は、尻尾を巻いて退散した。

「まったく。営業営業って言いながら、いつもどこほっつき歩いてんだか」

 望美は「いらっしゃい。助けてくれてありがとう」と頭を下げた。

「良いって、良いって」

「忍さん。最近、よく店に顔出されますね」

「ああ、真幌に頼まれごとされてるんだよね」

「何をですか?」

「ちょっとした特別講師よ。アタシの力で、シャンとさせたいんだってさ」


 仕事帰り。いつもの倉敷商店街を歩きながら、望美が呟く。

「忍さんの頼まれごとって、何じゃろお。霊媒師として霊魂たちに特別講演会とか?」

 その光景を望美は思い浮かべた。

『ほらほら、ちょいとそこの生霊あんた地縛霊あんた浮遊霊あんたも!』

『『『はっ、はい!』』』

『あんらた、最近たるんでるわよ。ほら、シャンと背筋伸ばしてシャッキリせんかい!』

『『『『ぎょ、御意ぎょいっ!』』』

 想像しただけで、ぞわりとする望美だった。


 ◇


 翌日。

 夕日が差し込む店頭でほうきを掛ける望美の前に、来客が訪れた。

「いらっしゃいませ。ですが、あいにくと本日は閉て……んっ⁉」

「こんばんは、のぞみちゃん」

 それは幼馴染の藤宮樹だった。

 突然の来店に「ど、ど、どうしたの?」と望美は動揺する。

「仕事で倉敷の方まで来たんで、そのついでにね。へえ、ここがのぞみちゃんの職場か」

 樹が物珍しげに店内を見渡す。

「かのんちゃんからは聞いてたけど、レトロモダンでお洒落なお土産屋さんだね。たしか、奥はカフェなんだよね」


 マスカット・オブ・アレキサンドリアのフレッシュスムージー。それをカウンター席に差し出す望美の背後から「いらっしゃいませ」と、男性の落ち着いた声が聞こえてきた。

「はじめまして、店主の蒼月と申します」

 藍染着流し姿の長身で白髪の店主だ。179センチの樹よりも幾分か高い。

「うちの店員スタッフのお知り合いだそうで。ご来店、真にありがとうございます」

「ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、のぞみちゃ……逢沢さんの旧友の藤宮と申します」

 互いに挨拶を交わすと、真幌は「では、ごゆっくり」と奥へ引っ込んだ。

 真幌を目線で追いかける望美に、樹が問い掛ける。

「あのさ、のぞみちゃん。今週の日曜ってシフト空いてるかな」

「え?」

「実は牛窓の方まで、取引先のスポーツ用品店に届け物があるんだけど。せっかくの休日だから、そのまま観光がてらにドライブしようと思ってね」

 自分は東京帰りで、あまり地元の名所を観光したことがないのだと付け加えた。

「で、良かったら一緒にどう?」

「いっくん……」

 初恋の人からのデートの誘い。嬉しくない筈がない。

 内心、すこし浮足立つ望美だった。しかし。

「誘ってくれて、ありがとね。でも、日曜日はちょっと……」

 観光地の土産屋である昼のまほろば堂は、土日祝が忙しい。それに先日、同窓会で週末に休んだばかりだ。これ以上、店に迷惑を掛ける訳にはいかない。

 それに何より、自分には密かに想いを寄せている人がいる。そんな自分が他の男性とふたりきりで、ドライブなんてして良いわけがない。そんな風に考える古風な望美だった。

「そっか、だよね。観光地のお土産屋さんの仕事だもんね。残念だけど、諦めるよ。いきなりの無茶ぶりで悪かった。ごめん」

 樹が申し訳なさそうな顔をする。

「ううん」

 申し訳ないのはむしろ自分の方だと、望美がフォローを入れようと思った矢先。

「丁度、良かったです」

 望美が「えっ、店長?」と振り返る。

 いつの間にやら、再び真幌が傍に姿を表していた。

「藤宮さん。そういう事でしたら、日曜日に彼女を牛窓まで乗せて行って頂けませんでしょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ