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4-4

「のぞみちゃん、俺のこと覚えてる?」

「えっと…………」

「えー、彼のこと覚えてないの?」

 華音は頬を膨らませた。

 青年が「しょうがないよ、だって十年以上ぶりだもんね」とフォローを入れる。

 少しだけ間を開け、望美は上目遣いで答えた。

「もしかして…………いっくん?」

 青年が、ぱっと爽やかな笑顔を浮かべる。

「正解。嬉しいな、覚えててくれて」

 その青年は、小学校五年生の秋に転校して行った藤宮ふじみやいつきだった。

「いっくん。なんか、すごく印象変わったね」

 望美が驚く。当時の樹は、無口でおとなしくて地味だった筈。どちらかというと目立たない存在だった。その彼がまるで別人のように、はきはきとした口調の爽やかイケメンに成長していたのだ。

「のぞみちゃんの方こそ、すっかり綺麗になって」

 樹が、さり気なく望美の右横の席に座る。

 望美を真ん中に左は親友、右は彼という形となった。


「そうそう、それでさあ」

「そやねんね、そんな事もあったよね」

 控え目な望美を挟んで、思い出話に花を咲かせるふたり。

「だよね、のぞみちゃん?」

「そやよね、のぞみちゃん?」

 置いてけぼりにするのではなく、ふたりとも気を使って積極的に話し掛けてくれる。なのに上手に会話を合わせられない。口下手な自分で、申し訳ない望美だった。

 緊張を紛らわせようと望美は、飲み慣れないカクテルを何度もおかわりした。

「いっくんね、親の会社を継いだんよ」

 樹は岡山市内にあるスポーツ用品メーカー『藤宮スポーツ』の跡取り息子だ。

 東京の有名私立大学の経営学部を卒業後、地元へと帰ってきた。言葉が標準語なのはその為である。

「まだひらだよ。正式に継ぐのは、まだまだ先の事さ」

「ていうか今度、海外にも事業拡大するんやって。凄いよね」

「国内は人件費の安いアジア系の海外製品でシェアが奪われてるからね。うちみたいな品質重視の中小メーカーの商品は、逆にむしろアジアの先進国の方が、希少価値で喜ばれるんだ」

「へえ、なんだか凄いね」

 ほろ酔い加減の望美は、立派に成長した幼馴染に心から感心した。


「「のぞみちゃん。二次会、来るよね?」」

 華音と樹にユニゾンで誘われたが、慣れないお酒の飲み過ぎで、かなり酔いがまわってしまった。これ以上無理をしたら、明日の業務に響きそうだ。

 望美は「ごめん。明日、仕事なんよ。今日はこれで」と、ぺこり頭を下げた。

「えー残念。ていうか大丈夫? ホームまで送ろうか?」と華音が気遣う。

「ありがとう。本当に大丈夫じゃけえ、ここで」

 そそくさと立ち去る望美を、樹が「ちょっと待って」と呼び止める。

「あのさ。よかったら、なんだけど……」

 樹はポケットから、さっとスマートフォンを取り出した。

「LINE交換して貰ってもいいかな?」


 週末の夜。なので電車の中は満席だった。

 望美は扉に背中をもたれ、混み合う電車に揺られている。

 火照る顔を掌で仰ぎながら、スマートフォンの画面を見つめる。

 友達登録したばかりの、LINEアイコンの顔写真。

 先ほどの爽やかな彼の笑顔と重なる。

【「正解。嬉しいな、覚えててくれて」】

 ――忘れるわけ、ないじゃない。

 思い出すのに間を開けたのは、とっさの芝居だ。

 いくら十年以上ぶりだからといって、彼の顔を忘れる筈がない。

 何故なら。

 ――だって、いっくんは。

 樹は、望美の初恋の相手なのだから。

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