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4-2

 一か月前。 

 晴れた平日の昼下がり。その日も望美は、和装メイドとして業務に励んでいた。

 以前のように生霊ではなくなったので、霊の姿はもう見えない。今の自分ができる範囲で、店主の蒼月あおつき真幌まほろを影ながらサポートする毎日だ。

 そんな中。

「のぞみちゃん、元気してはる?」

 望美が正規雇用されている老舗の土産屋『まほろば堂』の店内カフェスペースに、学生時代の親友である華音かのんが訪れた。

「いらっしゃい、かのんちゃん。久しぶり」

「二か月ぶりやもんね。ごめんねえ、なかなか来れへんで」

 はきはきとした口調の活発な女性だ。可愛らしい顔立ちにショートカットが良く似合う。

 旧姓、小泉こいずみ。現在は森山もりやまの姓を名乗っている。

 華音は京都の芸術系大学の環境デザインコースを卒業と同時に、同じ岡山出身のサークルの先輩である男性と、昨年春に入籍をした。

 まだ岡山に戻ったばかりの新婚一年目。京都弁が抜けないのは、その為である。挙式後、ふたりは岡山市内に新居を構え、妻の華音は派遣勤めの兼業主婦として暮らしているのだ。

「派遣って言っても忙しいんじゃろお?」

「そやねん。住宅設備系のCADオペレーターなんやけど、使い捨てやと思ってこき使われてるんよ」

 華音は設計士のタマゴなのだ。先日、二級建築士の資格も一発合格したばかりである。

「わかる。あたしも前の仕事が派遣事務じゃったけえ」

 接客業なのだから、いつもは真幌のように綺麗な敬語をと心掛けている望美だが。幼馴染と会話をすると、どうしても方言が出てしまう。

「急な無茶ぶりで、ばんばん残業もさせられるし。これじゃあ家事重視と思ってハケンにした意味があらへんわ」

 望美は一年前に、アイビースクエアのガーデンウェディングで行われた華音の披露宴に出席した。それをきっかけに交流が再開したのだ。

 以来、華音はこうやって時々まほろば堂のカフェの客として訪れるようになった。

 華音が、きょろきょろと店内を見渡す。

「あれ、あの男前イケメンの店長さんは?」

「え、ええ。ちょっと外回りの営業に……」

 お約束の言い訳をするのは、もう何度目だろう。真幌はいつものように黒猫マホに身体を乗っ取られ、少年の姿で外出中なのだ。

「へえ。老舗のお土産屋さんも、外回りなんてしはるんやね。うちの人、営業やから毎日しんどいしんどいって、家でぼやいてるんよ。本当は設計がしたかったのに、希望じゃない部署に配属されたのが不服なんやって」

「そうなんだ。旦那さんの会社って大手のゼネコンだよね。大きいとこだと、そう言うのってしょうがないんじゃねえ」

「で、のぞみちゃん。あの店長さんとは実際どやねんよ?」

 頬が紅くなる。望美は顔の前で「全然、全然」と慌てて掌を振った。

「じゃけえ、いつも言ってるじゃない。店長とはそんなんじゃないって」

「ほんまにぃ?」

「ほんまじゃて。それにこんな小娘、向こうも相手にしないって」

 ――それに、店長には……。

 店主には六年前に亡くなった妻がいる。おそらく彼は未だに、その過去を引きずっている筈だ。自分の出る幕なんてない。

「そっか、それ聞いて安心したわ。ほな問題あらへんね」

 華音は意味ありげな口調でそう言うと、ハンドバッグを開いた。

「今日はね。のぞみちゃんに、お誘いがあるんよ」

「お誘いって?」

 華音が「はい、これ」と白い封筒を差し出す。

 それは一通の手紙だった。表には招待状と書かれてある。

「招待状って、今度は誰が結婚するの? ていうか……」

 披露宴に招待してくれるような仲の良い旧友など、華音以外に心当たりはないのだが。

「うふふ、披露宴とちゃうねんよ。これはね」

 小学校の同窓会の招待状だった。


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