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1-11

 翌年の春。

 蒼月家の居間の液晶テレビの画面に、ふたつのニュースが流れてきた。


 ひとつは今をときめく人気若手俳優の父親が、白骨化した遺体となって秋田県の県北山中で発見。その犯人である女性が、警察に身柄を確保されたというものだった。

 加害者が被害者を殺害をしたのは、十年以上前。しかし最近になって罪の意識にさいなまれた彼女は、突然自ら出頭した。それが今回の遅い発見に至った経緯であった。

 加害者の証言によると、被害者は警察官であった自分の父親の部下だった。

 被害者は上司から「実はうちの不良娘がドラッグを……」と内密な相談を受けた。

 正義感の強かった被害者は、当時覚せい剤に溺れていた加害者を、警察官としてではなく、あくまで個人として説得しようと試みた。

 警察官の娘が覚せい剤で逮捕となると、ふたりは社会的な汚名を受けることとなる。

 日頃お世話になっている上司の名誉を守る為。その上司の、大切な娘さんの未来を守る為に。警察沙汰になる前に、悪の道から抜け出させようとしたのだ。

 そうやって被害者は、当時加害者が勤務するキャバクラに再三、足を運んだ。

「君のご両親が悲しんでいる、違法ドラッグなんて止めるんだ」

 被害者は何度も店の裏に呼び出し、必死の説得を繰り返した。

 それを疎ましく感じた加害者女性が、当時交際中だった店員と共謀し被害者を殺害。ふたりで県北の山中に埋めたということだった。

 その後、加害者の女性は逃亡。その際、共犯者とでなく自分が殺害した男性と「駆け落ちするから」との嘘の情報を残した。

 被害者が行方不明になった理由は、よくある痴情の色恋沙汰。そういう事情なら警察も失踪事件として、まともに取り扱わないだろう。加害者は自分への容疑の目を逸らす為に、そう目論んだのだ。

 加害者の父親は当然、部下よりも娘を疑うだろう。しかし父親は行方不明になった部下よりも、実の娘を庇うことを選択した。加害者としても、そう見越しての犯行だった。

 その黒い策は、まんまと思惑通りになった。加害者は自分の犯した罪の重さもすっかり忘れて、これまで悠々と遠い場所で暮らしていたのだ。

 ところが――。

 加害者は昨年の夏頃から突然、毎晩のように悪夢にうなされるようになった。

 十年以上前に殺した被害者が、今になって幽霊となり毎晩枕元に現れる。そんな幻覚症状まで現れるようになった。

 加害者は眠れない日々が続き、やがて重度のうつ病となり、精神を重く患った。

 それで今回、自首をすることを決意したとのことだった。


 開店前の午前中。

 そんなテレビのニュースに望美は、ちゃぶ台の前で正座しながらじっと耳を傾けていた。

 台の上には備前焼の急須と湯呑み。素朴な味わいの茶褐色をした地元の特産品だ。中には恒枝茶舗のほうじ茶が注がれてある。

 まほろば堂の店頭奥の、蒼月家の居間。最近の望美は、真幌の寝室以外には自由に敷居を跨がせてもらえるようになっていたのだ。

「にゃあ」

 横では黒猫マホが、ちょこんと藍染めの座布団の上に座っている。

 店主の真幌は奥で仮眠中。昨夜も顧客である生霊との面談が長引いたそうだ。

「そっか、広瀬さんのお父様……お亡くなりになっていたのは残念じゃけど。でも」

 正義のヒーローを演じた青年の父親は、やはり正義の男だったのだ。

「それにしても、昨年の夏頃から……って。ねえ、これってもしかしてマホくんの仕業?」

「ふにゃあ」

 ぺろぺろと毛繕いをしながら、黒猫は呑気にあくびをした。


 そして、もうひとつのニュースとは――。


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