95話:異常者同士は引かれあうよッ、ユーリちゃん!
――NPCからのアーツの伝授。それは至ってシンプルなものだ。
目の前でアーツ発動を見せられることで、こちらも一発で使用可能になるらしい。
まっ、そこらへんはゲームだよなぁ。命懸けの修行をしないと技が覚えれないなんてクソゲーがあるか。
だがしかし、だ。
「さぁ、こいよ師匠!」
「おうよッ、そこまで言うならやってやるわい!」
俺に向かって弓矢を構える天狗師匠。鏃の先に魔力の光が宿り始める。
――そう、俺はこの爺さんに一つの要望を出していた。
テキトーな場所に技を放つんじゃなく、俺に対してブチ込んでくれってな。
「バッチコイだ! 技の性質を理解するには、受け手に回るのが一番だからなっ!」
「……確かに、受け手としての視点は大事じゃな。身を以て技の脅威を知ってこそ、使いどころがわかるというもの。
フンッ、極悪人の異常者なだけあって戦いの道理がわかっておるわ。ここに来る者たちは誰もが善良な一般人だというのに……」
呆れ気味に溜め息を吐く天狗師匠。って誰が極悪人の異常者じゃオラ。
……まぁ俺、このゲーム始めてからほぼバトルしかしてないからな。
パーティも組まずクエストも受けず、世界観やらストーリーも知らずに暴れまわってきたのがこの俺だ。クラフト系の作業だって爆殺武器しか作ってないしな。
だけどしょうがないだろ。
「全力で戦うのは楽しいからなぁ。大技をぶっ放してたくさんの敵をぶっ殺すのも気持ちいいし、逆に追い詰められるのも大好きだぜ? 機転と気合でピンチを切り抜け、“負けるかオラァッ!”って相手をブン殴ったときの快感は、本当に堪らないもんだ。
……だからそのためにも、アンタの技術を全部もらうぜッ!」
「ハッ、やはり極悪人の異常者ではないか! いいじゃろうッ、ならば死ぬほど食らうがいいわァーーーッ!」
叫びと共に天狗師匠はアーツをぶっ放した!
風を纏った天魔流弓術『暴風撃』が俺へと迫る――!
「生半可な一撃なら撃ち落としてやるぜッ! 行くぞポン太郎!」
『キシャーッ!』
使い魔の宿った矢を構え、『暴風撃』を迎え撃つ!
しかしッ、
「無駄じゃァ!」
『キシャシャーッ!?』
鏃同士がぶつかり合った瞬間、ポン太郎の宿ったほうの矢がぶっ飛ばされてしまった!
そのまま天狗師匠の矢は俺の胸に突き刺さり、地面を何度も転がされる……!
「ぐぅっ……食いしばりスキル【執念】で生存っと……!
なるほどな、これが『暴風撃』か。周囲に展開された風により、他の攻撃の影響を受けにくいんだな」
使い魔であるポン太郎の宿った矢は強力だ。
自立行動により命中率を補強してくれるのはもちろん、ポン太郎自身の筋力値が矢の威力に加算されているからな。
それを苦も無く弾けるとか強いじゃねえか。
「うし次だッ、どんどん打ち込んでくれよ師匠ッ!」
「フンッ、言われずともこのままブチ殺してくれるわッ! 天魔流弓術『迅雷撃』! 『崩山撃』! 『爆炎撃』!」
――そして蹂躙は始まった。
情け容赦なく炸裂する三つのアーツ。
反応すら出来ない速さの雷の矢が、展開した盾を砕く剛撃の矢が、当たった瞬間に爆ぜる危険すぎる矢が俺の身体を次々と貫いた――!
「ぐはぁッ!?」
「まだじゃァ! 天魔流弓術『閃光撃』ッ、『陰殺撃』ッ、『流星撃』ッ!」
さらに放たれる強力アーツの数々。
発射の瞬間に溢れ出した光に目を焼かれ、次の瞬間には俺の影から矢が飛び出して貫かれる。
そして苦しんでいる隙に天に放たれた矢が分裂し、俺に向かって降り注いだ!
「ぐぅううッッ!?」
「これでトドメじゃぁッ! 天魔流弓術『蛇咬撃』!」
マジで容赦なく攻撃してくる天狗師匠。
放たれた矢から大蛇のような魔力光が溢れ出し、俺にがぶりと噛み付いてきた!
さらにそれだけではない。大蛇のオーラは天狗師匠の弓と直結しており、師匠が「縮めッ!」と叫ぶや、大蛇の顎ごと俺の身体は引き寄せられていき――ッ、
「受けるがよい、天魔流弓術『牛王一閃撃』ッ!」
そして炸裂する近接弓術!
なんと今度は手にした弓から巨大なバイソンのオーラが現れ、おもっくそ頭突きをかましてきやがったのだッ!
それによって俺は吹き飛ばされ、地面を再び転がされる……!
「ハッ……ハハハハハハッ! こりゃぁいいなぁ! トリッキーな技までバッチリ完備されてるじゃねぇかッ! 特に弓自体で殴れるようになる技は気に入ったぜ!」
おかげで全身ズタボロだ。矢は刺さりまくりだし穴は空きまくりだし、リアルなら確実に死んでいる有様だ。
スクショ取ってグリムあたりに送ったら可愛い悲鳴を上げそうだな。
――そんなことを考える俺に、天狗師匠は忌々しそうな視線を向けてきた。
「やはり異常者か……。そんなボロボロの状態で笑いおって、それほどまでに技を覚えれることが嬉しいか?」
「そりゃもちろん。だけど、それだけじゃないぜ?」
「むっ?」
小さく首を捻る天狗師匠。
なんだ、本気で気付いてないのかよ。
「技が使えるようになったことだけじゃなく、アンタがしっかりと教えてくれているのが嬉しいんだよ。
『閃光撃』と『陰殺撃』と『流星撃』のハメ殺しコンボは見事だったし、『蛇咬撃』で引き寄せてから近接技の『牛王一閃撃』に持ち込む使い方はホントに参考になった」
そう。そのどちらもが、本気でこちらを打ちのめしに来てくれなければ拝めないコンボだった。
もしも師匠が少しでも手を抜いて技を単発で放ってきてたら、あの連撃アーツを自力で思いつくまで時間をかけることになっただろう。
「ありがとうな、天狗師匠。本気で俺の敵になってくれて。アンタの情け容赦のなさが、俺はめちゃくちゃ嬉しいぜっ!」
血を噴きながら起き上がり、師匠の爺さんに笑いかける。
すると天狗師匠は、俺のほうを見ながらなぜか狼狽し始めた。
ってどうしたんだよ天狗師匠? おーい?
「う……うれ、嬉しい……? ワシの、容赦のなさが……暴力性が……嬉しい……?」
「あんっ、暴力性? いやまぁたしかに崖のぼりの途中で矢をぶち込んでくるヤベー爺さんではあるがよ」
なにやら天狗師匠の様子がおかしい。
仮面を被った顔を手で押さえ、プルプルと震え始めた。
――そして。
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・条件達成!
『天狗仙人からの好感度が最悪であること』
『敵対状態で師弟関係を結ぶこと』
『友好度最悪の状態で天魔流アーツを中級まで全て習うこと』
『カルマ値の下がる特定の言動:“暴力性の容認”を目の前で行うこと』
『関係性の修繕を一切行わず、最後まで敵でいること』
全隠し条件――コンプリート。
これより、【天魔流上級アーツ習得イベント】を開始します!
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「ってなんだそりゃ!? 普通そういうのって、好感度が高いと発生するもんじゃないのかよ!?」
目の前に表示されたメッセージに驚いてしまう。
まったく意識してなかったが、隠しイベントを発生させるまでの条件を全てぶっこ抜いてしまったらしい。
「暴力性の容認と、敵でいることが条件か。となると……イベントの内容はだいたい予想がつくな」
というか、もはや語るまでもないって感じだ。
――なぜならこれまで頑固爺然としていた天狗仙人から、高揚と狂喜の気配が漂い始めたのだから。
「あぁ……もう駄目じゃ……もう、我慢できんッ……!」
天狗の仮面の奥底より、ドロリとした声が溢れ出した――!
・【悲報】常識人、画面から消滅――ッ!
次回、『極悪人の異常者VS極悪人の異常者』!
俺は極悪人の異常者が勝つことに賭けるぜ!