91:クエストオラァァアッ! ユーリちゃん!!!!!!!!!
「ぬおおおおおおっ、ファイトじゃぁぁぁぁッッッ……!」
襲撃イベントが始まってから二日目。
俺は全身汗だくになりながら、何百メートルもある崖を登っていた……!
というのもあれだ。
さて、これからどう強くなろうかとザンソードに相談したところ、こうアドバイスされたのだ。
『せっかく武術系アーツが使えるようになったのだ。ならば、特定のクエストを受けてスペシャルなアーツを覚えてみぬか?』、と。
アイツ曰く、アーツにはレベル依存で自動習得するものと、クエストの特典によりNPCから教わるものの2種類があるらしい。
んでやっぱり、後者の方法で覚えたアーツのほうが強かったりユニークだったりするんだとか。
「ま、レベルを上げたら勝手に覚えるモノと違って、ひと手間かけて覚えるんだから当然か。
にしても……ふぎぎぎぎぎ……ッ!」
崖のぼりとかキツすぎだろ!
筋力値の高いプレイヤーならヒョイヒョイ登れるかもしれないが、俺は幸運値極振りだ。
筋力値ゼロ=何もできなくなるわけじゃないが、リアルと同等かそれ以下の腕力で、超人が挑むことを前提とした試練に臨むのはめちゃくちゃキツい。
「はふぅ……でも頑張らないとなあ。ザンソード曰く、この崖を登った先にアーツを教えてくれるNPCがいるらしいし……!」
掴めそうな出っ張りを探しながら、ナメクジの速度で高い崖を上がっていく。
はっきり言ってものすごく辛い。
ファイヤーバードに乗れたらラクだったが、前々回のアップデートで飛行に高さ制限つけられちまったからなぁ。
「こうなりゃ気合いだ……! 気合いで全ては解決するんじゃァ! オラオラオラオラオラオラァァあああああ!!!」
雄叫びを上げながらノソノソと上を目指す。
――かくして、ひたすらクライミングすること数時間。
途中で1回落ちて死にかけたり、何度も諦めそうになったり、でもそのたびに運営への怒りをモチベにハッスルしたり、心の中のスキンヘッドに励まされながら頑張り続けたことで……、
「……や、やっと見えてきた! 頂上だぁ!」
ついにゴールが目の前に現れたっ!
あ、あと十数メートルだ!!!
あと十数メートル登れば頂上じゃァァあああああ!
「うおおおおっ、ラストスパートォ!」
クソザコな四肢に力を込め、残る距離を一気に縮めていく!
そしてあと数メートル。いよいよゴールという時だった。
ふと頂上の崖っぷちに、天狗の仮面を被った大男が現れたのだ。
――ってこいつ、ザンソードから聞いたぞ!
「おいっ、アンタが強力がアーツを教えてくれるっていうNPCだろ!? たしか天狗仙人とかいう!」
こいつのところでいくつかのクエストをこなすことで技を習得できるらしい。
修行をつけてくれる存在=天狗とはずいぶん安直だなぁと思うが、まぁそれはともかくだ!
「勇者ユーリが弟子入りしにきたぜっ! さぁ爺さん、俺にアーツを教えてくれ!」
そう言った瞬間、天狗仙人は俺のことをジーッと見て……、
「なっ――カルマポイント:マイナス125万じゃとッ!? お、おぬしのような異常者に誰が技を教えるかぁぁぁぁぁ!!!」
「ふぇ?」
ガクガクと震えながら吠え叫ぶ天狗仙人。
彼はその手に弓矢を出現させると、俺に向かって弦を思いっきり引き絞り――!
「ちょッ、おいこら天狗ゥ!?」
「死ねぇッ! 弓術系アーツ、『暴風撃』!」
次の瞬間、風を纏った矢をぶっ放してくるのだった!
俺はとっさに身を捻って避けるが、矢から放たれる暴風に煽られ……、
「あっ――ああああああああああッ!?」
……岩肌を掴んでいた手を引き剥がされ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていくのだった……!
テッ、テメェ天狗ゥ!?
覚えておけよオラァァァあああああ!!!
・カルマポイント
簡単に言ってその人のいい人具合です。
善いことをしたらプラスになり、悪いことをしたらマイナスになります。
ユーリくんちゃんみたいに囚人逃して教皇燃やして街を乗っ取るとこの世全ての悪みたいな数値になるので気をつけましょう。
次回、「ブチキレるユーリくんちゃん、天狗をボコって無理やり弟子入り(知ってた)」