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88話:覚醒ッ、反逆の意志!

・プレイスタイル。


ブレイドスキル・オンラインのプレイスタイルは、アイテムの製造をメインとする『生産勢』。ワールドクエストをこなしていく『攻略勢』。ひたすらモンスターやプレイヤーと戦うだけの『戦闘勢』に分けられる。

ユーリは『戦闘勢』の中でも最極北。

能力目的だけで生産職を選んだにすぎず、クエストはまったく受けていないので世界の設定なんてまったく知らない。

フレンドは十人もおらず、そのほとんどが殺し合いの中で出会ったというどうしようもないプレイヤー。


どうしてこんなことになったのか。

それは――最初に知り合った相手が。

ゲームをやめようとしていたユーリを引き留めた男が。


どうしようもなく、ガラの悪い人物だったからかもしれない。



 “――不幸、か……”


 もはや、勝機はなくなった。


 嬲り殺しにされる絶望の中、俺は静かに考える。

 戦いの直前、ペンドラゴンのヤツはこう言った。



 ――『キミも大変な立場だね』、と。



 その一言でだいたい察しがついてしまう。


 “あぁ、なるほど。トッププレイヤーたちがボスラッシュを挑んできたのは、運営の差し金か……”


 そうでなければこんな不幸があって堪るか。

 今や『ブレイドスキル・オンライン』には何万人ものプレイヤーがいるんだ。刺客プレイヤーの殺害対象となる高レベルプレイヤーは何千人といるだろうし、何よりこの世界は無駄にだだっ広く作られている。

 なのに襲撃イベントの開始直後に三人の刺客とエンカウントして、そのうち一人はボスクラスだというのだからもう笑えない。

 運営が俺を襲えと命令を出しているのは明白だった。


 “ははは……運営カミサマに目をつけられたのが『運の尽き』ってか?”


 アップデートによる弱体化からこの仕打ちとかマジでふざけんなよ……!

 新しいバトルスタイルを思いついてなかったら、キリカの時点で詰みだったわ。



 “くそっ、くそっ……これまで、ゲームでも……リアルでも……不幸だからこそ負けん気だけは発揮して、頭を回して頑張って来たのに……今度こそ勝てねぇよコンチクショウ……!”



 思わず涙が出そうになる。

 あぁ、たしか公開決闘という方式だったか。

 だったら今やゲーム中で、俺のボコられる姿が配信されているのだろう。まさにネットの晒しモノだ。


 “ははっ……俺がただの一般プレイヤーなら見ないヤツもいただろうが、今の俺は『魔王ユーリ』。自惚れじゃないが、どいつもこいつも見やがるだろうさ……”


 これまでの俺の上がり調子が今日のための前振りだとしたら、もう最悪すぎて吐きそうだ。



 ――そうして俺が嘆いている間にも、『暁の女神ペンドラゴン』はさらにさらにと剣速を上げていく。



 そのたびに俺を襲う衝撃と、目の前に現れる『HP1で耐えました』というメッセージ。

 あぁ、くそっ……こっちはもう抵抗する気力すらないっていうのに、こんなの嬲り殺しじゃねえか……!


「さぁて噂の魔王様。食いしばりスキルもそろそろハズレが出る頃かな? それとも、キミの意識が飛ぶのが先かな――ッ!」


 狂笑を浮かべるペンドラゴン。彼女は空いた片手で打撃攻撃まで加えはじめ、俺の頭を揺さぶっていく――!

 それによって視界が激しく乱され、そして――。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 警告:意識レベル急低下中。ただちに回復の見込みがない場合は身体に異常が起こっていると判断し、強制ログアウトさせます。ログアウト処理まで、10……9……8……


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ぁ……」


 眼前に現れる赤きシステムメッセージ。

 そう。ペンドラゴンはただ戦闘力が高いだけでなく、VRゲームの安全機能を利用したルール外勝利戦法まで取ってきたのだ。


「ぁ、あ……」


 あまりにも容赦がなさすぎる。

 とっくに詰んでる状態なのに、さらに駄目押しされたら終わりだ。


「あ……ぁ……ッ!」


 もはや望みは完全に断たれ、勝つ可能性はゼロとなった。

 もう、誰がどう見たって終わりの状況なのに――なのにッ!



「ッッッッ――ただで負けてッ、堪るかオラァアアーーーーーーーーーーッ!」



 胸の奥から再び闘志が湧き上がるッ!

 ペンドラゴンの打った駄目押しが、俺に力を与えてくれたッ!!!


「な、なんだいきなり……!?」


 俺の叫びにわずかに戸惑うペンドラゴン。

 まぁそりゃぁ驚くだろうさ。詰みの一手を打った瞬間、相手が元気になり始めたらなぁ!

 だがしかし、お前の一手が“負けたくない”という気持ちを蘇らせてくれた! 


 あぁ、だってその戦法は、俺の最強で最高なライバルッ! 『スキンヘッド』がやってきたものなんだからなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッ!



『負けんなよ、ユーリッ! オメェを倒していいヤツは、このオレ様だけなんだからなぁ!』



 脳裏で宿敵がニッと笑う!

 アイツの存在を思い出した瞬間に、絶望なんて吹き飛んだ! 止まりかけていた俺の思考が、音速の猛回転を開始する――!


「ぽっと出のお前なんかにッ、殺されるかァアアアアーーーーーッ!」


「くっ、手も足もない状態で何を――!」


 驚きつつも剣速を緩めないペンドラゴン。

 彼女は咄嗟に俺の口内を剣で貫き、発声すらも出来ないようにさせる。これで発動宣言しなければならないアーツやスキルは完全に使用不可となった。

 だがしかしッ、


「まッ、()ッ、()ァアアアアアアーーーーーーーッ!」


 俺は屈伸するような要領で唯一動く首を倒し、自分からペンドラゴンの剣を咥え込んでいった!

 かくして彼女の刺突の勢いと合わせ、柄の部分まで俺の口に差し込まれた――その瞬間ッ、


「ふんぎーッッッッ!」


「はぁッ!?」


 俺は剣を握るペンドラゴンの手に、思いっきり噛み付いた!

 そして発動する衝撃大増幅スキル【魔王の波動】。それは『咬撃』という上下からの力の逃げ場のない一撃とすさまじく相性がよく、ペンドラゴンの手の一部を見事に噛み千切ったのだった――!


 ああ、それによって純白の剣は彼女の手から落ち、俺が噛みながら『身に付けている』という状態になったことで――、



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ※重大なエラー!:『創世剣エクスカリバー』は限定イベント用ゲストアバター専用装備です! 一般のプレイヤーは装備できません!

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「はははははッ! しょぉくりゅよなーっ!(そう来るよなーッ!)」


 次の瞬間、激しい衝撃が発生して俺の身体は何十メートルも後方にぶっ飛んでいく――!


 さぁて、ようやく攻撃から抜け出せたな。まさに予想してた通りだよ。

 元々、装備不可の武器を身に着けた時には武器がぽーんっと飛んでっちまうシステムなんだ。

 ならば、プレイヤーが空中に浮いているときにそれが起きたら? そのプレイヤーが手足を失って血も流しまくって体重が欠けていたら? 状態によっては、システムによって弾かれた衝撃は決して馬鹿にならないんじゃないだろうか?


 さらに今回は武器が武器だ。【異世界からの侵略者】という、別のゲームの能力を再現した特殊アバターたちの装備。

 そんな一般プレイヤーに奪われるわけにはいかない大切なモノに対し、『どっかの誰かに重要NPCを抹殺されたことのある運営』は、ぽーんっと抜けちまう程度の衝撃を設定しているもんかね?


 ――答えは否だ。この通り、過保護なまでに激しい拒絶プロテクトがかけられていたおかげで、俺は死の連撃から逃れることが出来た。

 そして、


「【きんッ、だんッ、しょうッかん】ッ!」


 一言一句、傷付いた舌を全力で動かすことで、召喚術式を成立させる――!

 さぁ現れろ、雷火を纏った悪しき魔狼よ。俺に代わってえ狂え――ッ!



「『キメラッ、ティックッ、ライトニングッ、ウルフ』!」


『ワォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーンンッッッ!!!』



 舞い散る桜を焼き焦がす雷光。俺の闘志に応え、最凶最速の使い魔が次元の果てより現れたのだった!


『ガァアアアアアアアーーーーーーーーーーーッ!』


 咆哮を上げながら、ライトニングウルフは一気に駆け出した――!

 そのスピードはまさに雷速。主君である俺のレベルが上がったことでコイツもまた強化されており、コンマ0秒でペンドラゴンに迫る!


「ッ、そいつは!?」


 剣を構えつつ、しかし彼女は咄嗟に避けた。

 ――まぁそうすると思っていたさ。ライトニングウルフには、接触することで発動する『麻痺効果』があるからな。

 この女はスキンヘッドと同じ戦術を取ってきたのだ。動画などによって俺の戦法や使い魔のデータを調べ上げていることは明白だった。

 だがこれでいい。

 ……だって俺の狙いは、後方で俺に魔法攻撃を仕掛けようとしているアリスなんだからなぁ――!


『ガァアアアアッ!』


「えッ――きゃあッ!?」


 そして見事に狙い通り、可愛い魔狼は超高速で彼女に迫り、小さな身体を噛み砕いたのだった――!



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ・ワールドニュース! 異世界からの襲撃者『逆鱗の女王アリス』を倒しました!

 ユーリさんは特殊イベント限定アイテム『魔人の黒布』を獲得しました!


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ハッ、どうやら近づかれたら終わりっていうのは嘘じゃなかったらしいな。

 なにせ666連魔法とか意味わからんことをやってきたのだ。おそらくは俺と同じく、HPまで犠牲にするようなピーキーなスキルや装備を身に付けているのだろう。また会う機会があったら話してみたいもんだ。


 そうしてアリスが消え去る姿を見送ったところで、俺はようやく地面に落下した。

 ほぼ上半身だけなため受け身など取れるわけもなく、草木の上をズザズザと滑る。いてぇ。


「はぁ……カッコ、つかねぇなぁ……」


 月と夜桜に見守られる中、俺は自嘲気味に呟いた。

 まぁここらへんが限界だろう。MPは切れてるし手足はないし喋りづらいし疲れたし、もう戦う気力なんてこれっぽっちも残ってない。

 さらに首をわずかに上げてみると、めっちゃキラキラした笑顔でこちらに向かって爆走してくるペンドラゴンの姿が。


「ワハッ! ワハハハハハハハハッ! ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! あぁユーリくんっ、やってくれたな! あの状況からアリスを仕留めるなんて思わなかったッ!」


 そんなことを嬉しそうに言いながら飛びかかってくる。

 ははっ、満足いただけたようで何よりだぜ。結局お前には勝てそうにないなぁ。

 ああ――だけど、


「負けるつもりは、さらさらねぇ、よ! 【禁断、召喚】――!」


 ペンドラゴンにやられる直前、俺は最期の召喚呪法を発動させる。

 ――さぁ現れてくれ、闇の地獄鳥。この戦いに決着をつけろッ!



「来いッ――『ジェノサイド・ファイヤーバード』ッッッ!」


『ピギャァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』



 ここに羽ばたく邪炎の双翼。

 俺は、自らの身を焼くほどに燃える火の鳥を、自身の頭上へと召喚したのだった――!

 そして、


「俺に向かって、堕ちてこいッ!」


「なっ!?」


 目を見開くペンドラゴン。

 咄嗟にその場から退避しようとするが、させるかよ。



「マーくん」


『ッッッ――!』



 次の瞬間、彼女の綺麗な横顔に()()()()()()()()()()()()()

 そう、俺のブーツには憑依モンスターである『アーマーナイト』が宿っているからな。切断された場所からここまでピョンピョン必死に跳ねてくるのが見えていた。

 まぁ、ダメージはほぼないだろうが……しかし。


「ぐぁっ――ッ、しまっ……!?」


 横合いからの予想外の攻撃。それに意識を割かれたことで、ペンドラゴンは逃げ足を一瞬止めてしまう。

 その一瞬の間に、『ジェノサイド・ファイヤーバード』は準備を終えていた……!


『ピッッッギャァアアアアアアーーーーーーーーーーッ!』


 ゴォオオオオオオオオオオオオオッという音が出るほどに全身の邪炎をたぎらせ、こちらに向かって堕ちてくる地獄鳥。

 あぁそうだ、それでいいんだよファイヤーバード。どうか俺をぶっ殺してくれ。

 そこの好き勝手してくれた女ごと、全部燃やして灰へと変えろ!



「俺は、負けねぇ。負けるくらいならッ、死んでやらァーーーッ!」


「ッ、ユーーーーーーーリーーーーーーーーーーッ!」



 かくして巻き起こる大爆発。

 月光の照らす夜桜の森に、終滅の一撃が炸裂したのだった――!



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


・ワールドニュース!

 ユーリさんが、ボスプレイヤー『暁の女神ペンドラゴン』に大ダメージを与えました!

 ユーリさんは特殊イベント限定アイテム『聖騎士の金布』を獲得しました!


 状態異常:アナタは延焼状態になりました!

 毎秒、最大HPより1%のダメージが発生します。

 スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存! スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!


 スキル【執念】――発動、失敗。アナタは死亡しました。


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― 新着の感想 ―
[一言] たしか聖都奪った時にペナルティくらってたよね? レベルマイナスになるんか?
[一言] ほんとクソ運営だな こんな陰湿な奴らが運営するゲームとか絶対やりたくないわ
[一言] ゆ、ユグドラシルオンライン(ボソッ
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