8:暴走族結成前夜!
「お~、ここが職人さんのお店かぁ」
スキンヘッドに紹介してもらってから数分後。俺は表通りにある立派なレンガの建物の前にいた。
すごいな、三階建てくらいあるじゃないか! 一階にあるショーウィンドウにはめちゃくちゃオシャレな服がいっぱい並んでるし、プレイヤーもわんさか店の中に入っていく。
こりゃー期待できそうだなぁ! 誰だよ、凄腕の職人は目立たないところにいるとか言ってたやつ。腕が良ければ表通りでバンバン売りまくってるに決まってるじゃねぇか!
「よし行くかぁ! すみませーん。えーっと、スキンヘッドの紹介で来ましたー!」
……そういえばスキンヘッドの本名知らねぇなぁと思いつつドアを開いた。
するとプレイヤーに接客していた金髪のお姉さんが、こちらに近づいてきて――つーかダッシュしてきたッ!?
「あっ、あああああああああああああああああああああああようやく見つけましたわあああああああああああッ! わたくしの理想のモデルになる子がぁああああああああああッ!」
「はぃいいッ!?」
俺の手をガシッと握り、いきなり彼女はそんなことを言ってきたのだった。
◆ ◇ ◆
「申し遅れましたわ。わたくしの名はフランソワーズっ! この世界で一番の職人プレイヤーを目指す者ですっ!」
そう言って彼女は優雅に頭を下げるのだった。
あれから三階にあるプライベートルームに通された俺は、ふっかふかのソファに座らされて大歓迎を受けていた。目の前の机にはケーキやらお菓子やらがいっぱいだ。
それらをもしゃもしゃいただきながら彼女に応える。
「んぐんぐっ、ゴクンッ! ほぇ~、世界一を目指してるとは気合入ってんなぁ! 俺はユーリ、不遇要素満載でトッププレイヤーを目指す者だ!」
「うふふっ、あのスキンヘッドから聞いてますわよ。話の通り、カラッとしたお人のようですわね。
それでユーリさん。筋力値ゼロでも着れる装備をお探しだそうですが、それならばぜひわたくしに作らせてくださいませッ! わたくし、可愛いお客様に可愛いドレスを作ってあげるのが大好きですのよぉ~!!」
うええええええッ!? か、可愛いドレスぅ!?
「いや俺、男らしくてカッコいい服が着たいんだがッ!」
「何を言ってますのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! アナタのその奇跡のように麗しいアバターには、もはやドレス一択ですわよッ! 他の選択肢なんてありませーんっ! アナタはわたくしのモデル決定でーす!
さぁさぁさぁ、仮にもβテスト時代のトップ職人であるわたくしお手製の装備を手に入れるチャンスですわよ!?」
「わ、わかった! 頼むよフランソワーズ!」
ぐいぐいと迫ってくる彼女に、俺はいよいよ根負けした。
まぁ不遇要素満載でトップを目指すとなると、生半可の装備で妥協してちゃダメだからな。ここは素直に彼女を頼ろう。
「……もうどんな見た目でもいいから、出来る限り性能のいいやつをくれ。ガセを流しやがった一部のβテスターどもを、ギッタギタにしてやりたいからな!」
「ふふっ、わかりましたわ。……といってもβテスターにすぐさま勝てるようになるのは難しいですわよ? 一か月続いたβテスト時代のデータから、お金を持ち越す権利が与えられていますもの。
わたくしはそのお金でこのお店を購入しましたけど、大抵の者は強力な武器を手に入れているでしょうね」
ああ、だからフランソワーズはゲーム開始二日目で自分のお店を持ててたのか。
んで、職人プレイヤー以外の連中はその資金力を全部戦闘力に変えてくると。こりゃあたしかに厄介だな。
だが、
「へっ、多少不利なほうが燃えるじゃねえか! その上でボッコボコにしてやったほうが連中も悔しがるってもんだろ!」
「あらあら……スキンヘッドに聞いていた通り、中身は本当に男の子ですのね。わかりましたわ、わたくしも全力でサポートしましょうっ!
それではユーリさん、アイテムボックスのほうを見せていただけますか? 作り手として流石にタダでプレゼントってわけにはいきませんもの。有用そうなアイテムがあったら代金としていただいたり、服の素材にしますわ」
「わかった、ほらよ」
メニューを開いて彼女の前に表示させる。
するとフランソワーズはギョッとした表情をして、
「ななななっ、どうなってますのこれーーーーーーーッ!? レアモンスターのリビング・ウェポンから低確率で取れる『呪いの魂片』に、同じくレアモンスターのシルバーウルフが極低確率で落とす『銀狼の霊爪』!? 他にもモンスターたちがたまにしか落とさないレアドロップ品がいくつも……! これが、幸運値極振りの効果ですの!?」
「どうだフランソワーズ、いい装備は作れそうか?」
「ええもちろんッ! これらを使えば現状でトップクラスの装備が作れますわ!
ユーリさん、一日待ってくださいまし! 明日には最高の品をお渡ししますから!」
燃えるような瞳でそう宣言するフランソワーズ。見た目は貴族のお嬢様って感じだが、彼女も熱い魂を持ったいっぱしの職人プレイヤーらしい。
「よーし任せたぜフランソワーズ! じゃあ俺は、武器のほうをどうにかするかな」
「任されましたわユーリさんっ! ああ、弓でしたら筋力ゼロで打てるものなんて限られますわよ? それこそ初期装備品くらいしか……」
「ああ、わかってるって」
ここに来るまでにNPCのショップなんかを覗いてみたが、やっぱり弦が硬くて威力の高いものはそれ相応の筋力値を要求するらしい。だから俺は弓を手に入れることを諦めた。
というわけで、別の方向から強化を図るぜ!
「ちょっとリビング・ウェポンを乱獲してくるわ。そいつらを全部矢に憑依させて、無理やり手数を増やしてやるぜ!」
「ええええええッ!?」
驚くフランソワーズに別れを告げ、俺は店を飛び出していった。
よっしゃぁ! 目指すはゴーストモンスターが大量に出るというダンジョン『死神の地下墳墓』だ!
ポン太郎を特攻隊長にした、リビング・ウェポンの暴走族を作り上げてやるぜぇえええええッ!
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