86:ボスラッシュッ! 『暁の女神』、降臨――!
眼前に迫る黒き極光。逃げ場なんてどこにもない――!
「な、なんでござるかこれは!?」
「ッ、盾よ!」
俺は咄嗟にザンソードの前に立ち、【武装結界】を発動させる。
それによって襲撃を吸収する七枚の盾装備を呼び出すも――、
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・耐久値限界! 『鋼の盾』が損壊しました!
・耐久値限界! 『銀の盾』が損壊しました!
・耐久値限界! 『金の盾』が損壊しました!
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「ッッッ、駄目だっ、攻撃が激しすぎるッ!?」
ガガガガガガガガッッッッッというけたたましい音を立て、三枚の盾が数秒も持たず砕け散ってしまう!
くそっ、攻撃の密度が高すぎる! なんだよ666連発動って!?
「やられてたまるかッ! 防御系アーツ『閃光障壁』発動!」
光り輝く四枚の盾。俺は攻撃を凌ぐべく、防御性能を上げるアーツで残りの盾を強化した。
しかし!
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・耐久値限界! 『正義の盾アルテナ』が損壊しました!
・耐久値限界! 『邪悪の盾ギアルガ』が損壊しました!
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「くぅうううッ!?」
666の破壊光はあまりにも激しく、さらに二枚の盾が消失してしまう――!
チクショウッ、だったら!
「『閃光障壁』『閃光障壁』『閃光障壁』『閃光障壁』ッ! そっちが魔法の多重攻撃なら、こっちも多重防御で対抗してやる――ッ!」
俺はがむしゃらにアーツを使い、二枚の盾を極限まで強化していく!
「『閃光障壁』『閃光障壁』『閃光障壁』『閃光障壁』『閃光障壁』! 閃光ッ、障壁ィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
破壊光の中で輝きを増していく二枚の盾。
そのうちの一枚の盾がバキリと砕け、闇の波動に吹き飛ばされていくが――やがて、
「……まぁ、ビックリだわ。まさか私の攻撃を初見でしのぎ切るなんて」
耳朶へと響く、襲撃者の心底驚いた声。
そう――俺は六枚の盾と大量のMPを消費することで、どうにかあの意味わからん攻撃を防ぎきったのだった……!
おかげでもうMPは空っぽだ。ここからはアーツに頼れない。
「はぁ、はぁー……! どうだ、ロリっ子め……!」
「ロリっ子って……私、一応リアルじゃ大人なんだけど……」
頬を掻きながら苦笑いするアリス。
そりゃ驚きだぜ。VR世界では精神への影響を考慮して、顔付きはリアルと同じものじゃないといけないんだがな。
お前どう見ても小学生くらいの顔じゃないか。アバターの身長も130センチくらいしかないし。
――ま、それはともかく。
「騎士と魔人が殺し合う世界、『ダークネスソウル・オンライン』だったか。そいつのシステムは知らないが、所詮は同じオンラインゲームなんだ。
あれだけの魔法攻撃が出来るってことは、他のステータスを犠牲にしてるんじゃないか?」
「……えぇそうよ。私は魔法特化のステータスを持つ『悪魔族』の魔人。接近されたらカブトムシにも負ける自信があるわ」
「そうかよッ――だったらこれで詰みだ!」
俺は双剣を召喚すると、アリス目掛けて一気に駆けた!
そしてその細い首に向かい、刃を叩きつけんとした――その刹那、
「はぁ残念。ごめんね騎士様、後は頼んだわ」
「ああ、任せるがいい――!」
次の瞬間、ガギィイイイイイインッ! という音を立て、俺の双剣が手から弾かれる!
「なっ……!?」
そこでようやく、俺は気付いた。
「ごきげんよう、巷で噂の魔王様」
俺の目の前に、白髪の女が立っていたのだ……!
竜を想わせる黄金色の瞳に、銀の宝冠と純白の姫鎧。さらにその手に執られた柄までも白い“光の剣”が、月明かりを受けて美しく輝く。
そして、
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・ワールドニュース!
ユーリさんとザンソードさんが、『暁の女神ペンドラゴン』と遭遇しました!
彼女は刺客集団を統べるボスプレイヤーです。遭遇から20分以上生き残るか、一定ダメージを与えた時点で経験値とアイテムが発生します。
これより、ボスプレイヤーとの公開決戦を開始します――!
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「って、また刺客かよッ!? しかもここにきてボスが出てくんのかよーーーッ!」
あーもう滅茶苦茶だッ! こっちは連戦で疲れてるってのに、一番強い奴が出てくるとかありかよっ!
「フフフフフ……キミも大変な立場だねぇ、ユーリくん。まぁ頑張って戦ってくれたまえ。私は人間の頑張る姿が大好きだからね」
「って疲れてるところにノコノコ出てきてほざいてんじゃねーよッ!」
偉そうに笑うボスプレイヤーを睨みつける!
――コンチクショウッ、こうなったらやってやる!
これまでだって色んな強敵をぶっ倒してきたんだ。ここで逃げたら男が廃るぜッ!
「覚悟しろよペンドラゴンッ!」
かくして俺が、新たな双剣を両手に呼び出そうとした――その瞬間、
「遅い」
――光の剣閃が目の前を走る。
そして吹き出す大量の鮮血。気付けば俺の両腕は、宙を舞っていたのだった……!