78:新章突入! 目指せ必殺技の塊ッ、ユーリちゃん!
「ふっふーんッ! 一日ぶりに俺、参上!!!」
ギルドイベントを終え、アップデートを挟んで一日。
さっそく元気にログインした俺は、ギルドホームである『聖上都市・ヘルヘイム』の広場に降り立った。
「いやー、昨日はリアルで大変だったなぁ。学校の先輩に追い掛け回されて……」
以前、文化祭のときに俺にドレスを着せてきた手芸部の人だ。
俺の女装姿がめちゃくちゃツボったらしく、今度はナース服やらメイド服を持ちながら『コレを着てくださいましーッ!』となぜかお嬢様口調で迫ってきやがった。
これで男ならぶっ飛ばしてるとこだが、女子の先輩に手を出すわけにはいかないからなぁ。
「んで結局、『少しだけなら』って了承したら色んな服を着せられた上に写真まで撮ろうとしてきて……流石に嫌だったから逃げだしたら……はぁ……」
そこからがさらに大変だった。
学校の外まで飛び出したところ、校門近くを歩いていた渋顔のお兄さんにぶつかってしまったのだ。
そうしたら二人して倒れて、まるで俺が押し倒されているかのような状態になっちまったんだよなぁ。
「しかもそのとき俺が着せられてた服が、女子用の制服で……さらに近くを通りかかった女子中学生が『アンタなにやってんのよーッ!』って渋顔のお兄さんに飛び蹴りをかましちゃって……!」
まさにカオスな状況だった……!
結局、なおもお兄さんをボコろうとする中学生の女の子(真面目そうに見えてなぜかめちゃ暴力慣れしてる)を必死に止めて、どうにか落ち着いてもらったんだっけか。
「あのお兄さんには悪いことしちまったなぁ。ぶっ倒れながら『久々の外出なのになぜこんな目に……やはりリアルはクソゲーでござる』って泣いてたし。
まぁ、俺が抱き起こしてやったらなぜかビックーンッてすごい勢いで立ち上がったから、身体に異常はなさそうだったけど……」
そんなこんなで本当に忙しい一日を過ごしたのだった。
ちょっとイベントより疲れたかもな。
「うしっ、リアルはリアルでゲームはゲームだ。切り替えていくぜっ!」
頬を叩いて気を引き締める。
というわけで今日も大暴れじゃいッ!
「さてさてさて。今回も前回のイベント終了後と同じく、一日がかりでアップデートが行われたそうだなぁ。今回はどうなったことやら……」
そう呟いた瞬間、さっそく目の前にメッセージが表示されて……、
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・アップデートに伴い、戦闘バランスの調整を行わせていただきました。
主な変更点は以下のものになります↓
1:一部のプレイヤーの暴走を受け、【武装結界】によって召喚できる武器の数を『無制限』から『七本まで』にいたします。
また敵プレイヤーの足元から召喚することは不可とします(対処があまりに難しいため)。
以上の弱体化の代わりに、武装の具現化時間を3秒から10秒に延長いたします。
2:一部のプレイヤーの暴走を受け、アイテム奪取スキルに『イベントなどで手に入る重要アイテムを奪うことはできず、レベルが自分より低い相手には適用されない』という設定を付与します。
また、奪ったアイテムは盗品であるため、本来の持ち主以外は売却によって金銭に変えることは出来なくさせます。
3:一部のプレイヤーの仲間の暴走を受け、NPCをフィールドに連れ出す際には、一体につき十二のパーティ枠を一つ消費するものとします。特定のイベント時には、この制限を解放します。
4:最上位プレイヤーたちの実力を鑑み、上級エリアのモンスターの戦闘力を増大させます(それに伴い得られる経験値も微増)。
また、強力な特殊モンスターを新たに実装させます。
5:新たなシステムとして、【カルマ・システム】を実装します。
具体的には、今までも存在した『死刑判決を受けるなどしたプレイヤーがNPCに恐れられる度合い』を数値化したモノです。
クエストなどで善なる言動をした者はカルマがプラスに近づき、暴力的な言動をした者はマイナスとなります。
業がプラスかマイナスか、またその数値の大きさが、今後のイベントなどに関わってきます。
そしてカルマ値が一定以上の者が『隠し条件』を満たした場合、特殊奥義に覚醒します。
6:ステータス表記を一部修正。
【召喚】などの一部のジョブを選んだ際に使用可能となる追加システム機能の名称を、固有スキルから固有能力に変更します。
またスキルの種類を『ステータス向上系』『機能拡張系』などに振り分け、見やすいように整理いたしました。
7:上位プレイヤーたちに向け、刺客が放たれます!
詳細は完全黙秘。50レベル以上の方は、気を引き締めてプレイに励んでください。
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「っ、ぬぐぐぐぐぐ……! クソ運営め、やはり俺を弱体化させてきやがったか……!」
悔しがる俺だが、以前ほどは取り乱さなかった。
ま、1と2あたりは予想が出来ていたことだからな。
「はぁ……しゃーないか。爆殺武器を二百本飛ばすのは流石にやりすぎてた感あるし、ザンソードを花火みたいに打ち上げた使い方もハメ殺しみたいなもんだしな」
いいさいいさ、ユーリくんは寛大だから許してやるぜ。武器の顕現時間も伸ばしてくれたしな。
2についてもオッケーだ。低レベルのプレイヤーから略奪する趣味なんてないし、別に盗品を売らなくても金は山ほどあるからな。
「3は……これってもしかして、シルがNPC軍団を引き連れて暴れたからか? アイツも運営から目をつけられたか~」
流石は俺の副官なだけあるぜ。今度会ったら撫でてやろう。
ちなみに6は単純に親切で、4と5と7は普通に面白そうに思えるな。運営のやつらもやるじゃねーか。
「うーし把握把握。【武装結界】の弱体化、上等じゃないか! だったら、他を伸ばすだけってなぁ!」
すでに次なる最強化計画は立てていたさ!
俺はニッと笑いながら、自身のステータスウィンドウを表示させる。
その職業欄のところには、こんなメッセージが記されていて――、
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・アナタはレベル75に到達しました。
セカンドジョブ:クラフトメイカーを二次職に進化させることが出来ます。
進化先は二つありますが、どちらになさいますか?
1:『クラフトマスター』
クラフトメイカーの正当進化職。
全ての生産行為の成功率が上昇します。
2:『バトルメイカー』
クラフトメイカーの亜種進化職。
新たに武装六種類が装備可能となり、また専門職でなくとも、使用している武器のアーツが使用可能となります。
ただし専門職とは違い、MP消費量が五倍かかります。
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「これだぜ、バトルメイカー!」
調べた時から気になってたんだよなぁ。
MP消費量はやばいけど、色んなジョブのアーツが使えるとかロマンあふれまくりじゃねえか!
「実は憧れてたんだよなぁ、弓術系アーツとかさぁ……! 『弓使い』を名乗ってる俺だけど、『アーチャー』のジョブを選択してないから普通の矢しか放てないしなぁ」
俺も男の子だからな。ポン太郎の宿った矢を使って無理やりホーミング矢とか分裂する矢とかやってたが、やっぱり普通に必殺技みたいなのを使ってみたい! それに剣とかも振り回してみたいしなっ!
というわけで、イベントで暴れまくってレベルも75に達したことだし――、
「迷うことなく進化だ進化ッ! バトルメイカーの項目をポチっと!」
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・ジョブ進化おめでとうございます! アナタはバトルメイカーになりました!
固有能力【武装百般】に覚醒しました。
新たに六つの武装の装備権を獲得し、武装に対応したアーツが使用可能となりました!
※キャラメイク時に選択済みの武器のアーツも使用可能になります。
また新たな使用武器の決定はステータス画面から行えます。一度に六つを選ばずとも、一部を保留状態のまま決定することもできます。
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「よーしっ、またまた強くなっちゃったな!」
色々な武器が使えるようになるなんてワクワクするなぁ。
ま、どれを選ぶかは街を歩きながらゆっくり考えますか。一度に全部選ばなくてもいいそうだしな。
「ぬっはっは! ちょっとやそっとの弱体化で俺を止められると思うなよ、アホ運営め!」
それじゃあ使いたい装備を考えつつ、新しいバトルスタイルを探しに修練場にレッツゴーだぜ!