74:暗闘の果てに
「ふぅー。どうにか勝てたな……」
スキンヘッドとの死闘を終えた後、俺はボロボロになった草原に着地した。
さて、あいつを倒したからにはもう邪魔する奴はいないだろう。さっさとギルドコアをぶっ壊して完全勝利するとしますか。これがある限りは死んだプレイヤーは復活する設定だったからな。
「……あぁ、その前に」
上空から感じた気配に俺は軽く飛び退いた。すると次の瞬間、ドォオオンッ! という音を立てて燃え盛るザンソードが剣を突き立ててきたのだった。
つい一瞬前まで俺が立っていた場所は、ヤツの蒼炎に炙られて灰となる。
「よぉザンソード、しぶとく生きてやがったか。
その『アルティメット・ファイヤ・エンチャント』って技、強力だけど奇襲にはまるで不向きだな。熱と光で丸わかりだぞ」
「はぁ、はぁッ、だまれぇ……!」
こちらを睨んでくるザンソードだが、その姿はまさに半死半生と言ったところだった。
剣や槍に貫かれたことで全身穴だらけの血塗れだ。結い上げていた侍らしい髪型も乱れ、もはや落ち武者のようになっていた。
だが、男として油断は一切しない。瞬時にスキル【武装結界】を発動させてヤツを取り囲むように召喚陣を出す。
さて、これで今度こそ詰みなはずだが――、
「ふっ……ふははははっ……!」
……どういうわけかザンソードは笑い始めた。それも自暴自棄になったという感じではなく、勝利を確信したかのような笑みで。
「なんだ、まだ隠し玉があるのか?」
「いやいや……拙者にはもうござらんよ。吐きそうになるほど悔しいが、最強プレイヤーの座を懸けた決戦は貴様の勝利だ。
だがユーリよ、『ギルド戦』においては拙者たちの勝利だッ!」
そう言ってヤツはメニューを開くと、何らかの項目を操作して一つの映像を表示させた。
そこには――俺のギルドの中心部である城の中を走り抜ける、一人の少女が映っていた。
獣の皮を纏ったような恰好の彼女は、城内の壁や床から突き出してくる『憑依モンスター・クトゥルフ』の触手を次々と掻い潜っていく。
「ッ、これは……!」
「ソロプレイばかりしている貴様は知らないだろうが、パーティを組んだプレイヤーの周辺映像を映し出す機能があるのだ。ダンジョンに潜る際には機動力の高い仲間を先立たせ、様子見させるといった具合にな。
そしてこの女の名は『クルッテルオ』。縦横無尽な動きによって前回のバトルロイヤル大会でも優勝してみせた、隠密プレイヤーのトップだ」
勝ち誇った顔で語るザンソード。
なるほど、三つ巴の決戦の裏でコイツのことを放っていたのか。これは一本取られたな。
俺が苦笑を浮かべる中、クルッテルオはついにギルドコアのある部屋へと到達した。
そこでは職人のゴスロリ少女・グリムが護衛役として立っているのだが、まともにやっても勝ち目はないだろう。
だってアイツ、戦闘経験まったくないからな……。涙目になりながら小さな両手を必死に広げてコアを守ろうとしているが、ただ可愛いだけだ。癒されるだけで意味はない。
そんな窮地を見ているしかない俺に、ザンソードは忍び笑う。
「ふっふっふ……本当は隠密プレイヤーを百人ほど送ったのに、そのほとんどがモンスターの群れや城から生えた謎の触手に嬲り殺された時はどうしようかと思ったが……まぁクルッテルオ一人だけでも辿り着いたからヨシっ! どうだユーリよ、見事に策に嵌った気分は!?
ちなみに急いで拙者を殺してギルドコアを破壊したとしても意味はないぞ。なぜならクルッテルオは別のギルドに登録してあるからなぁ!
そして貴様の仲間、シルとNPCの集団もヤリーオが地味に足止めしておる。完全に詰みよ!」
ぬはぬはと笑うザンソード。おそらくはスキンヘッドも知らないうちにコツコツと計画を練っていたのだろう。
あいつとは目を合わせただけで何もかもが伝わり合うからわかるが、最後まで全力で必死だったからな。裏で保険の策を講じていたら、多少なりとも戦いに甘さが出るはずだ。
……ああ、だからか。
「本当に策士だな、ザンソード。あえてスキンヘッドには策を伝えず全力で戦わせることで、俺に悟られないようにしたってわけか。完全にやられたよ」
「ふははっ、そういうことだ! さぁユーリよ、ギルドコアが破壊されれば貴様は消える。何か最後に言うことはあるか?」
「そうだなぁ……」
言うべきことなんて一つだろう。俺は拳を握り固めると、勝ち誇ったヤツの顔面を全力で殴り抜いた――!
それと同時に言い放つッ!
「勝つのは俺たち『ギルド・オブ・ユーリ』だ。俺の仲間を、あまり舐めるなよ……!」
「ぐぅ……な、なにを――ハッ!?」
痛みに呻くザンソードだが、ヤツ自身が表示した映像を見て一瞬で顔付きを凍り付かせた。
それもそのはずだろう。クルッテルオというプレイヤーは見事にギルドコアを破壊したのに……なぜか俺もグリムも、まったく消える様子がないのだから。
◆ ◇ ◆
「おぅおぅおぅおぅっ!」
――あちこちから生えてくる触手を掻い潜りながら、クルッテルオは高笑いを上げた。彼女の目の前には巨大な扉が。
ああ、『ギルド・オブ・ユーリ』の本拠地は本当に恐ろしいところだった。
手下たちと共に街に入るや、何千体ものモンスターが一斉に襲い掛かってきて隠密部隊は見事に半壊。
さらには地面などから触手が生えてきて、次々に仲間たちを絞め殺していったのだ。ここは地獄かとクルッテルオは何度も絶望しかけた。
五歳の時まで獣に育てられたせいで人語がほとんど話せない――という頭のおかしいキャラをロールして自己満足に喜んでいる彼女であるが、こんな拠点を構築したユーリはナチュラルに頭がおかしいやつだと強く確信する。
ここまで本当に困難を極めた。仲間は誰一人残っていないし、自身も傷だらけで死にそうだ。
だがしかし――壁や天井も走り抜けることが出来るジョブ『ビーストライザー』の能力を全力で発揮し、ついにクルッテルオは奥地まで辿り着いたのだった。
視界の端に表示された簡易地図を見る。するとそこには間違いなく、ギルドコアの存在を示すマークが。
「おぅーーーっ!」
ああ、コアはここにある! さっさと破壊して勝利しよう! ユーリを倒すのは、この私だ!
そんな思いと共にクルッテルオは勢いよく扉を蹴破った。そうして転がり込むと、部屋の中央には黒々と光るギルドコアが。
「くっ……やらせんぞ……ギルドコアは私が守るっ!」
「おぅ~」
コアの前には何やらちんまい金髪ロリが立っていたが、脅威にはならないとクルッテルオは判断する。
名前はたしかグリムだったか。すでに彼女の存在は事前調査によって割れている。
ユーリがスカウトしてきた職人プレイヤーだということも……そして、ベテラン職人のフランソワーズなどとは違って戦闘能力がまったくないということも。
ゆえに他愛なし。クルッテルオは獣のような四足歩行で部屋中を弾けるように飛び回ると、困惑しているグリムの横っ面に飛び蹴りを叩きこんだのだった――!
「うわぁーっ!?」
吹き飛ばされて壁に衝突するグリム。まさに勝負は一瞬だった。アイテム作成による経験値の獲得でそこそこレベルアップしていたのか、まだグリムは生きているようだが放置する。
立ち止まっていたらたちまち足元から触手が生えてきてやられてしまう以上、雑魚に構うのは下策だろう。
それに何より、ギルドコアはもう目の前にあるのだから! これを破壊すれば『ギルド・オブ・ユーリ』は壊滅だ――!
「おぅーーーーーーっ!」
勝ったッ! 今回のイベント、最後に勝つのはこのクルッテルオだ!
そんな思いと共に、彼女は全力の蹴りをギルドコアに叩き込んだ――!
見事に砕け散るギルドコア。光の粒子が桜吹雪のように舞い散り、勝利を称えているがごとくクルッテルオを包み込んだ。
「おぅ~……!」
そうして彼女が最高の気分で光の粒子を浴びていた――次の瞬間、
『――ギシャアアアアアーーーーーーーーーーッ!』
「おぅううううっ!?」
絶頂状態のクルッテルオに極太の触手が絡みつく! それは間違いなく、この街全体に憑依した特殊モンスター『クトゥルフ・レプリカ』によるものだった。
ああ、なぜ!? どうして!? ギルドコアは破壊したのになぜギルドは消え去らないのかとクルッテルオは混乱する。
――そうして慌てふためく彼女に、雑魚と切り捨てたグリムが近づく。
「すまんなぁ刺客よ。……貴様が破壊したのは、私が作った偽物のコアだよ」
「おっ……なっ、偽物ですって……ッ!?」
突如放たれた衝撃的な一言に安いキャラロールが吹き飛んでしまう。そんなクルッテルオに、グリムはニヤリと笑って言葉を続けた。
「あぁそうとも。視界の端にあるミニマップを頼りにギルドコアを探したのだろうが、それは所詮簡易表示だ。
本物のギルドコアは――ここだぁっ!」
グリムは巨大なハンマーを顕現させると、横の壁を全力で叩いた。
すると……崩壊した壁から覗いた『真横の部屋』に、今度こそ本物のギルドコアが存在していたのだった。
つまりクルッテルオは、職人グリムによって見事に嵌められたわけである。
素材さえあればインテリアも作れるという『クラフトメイカー』のアイテム作成能力……そこから繰り出されたあまりにも悪辣すぎる罠に、もはや絶句するしかなかった。
「な、なにそれ~~~~~……!」
「騙されるのも仕方あるまい。もしも貴様が冷静にマップを見ていたら偽物のコアと本物のコアのわずかな座標のズレに気付いたかもしれないが、そんな暇を与えないためにクトゥルフには頑張ってもらったからなぁ。なーっ?」
『クェーーーーっ!』
親しげに話しかけるグリムに応え、城全体が鳴き声を上げた。
ああ、これで策謀合戦は終了だ。完全に策に嵌められて捕らえられた暗殺者の末路など、一つだけだろう。
グリムは笑いながらハンマーを振り上げると、最後にクルッテルオに言い放つ。
「我が名はグリム、魔王ユーリに選ばれた職人プレイヤーなりッ!
そんな私を……舐めるなよこのケモノ女がーーーーーーーーーッ!」
「おぅうううううううううッ!?」
ゴガァーーーーーーンッ! と振り下ろされたハンマーはクルッテルオの頭を砕き、彼女のHPを一撃で吹き飛ばした。
ああ……職人って怖い。クルッテルオは死に際、心からそう思いながら消え去ったのだった……!
『更新早くしろ』『ホント更新早くしろ』『止まるじゃねぇぞ』『毎秒更新しろ』
と思って頂けた方は、最後に『ブックマーク登録』をして、このページの下にある評価欄から評価ポイントを入れて頂けると、「出版社からの待遇」が上がります! 特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!
↓みんなの元気を分けてくれ!!!