71:魔性の女、ユーリちゃん!!!
――岩を削りだした巨城に向かい、俺は戦場を突っ走る。
スキルの封印は完全に解け、失った腕も回復薬により癒した。状態はすでに万全だ。
いや……万全以上と言っていいだろう。
「ありがとうな、みんな……!」
いつも以上に燃え滾る闘志を胸に、背後で戦う仲間たちへと呟いた。
今の俺は絶対に負けないし負けられない。今まで知り合ってきた数多くのプレイヤーたちが、必死で道をこじ開けてくれたのだから。その事実が堪らなく嬉しい。
ああ、ゆえに……!
「その礼として、最高のバトルをしてやらなくちゃなぁッ! そうだろう、スキンヘッドーーーーッ!」
ついに眼前に迫る巨岩城。そこに向かって、俺は百三十本の爆撃武装を全て解放した!
全弾当たれば壊滅必死の飽和攻撃だ。赤黒い輝きを纏った爆刀や爆槍が流星群のごとく降り注いでいく。
だが、しかし――!
「ったく、いきなり終わらせる気かよテメェはよォオオオオッ!」
次の瞬間、巨岩城が内側から大爆発を起こした。
そして飛び出す漆黒の光を放つ『手甲』。城内より射出されたソレはソニックブームを纏いながら、武装の群れを次々と爆砕していくのだった。
ってなんだそりゃ、ロケットパンチかよ!?
「威力もすごいが……いやそれよりも、ぶっ壊しちまって大丈夫なのかよ、城。むしろそっちに驚いてるんだが」
「ハハッ、こまけぇ事は気にすんなよ。どうせギルドコアはザンソードの野郎が守ってるからな」
土煙の向こうより響き渡る返答。
かくしてヤツは、足元に散らばった巨城の破片を砂糖菓子のように踏み砕きながら、俺の前へと姿を現したのだった。
「よぉユーリ。オメェをぶっ殺すためにあれこれ手段を尽くしたってのに、やっぱり生きてやがったかよ」
「よぉスキンヘッド。そう言うわりには顔がニヤけてんじゃねぇか」
お互いに軽口を言い合いながら、殺意と闘志をぶつけ合う。
戦う準備は向こうも万全のようだ。ゴキゴキと首を鳴らしながら近づいてくる。
さて、戦う前に気になるところがあるとすれば……ヤツの腕に嵌められた手甲から、漆黒の光が放たれていることか。
あの手甲、先ほどぶっ飛んでいったはずだがどうなっているんだろうか? どこか心当たりがあるような気もする。
「漆黒の光を放っていて……瞬時に戻すことが出来て…………あっ、まさかっ!?」
「気付いたかよユーリ。そう、オレ様が選択したセカンドジョブは『サモナー』だ! モンスターを宿している分、拳の威力も上がってるから気を付けろよォ!?」
ヤツが自身の手のひらに拳を叩きつけた瞬間、ズパァァァアアアアアンンッ! という空気の破砕音が響き渡った。
なるほどな……先ほどのロケットパンチの正体は、近接職『パワーグラップラー』が持ってるっていう拳の威力を上げるジョブ特性と、憑依モンスターによる破壊力の上乗せか。
そして手甲が遥か彼方に飛んで行こうが、サモナーのアーツ『サモンリターン』によってすぐに手元に戻すことが出来ると。
コイツも面白い組み合わせを考えてきたようだが……よりにもよってサモナーかよ。
「おいおい……たしかお前、初めて会ったときにサモナーのことを馬鹿にしてなかったか?」
「ヘッ、あの日のオレ様はもういねぇよ。
……ユーリ、オメェと出会ってオレ様は意識を変えられた。どんなジョブやスキルの使い手だろうが舐めるつもりは一切なくなったし、なにより全力で戦う楽しさを知った」
拳を強く握り締め、スキンヘッドは俺へと構える。
「さぁ、やろうぜぇユーリ! 盛大に殺し合う楽しさを、観客どもにも教えてやろうやッ!」
「……ああ、そうだなスキンヘッド! 全力の戦いを、みんなに見せてやろう!」
互いを殺したいという想いが溢れ出して止まらない……!
燃え滾る情熱が互いに限界へと達した瞬間、俺たちは同時に駆け出した――!
「「うぉおおおおおおおおおおーーーーーッ!」」
巨城の破片が舞い散る中で拳と拳をぶつけ合う。
残念ながら向こうがどれだけ破壊力を鍛えようが、俺にはスキル【神殺しの拳】が宿っている。それによってヤツの一撃は威力をなくし、さらにスキル【魔王の波動】によって吹き飛ばされるはずだが――、
「ッ……吹き飛ばされない……!?」
「ハハハッ、残念だったなぁユーリィッ! オレ様も獲得してきたんだよ、【神殺しの拳】ってヤツをよぉッ!」
「なんだと!?」
俺が驚愕した瞬間、なだらかな下腹部に痛みが走った。
こちらが驚いた一瞬の意識の隙を突き、ヤツのもう一方の拳が俺の腹へとめり込んでいたのだ。
スキンヘッドが力強く大地を踏み締めるや、爆発するような衝撃が発生する――!
「食らえやユーリィッ! アーツ発動、『絶招・通天砲』ーーーッ!」
「がはァーーーッ!?」
まさにゼロ距離で砲撃を受けたかのような威力だった。腹の中をグチャグチャに破裂させられるような感覚を味わいながら、俺は何十メートルも吹き飛ばされていく。
スキル【執念】によって一撃死だけは避けるも、何度も何度も地面を跳ね回された。
そうして転がる俺に対し、スキンヘッドは信じられない速度で爆走してくる。
「さぁ、いくぜぇ『ポンヌダルク』! このままユーリをぶっ殺してやろうやぁーーーーーーッ!」
『ウレメシイワーーーーッ!』
スキンヘッドの言葉に応え、ヤツの履いている靴から漆黒の粒子が放たれる。
っ、あの野郎、俺と同じく靴にも憑依モンスターを宿してやがったか。
人のスタイルを躊躇なくパクりやがって……やっぱりお前は最高だよッ!
「負け、るかぁぁああああああッ!」
俺は地面を殴りつけ、スキル【神殺しの拳】の応用によって転がる衝撃を無理やり掻き消した。
そして眼前まで迫ってきていたスキンヘッドを睨み付けると、新たなるスキルを発動させる!
「スキル発動【死の商人】! 俺のアイテムボックス200枠を、全て武装へとコンバージョンッ!
そして、【武装結界】フル発動ーーーーッ!」
「なにィイッ!?」
次の瞬間、俺の周囲より合計二百の武装が全て射出される!
咄嗟に拳のラッシュを放つスキンヘッド。ほぼゼロ距離で放たれた剣や槍を次々と叩き落としていくが、文字通り手が足りなかった。武器の雨に打たれて次々と全身を切り刻まれていく。
さらに俺も拳を構えると、武装を放ちながら拳撃の連打を叩きこむ!
「ラッシュ力の足りなさはこれでカバーだ! さぁ、ぶっ殺してやるぜ近接職ッ!」
「クソがぁっ、テメェみてぇな弓使いがいるかよぉおおおーーーッ!」
愚痴りながらもさらにスキンヘッドの拳撃速度は上昇していった。たしかこの野郎、HPが減れば減るほどパワーやスピードが上がるようなスキルをたっぷり搭載してるんだったか。
さらに恐るべきは、そうして人外化していくアバターを操りきるほどの運動神経だろう。
俺の拳やゼロ距離で放たれ続ける武器の豪雨を正確に叩き落としていき、スピードが上昇するたびに被弾率は瞬く間に減っていった。
ああ、それでこそだぜぇスキンヘッドーーー!
「「死ねやダチ公ォオオオオッ!」」
互いに犬歯を剥き出しにしながら、全力のラッシュをぶつけ合う。
そうしてついに、お互いの顔面に拳が突き刺さりそうになった――その時、
「アーツ発動、『飛燕斬』ッ!」
「「ッ!?」」
迫りくる攻撃を感じ取った俺たちは、アイコンタクトさえも交わすことなく意思の疎通を完了させる。
互いの顔面に向いていた拳を逸らし、飛んできた真空波へと同時に叩きつけた。
――それを放った下手人に対し、スキンヘッドは恐ろしい表情で吠え叫ぶ。
「テメェ……オレ様とユーリの仲を邪魔するたぁどういうつもりだ!? ザンソードォオオオッ!」
はたしてそこに立っていたのは、侍姿のトッププレイヤー・ザンソードだった。
スキンヘッド曰くギルドコアを守る役目を任されていたようだが、これは一体どういうことだろうか?
注目する俺たちに対し、ザンソードはゆらりゆらりと近づいてくると……、
「あぁ――もう我慢できんッ! もう役目など知ったことかッ!
ユーリと交えたあの夜の記憶が、拙者の身体を高ぶらせるのだぁああああーーーッ!」
狂ったようにヤツは鞘を放り捨てた! そうして俺へと刀を向けると、血走った目で疾走してくる!
「貴様こそどけよスキンヘッドッ! そやつは、拙者の獲物だぁあああーーーッ!」
「ンだとオラァアアッ!?」
ヤツの言葉に激高するスキンヘッド。
かくしてここに、三つ巴の戦いが幕を開けるのだった――!
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