67:増殖バグだよ、運営ちゃん!!!!!!
あいつらついにやらかしましたわ……!
シルとユーリが思わぬ窮地に陥る中――運営のオフィスも阿鼻叫喚の事態となっていた。
「うぎゃあああああああああああッ!? 五万個以上のアイテム奪取ってどういうことだよぉおおお!?」
「チクショウッ、誰だよキルした相手のアイテムを奪うスキルを考えたのは!? 一歩間違ったら大惨事だろうが! そして我らがユーリ様が一歩どころか千歩くらい間違えやがったからこんな事態になっちまったじゃねーかウワアアアアアアアンンッ!」
「うるせぇッ! 『強いスキルだけどクソザコナメクジの生産職に付けとけば安全だよねっ!』ってみんなで会議で決めただろうが!」
「いやあああああああ!? いらないアイテムを全部売っぱらって大金に変えて、リアルマネー交換機能を使う魔王様の姿が見えるぅううううッ!」
ゴロゴロと床を転がりながら発狂する運営の者たち。
大暴走しているユーリがさらにとんでもない力と資源を手に入れてしまったことに、もはや頭が壊れて笑えそうにすらなっていた。
だが自暴自棄になっている場合ではない。運営の者たちは急いでモニターチェックに戻り、街の様子を見ることにする。
この状況で一番ヤバいのは、アイテムを奪われたプレイヤーたちの暴動だ。
恐る恐る、戦場から帰ってきた者たちの表情を見ると――、
「……あれっ、みんなわりと落ち着いてるなぁ?」
「ユーリに爆殺されて震えてる人はいっぱいいるけど、特に怒ってる人はいませんねぇ……?」
「中には『チクショウッ、次は負けないからな!』って言ってる人もいるぞ。みんな意外とおおらかなのかな……?」
何かがおかしいぞ~と首を捻る運営の者たち。
そこで運営チームの紅一点、女性技術者が「あっ」と声を上げた。
「そうですそうです思い出しましたっ! そういえばわたしたち、イベント前にこういうル-ルを設定してたじゃないですか!
『特殊フィールド内での「拠点の崩壊、使い魔の死亡、装備・アイテムの損傷および損失」などはイベント終了後にはなかったことになりますので、みなさまどんどん参加してください!』って!」
「「「あっっっ!?」」」
一斉に顔を見合わせる大人たち。
そう、以前の何の補完もない(かなりクソな)バトルロイヤルイベントの時から成長した彼らは、装備が壊れるなどしたプレイヤーたちへの救済策をちゃんと用意していたのだ。つまり今回負けたプレイヤーたちはアイテムを奪われたこともなかったことになり、何の損害も受けていないわけである。暴動など起きるわけがない。
「やっ……やったーーーーーーーーッ!」
自分たちの成長っぷりが思わぬピンチを救ってくれたことに、運営の者たちは一斉に万歳をした。
「やったやったやったっ! なんだよオレたち、そういえばちゃんと何かあった時の保険をかけてたんじゃないか!」
「はははっ、以前のオレらとは違うってことだな! いやぁ~一時はどうなるかと思ったわ。イベントでしか手に入らないアイテムを奪われてるヤツもいるしさ~」
「あっ、ホントだ! ログを確認したらユーリのヤツ、一人のプレイヤーにつき一本しか手に入らない『撃滅槍グングニル』を30本もゲットしてるよ! 草生える~!」
「魔法使いしか手に入らない限定魔導書の『ネクロノミコン』も手に入れてるな! あと最高級の防具の素材になるが、換金したら一億ゴールドになる『アダマンタイト』も10個はゲットしてるじゃねーか。さてはプレイヤーども、素材にしようか換金しようか迷ってたな~っ!?
いや~こりゃあ危なかったね。こんなスキルを設定するなんて昔のオレたちはどうかしてたわ。
とりあえずイベント終了後のアップデート時には、一部のアイテムは奪えない仕様にするのと、レベル10以下のプレイヤーからは略奪できないようにしないとな」
「異議なし! ふぅ~、オレたちが成長しててホント助かったわー。
これでイベントが終わったら全部元通りだな。ユーリが手に入れまくっちまった最高級限定アイテムの山も消えてなくなるだろ。せっかくプレイヤーが増えまくって笑えるほど稼げるようになってきたのに、また一千万だか取られるのはゴメンだからな~」
「「「言えてる言えてる!」」」
和やかに笑う運営の者たち。
元々はかなりギスギスしていた彼らだったが、魔王ユーリという鬼畜プレイヤーを相手に苦戦している内に、気付けば結束の強いチームへと成長していたのだった。
彼らは肩を叩き合い、希望の明日を夢に見る。
「オレたちはようやく気付くことが出来た。ゲーム運営に必要なのは対応力だってな」
「ああ、ちょっとした設定ミスがあってもいいじゃねーか。予想外の事態だってみんなで力を合わせて乗り越えて、次につなげていけばいいんだよ」
「そうやって少しずつ成長していけばいいんだよな。助け合える仲間たちと一緒に!」
はっはっはっはっはと運営の者たちは明るく笑うのだった。
かくして、彼らが絆を確かめあっていた時のこと。紅一点の女性が、おずおずと手を上げてこう言った。
「ぁっ、あの~……『ユーリが手に入れまくっちまった最高級限定アイテムの山も消えてなくなるだろ』とおっしゃっていましたが、わたしたちの設定したルールって、あくまでも失ったアイテムをバックログからコピーして補完するだけですよね?
つまり――手に入れたアイテムはそのままなんじゃ?」
「「「あっ――あああああああああああああああああああああああああああああッ!?」」」
その瞬間、再びオフィスに絶叫が響き渡る!
つまりユーリは超大量の高額アイテムを手にしたまま、意気揚々と帰ってくるわけである。
熱い友情に輝いていた瞳を一瞬で恐怖と怒りに染め、隣にいた仲間同士で殴り合い始める運営の者たち! 築いた絆は一瞬で崩れ、クソみたいな責任のなすりつけ合いが幕を開けた――ッ!
「うおおおおッ! 誰だよこんな穴だらけの補完システムを作ったのは!? プレイヤーの数までしかないはずの限定アイテムが増殖しちまったじゃねえかーーーーッ!」
「うるせぇカスッ! いいからさっさと緊急アップデートしてこいやぁッ!」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞタコッ! イベント中にそんなことしてゲームが止まったらそれこそ炎上騒ぎじゃねえかッ!」
「タコだとテメェーーーーッ!?」
ボコグチャと殴り合う頭ふわふわ運営野郎ども。
ユーリを相手に一応は成長している彼らだが、人間なんてそう簡単には変わらない。思わぬ事態に狂ってしまうゆとり脳は今もなお健在だった。
そんな彼らに追い打ちをかけるように、紅一点の女性がおそるおそる発言する。
「あっ、あのあのあのあのっ、イベントはあと四回あるんですよ……!? その全てにユーリさんが参加して、今回みたいに六万人近くのプレイヤーを虐殺なんて事態になったら、全部合わせて『30万個』のアイテムがあの人のところに集結するということに……!」
「「「「ひぎぃいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーー!?」」」
意味の分からない事態を前に、ついに運営の者たちの精神が崩壊を起こす!
恥も外聞もなく涙と鼻水を何リットルも噴き出しながら、モニターの中でユーリを追い詰めている少女・コリンに向かって心から叫んだ――!
「お願いコリンちゃんっ、そのやべぇヤツをぶっ殺してくれーーーーーーー! バッキバキに心を折って、残り四回のイベントに出せないようにしてくだしゃぁああああいッ!!!
じゃないとオレたちの心が折れちゃうからーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
お願いしますッ、お願いしますッ! と十人を超える大人たちが画面に向かって何度も何度も土下座を始める。
そんな狂気的な光景を見て、紅一点の女性は「……やめようかなぁ。ここの仕事」とポツリと呟いたのだった。
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