65:副官の挑戦!
これより、掲示板8などでちょくちょく名前が出てきた者たちが(ようやく)登場……!
ちなみに今回はシル視点となります。
――大平原に響き渡る爆発音と断末魔。空には濛々と黒煙が上がり、ヘルヘイムの周辺は地獄と化していた。
そちらのほうをチラリと見ながらシルは苦笑を浮かべる。
「ははっ、流石はアタシの魔王様。今回も滅茶苦茶にやらかしてるわねぇ~」
ファンである自分のような者にとっては気持ちのよすぎる暴れっぷりだが、運営にとっては堪ったものではないだろう。一人のプレイヤーが何万人も虐殺すれば、きっと多くの者たちから『チートじゃないかアイツ!?』『ゲームバランスどうなってんだ!』と抗議文を送られまくることやむなしだ。
そこで前回のように極限まで弱体化させるか、あるいはほどほどの調整にとどめて『魔王ユーリ』を堂々と広告塔にしてしまうか……さぁ運営はどちらの道を選ぶのだろうかとシルはほくそ笑んだ。
たとえどうなるにせよ、あのムカつくほどに顔の綺麗なチンピラ魔王は『気合と根性があれば何でもできる!』と叫び散らし、止まらず暴れ続けるだろうと信じているからだ。
シルは彼女の戦っている方向から視線を外し、自身の率いている大軍勢に吼え叫ぶ。
「こちらも作戦通りに行くわよッ! 我らがギルドマスター様が注目を引き付けている間に、敵のギルド拠点をぶっ壊しまくるわよ!」
『オォオオオオオオオーーーーーーッ!』
咆哮を上げる七百人以上ものNPCたち。
さらにサモナーNPCの召喚した使い魔たちを含めれば、その数たるや千三百以上。平原の一角を埋め尽くすほどになっていた。
「A班からE班まで分かれて各個撃破していくわ。さぁ、突撃開始ーーーーーーーッ!」
かくして蹂躙が始まった。
シルの率いるA班は最寄りにあったボロい屋敷に飛び込むと、『ギルドコア』に向かって疾走していく。
それに驚いたのは拠点防衛を任されていた数十人の敵プレイヤーたちだ。
「う、うわぁ敵襲だっ!? いくぞみんなっ、ヤツらを、」
「遅いッ!」
赤き大剣を振りかぶったシルが、先頭にいた者を速攻で斬り伏せた。
あとは語るまでもない。敵プレイヤーたちが動揺している隙を突き、凶悪な風貌をした最上級傭兵NPCたちやサモナーNPCの操るモンスターの群れが一気に殺到。
文字通り、敵プレイヤーをちぎっては投げちぎっては投げ、ギルドコアに続く道を押し開いたのだった。
「ははははっ! 流石はみんなレベル50を超えているだけあるわねぇッ! はい、これで終了っと!」
NPCたちがこじ開けた通路を疾走し、シルは大剣をギルドコアへと叩き付けた。
これで戦いは決着だ。敵プレイヤーたちは呆然とした表情を浮かべながら、ギルド拠点ごと粒子となって消えていった。
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ギルド『ドS美少女にボコられ隊』を倒しました!
ギルド『ギルド・オブ・ユーリ』にイベントポイント+1000!
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「よーしっ、グッジョブよアンタたち! 今回からイベントポイント交換ページで、ギルド拠点の拡大や色々な機能の追加が出来るらしいわ!
さぁ、暴れて暴れてポイントを稼ぎまくって、アタシたちのギルドをこの世界のトップにしてやるわよーーー!」
『オォオオーーーッ!』
シルの言葉にNPCたちも腕を掲げて興奮する。
所詮は作り物である彼らだが、だからこそ人一倍『勝利』という栄光に飢えていた。
“ワンクリックで量産されたような存在から脱却したい”
“勝利を掴んで、成長して、唯一無二の存在になりたい”
“ステータスを上げて名声を上げて有用度を上げて、街にごろごろと存在するような劣等NPCどもを見下してやりたい”
人間を模して作られたがゆえの自己顕示欲。
それを満たすことが彼らの心からの望みだった。
「シルの姉貴ィ、次に行きましょうぜーーー!」
「魔王様にオレらの勇姿を見せてやりやしょうッ!」
「我らがギルドに栄光をーーー! 」
さぁ次だ。戦って戦って勝利を掴むぞとNPCたちは吼え叫ぶ。
そんな彼らの勇猛さにシルは微笑んだ。これこそまさに部下として理想的だと。
「アンタたちはいいわねぇ、弱気や怠けってのがなくて。前にアタシが取り巻きにしてた連中よりも百億倍マシだわ」
ユーリから逃げるために自分を置いて逃亡し、結局は情け容赦なく抹殺されたプレイヤーキラー集団を思い出す。
もしもあの時自分も逃げ出していたら、きっと今みたいな愉快な状況にはならなかっただろう。
持ち前の負けん気でユーリに噛み付いていった結果、いつの間にやら二人で街を奪い取るなどという前代未聞の大騒動を巻き起こし、今に至るわけだった。
あの夜の興奮をシルは忘れない。チャチなプレイヤーキルで満足していた自分に最高に刺激的な思いをさせてくれた魔王に、彼女は心からの感謝を抱いていた。
……もちろん恥ずかしいので、面と向かって伝えるつもりは一切ないが。
「フフッ……さぁ野郎ども、次に行くわよーーー!」
こうしてシルとNPCの大軍団は、各所の拠点を次々に潰していった。
ほとんどの戦力は魔王ユーリの討伐とヘルヘイムの攻略に向かっているため、どこも警備は手薄である。
それでも数十人規模のプレイヤーたちを配置していたりはするが、命令に忠実な50レベル以上のNPC軍団と上級モンスターの群れの前には無力そのもの。軍勢としての完成度がまるで違う。
人工知能であるがゆえにミスも少ないNPC軍団を『プロの軍隊』だとすれば、レベルも腕前もバラつきがあるプレイヤー集団など『野盗の群れ』のようなものだ。
高水準な戦闘力とプレイヤーキラーであったシルの対人戦慣れした指揮により、瞬く間に三十以上のギルドを叩き潰していったのだった。
まさに全てが順風満帆。このままいけば勝利は確実だろうと思いながら、シルが平原を駆けていた――その時、
「ッ――!?」
シルの背筋に鳥肌が走る。このままここにいたらまずいという直感を受け、シルが咄嗟に飛び退いた時だ。
彼女が一瞬前まで立っていた場所へと、槍を持った男が隕石のごとく落下してきたのだ。
あまりの衝撃に大地が砕け、周囲にいたNPCたちごとシルは吹き飛ばされてしまったのだった。
「ぐぅううっ!? い、いきなり何だってんのよ……!」
どうにか受け身を取って体勢を立て直すシル。彼女は大剣を強く握り、突然の襲撃者を睨みつけた。
「――フッ、我が一撃を避けるとは流石は魔王の眷属だと褒めておこう。だがしかし、最後に勝つのはこの僕だッ! 勇者の槍が必ず貴様を貫くだろう!」
「あぁん……?」
勇猛そうな声を出す男にシルは眉根をひそめた。
セリフだけなら立派だし、男の見た目もまさに勇者のごとく立派なものだったが……どうにもアレだ。
非常に言いづらいのだが、とてつもなく顔が地味なのだ。
その平凡の極みのようなまったく特徴のない顔付きに、むしろシルは見覚えを感じてしまうくらいだった。
「あ~……アンタってたしか、バトルロイヤル優勝者の一人だったヤリーオってやつよね? あの、すんごい地味に立ち回って最後まで生き残ったヤツ」
「んなッ!? きっ、貴様、僕に対して地味と言ったなッ!? 貴様は今、僕の逆鱗に触れたぞ!」
「わぁ、すごくタッチしやすいところに付いてるわねぇ、アンタの逆鱗……」
小馬鹿にしつつも、シルは一切油断せずに大剣を握り締めていた。
万能型ジョブ『ブレイブランサー』のヤリーオは強敵だ。
その戦いぶりは地味そのもの。シルがバトルロイヤルの動画を見た限り、彼は間合いで勝る剣士を狙って突き殺し、時には槍投げによって中距離から倒し、危なくなったらささっと隠れてやり過ごしていた。
そんな勇者ごっことは程遠い普通過ぎる戦い方に、掲示板では逆に話題になっていたくらいである。
そう――逆に言えばこの男は、勝利するために常に最適解を引き当て続ける才能を持っていた。
勇者ごっこをしているくせに全力で奇襲をかましてきた上に、ムカムカと怒っている今だってむやみに突撃してきたりはしない。
実際にその戦いぶりでバトルロイヤルの一つを制しているあたり、プレイヤーとしての戦闘力は向こうのほうが上だろう。
だが、
「まぁいいわ。アンタがどんな相手だろうがぶっ倒すまでよ。魔王様の言葉を借りるなら、『気合と根性』ってヤツでねぇ――!」
魔王ユーリの副官として、バトルロイヤル優勝者くらい倒せなくてどうする。
そう自分に言い聞かせながら、シルは強敵との戦いを始めたのだった。
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