63:開幕の号砲!
――瞳を開けると、俺は『聖上都市・ヘルヘイム』の城の中にいた。
目の前には漆黒の光を放つ球体と、俺と同じく転移してきたシルとグリムのやつがいた。
「あら魔王様、ごきげんよう。いよいよイベントのスタートねぇ」
「だな。シルは手筈通り、傭兵NPCとサモナーNPCたちを率いてギルド拠点の破壊に向かってくれ」
「わかったわ。NPCの連中、アタシが下僕にしてたプレイヤーキラーどもよりよっぽど忠実だし強いわよ?
そんな連中をこのシル様が率いるんだから、もしかしたら魔王様の出番はなくなっちゃうかもねぇ~♪」
「ははっ、そりゃいいな。せいぜいシルには楽をさせてもらうとするか」
「了解っと!」
赤い髪を翻しながらさっそく外に向かって行くシル子さん。
緊張はしてないみたいだな、あの調子ならば大丈夫だろう。
それに比べて……、
「あっ、あわわわわっ……! ま、魔王殿、私はどうすれば……!」
金髪のゴシック少女、グリムのほうはガックンガックン震えていた。
イベント前日までは『全プレイヤーどもを私の装備で殺してやるーッ!』と憤っていたが、いざ当日を迎えると緊張感のほうが勝ってしまったらしい。
俺は腰をかがめて彼女と視線を合わせながら、その柔らかな頬をむにっと掴んだ。
「あひゅっ!?」
「落ち着けってのグリム。お前はいつも通り、街の中でどっかりと構えていてくれたらいい。ヘルヘイムの街には九千体以上のモンスターがいるし、何より『守護神』が守ってくれているからな。――そうだろう、クーちゃん!」
『クエ~~~ッ!』
俺の言葉に応え、街そのものが鳴き声を上げた。
そう、今やこのヘルヘイムは全ての場所と建造物が『禁断邪竜クトゥルフ・レプリカ』こと、クーちゃんの肉体と化しているのだ。
壁がニュルニュルと触手に変化すると、グリムの頭を優しく撫でた。
「うぅ、クトゥルフよ……!」
「というわけでグリム。お前はクーちゃんやモンスターと一緒に、そこの『ギルドコア』ってやつを守っていてくれ」
そう言って漆黒の球体を指差す。
ジっと視線を凝らすと、『名称:ギルドコア。拠点中心部に出現。10メートルのみ移動可能』と表示された。コイツの破壊を巡って六万人のプレイヤーとバトルするわけだな。
「これこそが俺たちの心臓部だ。任せられるか、グリム?」
「っ……うむ! 引き受けたぞ、魔王殿よ! この私が命に代えても守り抜こうっ!」
グっと両手を握り固めるグリム。その瞳は決意に燃えていた。
よし、どうやら緊張は解けたみたいだな。すっかりやる気を取り戻した彼女に別れを告げ、俺も城の外へと出ていく。
そうして前回のバトルロイヤルと同じく、真っ赤に染まった空を見上げた時だ。
不意に空の向こうから声が響き渡ってきた。
『さぁ、いよいよ始まりましたギルド大戦ッ! 今回の実況もこのわたくし、プレイヤーナビゲート妖精のナビィが務めさせていただきまーす!』
「っ、出たな……運営の犬めッ!」
可愛らしくも憎らしいチビ妖精の姿を思い出す。
今回も街の広場より、観客たちと共にこの戦場を見渡しているのだろう。
邪悪なる運営の手先め……この戦いが終わったら指でグリグリしに行ってやるから覚悟しとけよッ!
『なっ、なんだか悪寒がしますが気のせいでしょうかねぇ……!
ゴホンッ! さぁて、今回も参加者さんたちのためにもちょこっと補足説明しておきますねー!
視界の端っこに「60936」という数字が見えませんか? それが今のプレイヤー生存数でーす!
そして横にある「87」という数字が、残っているギルドの数ですね。
自分のギルドが平原のどこにあるかはマップから確認できますので、一度見ておいてください。また敵のギルドに侵入するとマップが切り替わり、拠点内の構造やギルドコアの位置を簡易的に示したものとなりますので、上手く利用してみてください!
ごく一部のプレイヤーが街を丸ごとギルド拠点にしてしまうという頭のおかしい偉業を達成したため、運営さんたちが急いでそんな機能を追加しました』
って、それ絶対に俺のことじゃねーか! 個人を狙い打ちするために便利機能つけるんじゃねえぞクソ運営めっ!
まぁいい……とにかく今、『ギルド・オブ・ユーリ』が平原のどこに転移させられたか確認だ。
というわけでマップを見てみると……って、中心地点かよ!? 四方八方からプレイヤーたちが押し寄せてくるところじゃねーか!
なぁ、本当にランダムで転移したんだよなぁ!? なぁおい!?
『補足説明は以上でーす! では参加者のみなさま、頑張ってくださーい!』
そう言って、『さぁ観客の皆さん、どのギルドが優勝するか賭けた賭けた~! 現在の一番人気は「幻影埋葬十三騎士団 ―グランド・バタリオン―」で……ってなんですかこの名前!? きもっ! あ、ちがう、個性的!』などと、ナビィは元気に賭博煽りを始めるのだった。
やっぱりアイツ、運営の子供なだけあるわ。今だからわかるがナチュラルにクズなところがある気がするぞ……!
「はぁ……ボヤいていてもしょうがないか。どうせ全部のギルドを倒す気でいたんだから、フィールドの端っこだろうが中心部だろうが変わらないしな」
ゆっくりと息を吐きながら気分を切り替えていく。
さぁやるか――今回の狙いは短期決戦だ。
何しろこちらのメンバーはほとんどが協力NPCなんだからな。
プレイヤーは倒されても三十分経てば戻ってくるが、NPCたちは死んだらイベントから退場だ。そもそも六万人もいる敵たちとは人数も圧倒的に違うわけだし、削り合いに持ち込まれたら終了だ。
だったら取るべき手段は一つ!
「最初から全力ってなぁッ! 現れろ、ギガンティック・ドラゴンプラントーーーーー!」
『――グガァアアアアアアアアアアアッ!』
俺の叫びに応え、足元に出現する超巨大召喚陣。
その中心部より全長百メートルを超える植物龍、ギガンティック・ドラゴンプラントが姿を現した!
最強の使い魔にして頼れる相棒、ギガ太郎だ。そいつの頭の上に腕を組んで立ちながら、俺は平原に点在するいくつもの建物を睨みつけた。
「さぁギガ太郎! 今回も盛大に、イベント開始の合図をぶっ放してやろうぜーーーー!」
『グガガァァアアッ!』
咆哮と共に七つの花を背中に咲かせるギガ太郎。
かくして次の瞬間、光り輝いたその花弁より、極大のレーザーが解き放たれたのだった!
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