59:オタサーの魔王、ユーリくん!
ちなみに毎度そこらへんに捨てられる『初心者の弓』ですが、書籍版のイラストでは捨てられるたびに傷付いていくということにしました。
最終的にイラストがどうなるか見物ですね!
「ふ、ふひひっ、ハンマーの持ち方はこうするとよくてですな……!」
「ふむふむ、なるほどな~」
ハンマーを持ちながら俺は頷いた。目の前には練習用にと先輩クラフトメイカーが渡してくれた『初心者の剣』が。
よーし、何度か体験させてもらったしコツは掴んだぞ。
やたらと(近くで)熱心に教えてくれた職人プレイヤーたちのおかげで、このゲームにおける鍛冶のやり方がよくわかった。
つまりはこれ、リズムゲームだな。
まず剣を熱して台座に置くと、刀身の一部に一瞬だけ『赤色』『緑色』『黄色』の光が同時に灯るのだ。
それらが出たタイミングで上手くどれかの点滅箇所を叩くと、色に応じて武器のステータスが上昇するようだ。
赤を叩けば『威力』、緑を叩けば『耐久力』、黄色を叩けば『状態異常発生率』といった感じだ。
15回ほど光が灯るようになっているのだが……これを叩くタイミングが非常にシビアだ。
0.1秒以内なら大成功だが、1秒経てば完全失敗で効果なし。逆に能力が下がることもあるとか。
また0.7秒から1秒の間に叩くとプチ失敗という判定になり、能力値増加率は微妙な上に『自爆』という謎の効果が搭載されてしまうそうだ。
先輩クラフトメイカーは「あれは致命的ですぞぉ」と困った顔で語る。
「『自爆』を持った武器は最悪でござる。0.7秒過ぎてしまったと思ったらあえて叩かず完全失敗したほうがいいですぞ。
剣や槍のような近接武器にだけ搭載されるのですが、当たった瞬間に低確率で武器が爆ぜて、敵も使用者も大ダメージを受けてしまうとか。
たしか武器の威力の三倍のダメージが発生するのでしたかな……爆発範囲も数メートルあるゆえ、一瞬で退避するのは難しいでござるなぁ。投擲用に使う手もあるでござるが、筋力値が高いプレイヤーが普通に振るったほうがダメージ出ますぞ」
「へぇー。ちなみに爆発した武器はなくなっちゃうのか?」
「いや、耐久値を1だけ残した状態になりますぞ。見た目的には柄の部分だけが残っているような感じでござるな。
そんな時こそクラフトメイカーの出番ですぞ! 『武器修復』というアーツがあって、アイテムボックス内にある武器の耐久力を回復させることが出来るのですぞ!
少し簡単すぎると思うでござろうが、武器がないと狩りが出来ませぬからなぁ。そこはゲーム特有のお約束というやつですぞ。
ちなみに防具を直すのはかなり難しく、わざわざ作業場に持っていく必要があってですなぁ――」
眼鏡をクイクイさせながらめっちゃ喋る先輩クラフトメイカー。
最初はかなり緊張気味に俺と話していたのだが、作業の説明に入ったあたりでどんどん早口になっていった。
まぁそれだけモノ作りが好きってことなんだろう。
いつの間にか他のクラフトメイカーたちと「防具職人は大変ですなぁ」「いやいや、武器職人も責任重大でござるぞ」「装飾職人だって作業が細かくて難しいですぞ~」とあれこれ話し込み始めた先輩に、俺は苦笑を浮かべる。
さてと、練習は終わりだ。説明もよく理解した。
それじゃあさっそく『大失敗』するとしますか!
俺が炉の前に立つと、目の前に『武器を加工しますか?』というメッセージが現れた。
それを押してアイテムボックスから加工したい武器を選べば作業開始だ。身体が自動で動き、その武器を取り出して炉に突っ込み始める。
このゲームには最初に選択した武器以外持てないという縛りがあるが、それじゃあ職人プレイヤーは仕事が出来なくなっちゃうからな。ゆえにこうした機能があるのだ。
さて、数秒ほど火に突っ込んだところで身体が勝手に剣を取り出して台座に置いた。オレンジ色に燃え滾ったその剣を見て、職人プレイヤーたちがギョッと目を丸くする。
「ファァァァアアアッ!? そ、それはまさか『滅殺剣ダインスレイブ』!?」
「トップクラスの威力を誇る超高額装備ッ! ユ、ユーリ殿それをイジってしまうのでござるか!? 失敗したら大変ですぞ!? 武器の加工は出来る回数が決められていますし!」
ギャアギャアと騒ぐ職人たちに、俺は心中で少しだけ詫びた。
悪いな先輩がた。俺は最初から、失敗する気満々でここに来たんだよ。
「みんな、これからちょっととんでもないことをするけど、声を出さずに黙っててくれるか?」
「は、はぁ……!」
ポカンと口を開けながらも頷いてくれた先輩たちを背に、俺はハンマーを高らかに掲げた。
台座に置いてから10秒、いよいよ作業の始まりだ。
俺は剣の数か所が光るのを確認してから、あえて一秒経つ寸前のところでハンマーを振り下ろした!
ウィンドウに表示される結果は――0.8秒、プチ失敗! 剣の威力が少し上がったのと同時に、『自爆』のデメリット効果が搭載される!
よっしゃーーーーっ! 俺にとっては大成功だ!
「あぁああぁああぁ……!? ユーリ殿、タイミングがズレすぎでござるよぉ……!」
第一打から失敗したように見えたことで、小さく呻き声を漏らす先輩たち。
そんな彼らを背に、今度こそ普通に成功して威力を上げようと思った時だ。ここでふと思った。
何度も何度も連続で『自爆』の効果を付与し続ければどうなるのかと。
このゲームには数字を重ねることで何かが起こることが多い。
特定の行動を重ねればスキルが身に付く制度だし、教皇グレゴリオンを焼いた時だって、『灼熱化』した地面に火属性攻撃をしまくったらフィールド異常が悪化したしな。
もしかしたら何かが起こるかもしれない……そう考えた俺は大成功する可能性を捨て、あえてプチ失敗を狙いまくった!
「よっ、ほっ、今だ!」
「ぎゃーーーーー!? ユーリ殿なにをやってるのですかーーー!?」
時にはうっかり0.6秒で叩いて成功してしまったりしながら、何度も回数を重ねていく。
そうしてついに十五打……十回目のプチ失敗を引き当てた時だ。目の前に武器の完成ステータスが表示された。
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・武器の加工が終わりました。
『滅殺剣ダインスレイブ・ダブルツインマークツーセカンド』(ユーリ命名):威力40アップ。特殊効果『大爆発』獲得!
『大爆発』:刀身がヒットしたとき高確率で発動。耐久値1を残し、武器の威力十倍分のダメージが発生する爆発が起きる。
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「か、完成した……完成したぞ!」
その結果に俺は大満足した! 高確率で発動なんて、そんなもん幸運値極振りの俺からしたら絶対に起きるようなもんだ。
元々禍々しいデザインだったダインスレイブからは、今や赤黒い瘴気のような魔力が満ち溢れていた。まさに触れたら滅びるぞって感じだな。
いいじゃないか、気に入った! 光の勇者である俺が闇の武器を装備したら最強になるからな! さっそくボックスにしーまおっと。
さてと、というわけで大満足な結果に終わった俺なんだが……先輩たちはかなり湿っぽい雰囲気だ。
俺のことを気遣わしげな眼で見てくる。
「その……ユーリ殿、やはり初心者が激レア武器でいきなり本番というのは、その……」
「ま、まぁ自爆効果を持った武器でも、ダインスレイブならそこそこの値で売れますぞ……たぶん……!」
「あまりにも才能が……いや、なんでもないでござる……!」
……仕方のないことだが、大失敗してしまったと勘違いしている先輩がた。
うーーーん、本当なら爆発武器のことは秘密にするべきかもしれないが……まぁ彼らには世話になったからな。
みんなとても親切にしてくれたし、蘊蓄語りで学べることも多かった。バトルだけが遊び方じゃないとよく理解できたよ。
ゆえに彼らに見せてやろう。
最弱以下の存在として扱われるクラフトメイカーたちに、役に立たない存在などないのだと。
「……お前らよく見てろ。失敗作だろうが不遇ジョブだろうが、ようは使い道の問題だ。『絶対にコレで最強になりたいんだ』と思えば、あとは気合と努力とちょっとした工夫で大体どうにかなるんだよ」
俺は窓から見える中庭のカカシに向かい、スキル【武装結界】を発動させた。
背後に現れた召喚陣より顔を覗かせるダインスレイブ。瘴気を纏ったその切っ先が、外のカカシを捉えた瞬間――、
「弾け飛べぇッ!」
そして射出される滅殺剣。漆黒の残影を残しながら獲物へと突き刺さり、次の瞬間、ボォオオオオオオオオンンッ! という音を立てて大爆発を巻き起こした!
「「「うわぁああああああーーー!?」」」
絶叫を上げる職人たち。あまりの衝撃に空気が激震し、工房内に爆風が吹き荒れて多くの者が吹き飛ばされた。
だがしかし、誰もが目だけは瞑っていない。ゲーム内でさえモノ作りに身を捧げるような男たちは、俺が生み出した『発明品』の威力に大きく目を見開いた。
「どうだ、強力だろう? 武器の威力十倍分のダメージを誇る爆発を、俺の持っているダメージアップ系スキルでさらに十倍に強化したんだ。
つまり威力は驚異の『百倍』。あれこれ要素を組み合わせるだけで、失敗作がこの通りだ」
「ッ……!」
ゴクリと息を飲む職人プレイヤーたち。彼らは俺の背後で炎上する中庭をじっと見ていた。
その爆炎の規模たるや、テニスコート二面分はあった中庭を丸ごと焼き払ってしまうほどだ。まさに本当のミサイルだな。
運営からダメージ増加率は十倍までという制限を受けたが、大爆発で起きるダメージはあくまで『武器の威力十倍分』。つまり武器のダメージを十倍にしたわけじゃなく、爆発のダメージ自体はそこが基準値なんだ。
あとはそれを十倍にすれば、この通り。やばい兵器の誕生ってわけだ。
俺は爆風で乱れてしまった銀髪を掻き上げながら、この場から退散することにする。
「じゃあ先輩がた、モノ作りの基礎も学んだし俺は場所を移すことにするわ。
……さぁ、これからどうするかはアンタたち次第だ。このまま戦闘職から舐められっぱなしで終わるか、あるいは気合と根性で現状を打開するか、好きなほうを選んでくれ」
色々と教えてくれた礼にいくつかの最高級素材を置き、俺は工房の外に出た。
――その瞬間、男たちの熱意に溢れた咆哮が木霊する。どうやら方向性は決まったようだ。
「す、すごい……なんでござるかアレは、めちゃくちゃではござらんか! なぁ、拙者たちもあのようなすごいモノを作ってみませぬか!?」
「あぁ……! ユーリ殿のようにあれこれ工夫しまくって、戦闘職どもにギャフンと言わせてやりましょうぞッ! そうだっ、たとえば爆発する鎧なんて作ったりしてですなぁ――!」
希望と殺意に満ちた声色で語り始める職人たち。
そんな彼らの声を満足げに聞きながら、俺は利用できる工房を探しに行ったのだった。
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