58:オタクを騙すな、ユーリちゃん!
「というわけで、新人武器職人のユーリです。今日はよろしくお願いしまーす」
「「「えええええええええええええええ!?」」」
あれから数十分後。俺は『始まりの街』で開かれているクラフトメイカー工房にやってきていた。
とても広い場所で道具の貸し出しも自由なため、自分の工房を持たない駆け出し職人たちが多く集まる場所らしい。『みんなで仲良く利用しましょう。先輩クラフトメイカーは、初心者さんにアドバイスをしてあげてね』と看板に書かれていた。
まぁ、みんな俺を遠巻きに見ながらヒソヒソ話し込んでいるんだけどな。
「どどどっ、どうしてあの方がここに……!?」
「拙者たちのことを馬鹿にしに来た……というわけではござらぬよなぁ……?」
「偽物にしては美人過ぎますぞ……!」
「そ、装備がなんともいやらしいことに……!」
などなど、パニクっているせいか少しボリュームの大きすぎる声で噂しまくっている。ていうかなんでみんな眼鏡かけてクイクイさせてんだろう?
その中の一人が、おずおずと俺に訊ねてきた。
「し、失礼しますぞ! ユーリ殿と言えば、もしやバトルロイヤル優勝者のユーリ殿でござるか……!? 暴れすぎて出禁を喰らったという伝説の……!」
「まぁな。セカンドジョブにクラフトメイカーを取得したから、基礎を学びに来たんだよ」
「えええええええ!? ど、どうしてクラフトメイカーのような戦えないジョブを取ってしまったんでござるか!? それに情報によると、このようなところに来なくても自分の街をお持ちなのでは……!」
「あぁ、まぁ色々あってな……」
今から少し前のことだ。ヘルヘイムの工房の隅っこにて、職人NPCにちょいちょいとアドバイスを貰いながら装備作りに励もうと思っていた時のこと。
なんと工房ではグリムのヤツが職人NPCたちを何十人も総動員して、半泣きになりながら装備を作りまくっていた。
一体どうしたのかと聞いてみれば、
『うぅぅ……次のイベントポイントは分配式になるという件で、掲示板ではクラフトメイカーに与えるポイント量は少なめにすべきなんじゃないかという意見が流行っておる!
ふざけるなっ! みんな私の装備でぶっ殺してやるーーーーーー!』
……とのことだ。
補助役のNPCたちにあれこれ命令を飛ばしたりしながら、同時にいくつもの作業台を周って武器や鎧をガチャガチャ作っていくグリム。本当に彼女は七百人以上もいる戦闘用NPCたちの装備を全部仕上げる気でいるらしい。ちっちゃな身体からは汗と熱気と鬼気迫るオーラが出ていた。
そんな姿を見せつけられたら邪魔するわけにはいかないだろう。生産職の彼女にとっては、あそこが戦場なのだから。
ゆえに、俺も俺で初心者らしく、みんなの作業風景から学んでいこうと思ったわけだ。
爆発するような失敗作を作るにしても、基礎が理解できていればそれだけ盛大に『大失敗』する方法がわかるってことだからな。それに爆発物だけじゃなくて色々と作ってみたい気持ちもあるし。
ちょうど工房の中庭には試し切り用の簡素なカカシが立ってるから、あれで威力を確認することにしよう。
「とにかく、みんなの邪魔をする気なんてないから、俺に気にせず作業してくれ。……あ、でもわからないことがあったらたまに教えてもらってもいいか? その――初めてだからさ、こういうの……」
「フォアッ!? りょっ、了解しましたぞーッ! せせっ、拙者でよければユーリ殿の『ハジメテ』、どうか面倒を見せさせてくだされーーーっ!」
少し恥ずかしげにお願いすると、先輩クラフトメイカーは何やらやたらと気合の入った様子で頷いてくれた。
こちらを遠巻きに見ていた他の職人プレイヤーたちも、「いやいや自分が教えますぞッ!」「拙者のほうがテクニシャンですぞー!」「手取り足取り指導しますぞッ!」と熱のこもった表情で集まってくる。
お~、クラフトメイカーっていい人たちばっかなんだな~!
俺は礼を言いながら、気の良い彼らに明るく微笑むのだった。
根暗系職人ども「オゥフ!?」
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