55:ギルドの守護神、ゲットだぜ!
さぁ、このまま切り刻んでやろうと再び矢を構えた時だ。クトゥルフ・レプリカの身体に変化が起こった。
『グ、ギッ、ガァアアアアアーーーーーーーーッ!』
「っ!?」
ヤツの身体が破裂したのだ! 間近にいた俺は当然避けることも出来ず、その風圧により吹き飛ばされた。
衝撃自体は大したものじゃなかったが、俺のHPは所詮1だ。一瞬にしてゼロになるところだが、
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・スキル【執念】発動! HP1で生存!
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「っと、あぶねーっ!? 流石に破裂するとは思ってなかったぞ……!」
ズザザザッと地面を後退させられながら、食いしばりに成功したことに安堵する。
そうして再びクトゥルフ・レプリカを睨み付けようとしたが、なんとヤツの姿は消え失せていた。
まさか先ほどの爆発で死んでしまったのかと思った瞬間、
『ギギャァアアーーーーーーッ!』
けたたましい咆哮が俺の頭上から響き渡った!
咄嗟に上を見れば、なんとクトゥルフのヤツがシャンデリアのように天井から生えていたのだ。
身体はどことなく小さくなっているようだが、それでも人間よりは何十倍もデカい。ヤツは九つの口をバラバラに変化させると、粘液を帯びた何百本もの『舌』に変え、俺に向かって放ってきた!
「っ、地脈憑依型の本領発揮か……! どこからでも肉体を再構築できる上、攻撃方法も自由自在かよ!」
九本の首で避けられるなら何百本もの舌で絡めとってやればいいってか? シンプルだがこの上ない解決策だ。
だが、そう簡単に捕まってやるかよ! スキル【武装結界】を発動し、宝剣や魔槍を放って迫りくる舌を切断していく。
もちろん常に移動することも忘れない。立ち止まろうものなら、地面から生えてくる牙に刺されて串刺しだ。本当にいやらしいことこの上ないな!
俺はまだなんとかなってるが、他のサモナーやクラフトメイカーはこの状況をどう突破するのだろうか。ボスに挑むためにはその二つのジョブを持ったプレイヤーが必要になるようだが、ハンパなヤツなら一瞬で死にそうだ。運営のことだから絶対に適当に作っただろうこれ……!
俺はボスの攻撃を凌ぎながら考える。
「さてどうするかな。二十分間、ただ生き残るだけなら簡単だ。攻撃を撃ち墜としながら走り回ればどうにかなる」
だが、倒すとなると難しくなる。
全体攻撃の嵐を超えてダメージを与えても、また肉体を破裂させてどこかに逃げられるのがオチだ。
しかも舌を増やして接近されづらくしてきたように、肉体を変化させてどんどん弱点をなくしていってしまう。
そうして深く考えること五秒――よし、攻略法は出来上がった。じゃあさっそく殺すとしますか!
俺は逃げるのをやめるのと、勢いよく助走をつけてクトゥルフへと飛び上がっていった。
その行動に驚くクトゥルフ。だがそれも一瞬のことで、ヤツは瞳をニタリと歪ませる。ヤケクソになったとでも思いこんだのだろう。
『ギギャヒィイイーーーーッ!』
そうして放たれる何百本もの舌の群れ。粘液を帯びたそれらは俺の身体に巻き付いていき、瞬く間に行動を封じ込めた。
「くぅうう……ッ!?」
『ギギャギャギャッ!』
息を漏らした俺の姿に、クトゥルフは喜びの声を上げる。
さぁ、こうなればあとは簡単だ。『舌』で絡めとったなら、あとは獲物を食すのみだろう。
クトゥルフ・レプリカはタコのような頭部をばっくりと開け、何億本もの乱杭歯が生えた地獄のような口内を俺に見せつけてきた。
なるほど、【執念】対策として肉体を変化させた結果がコレか。予想はしてたが恐ろしいな。
あの口の中で咀嚼されたらもうお終いだ。【執念】による食いしばりは所詮確率で発動するもの……何億もの攻撃判定なんて全部無効化できるわけがない。
黙り込む俺に禁断邪竜は勝利の雄叫びを上げる。
『ギシャーーーーーーッ!』
ついに訪れる最後の時。
余計な行動をさせる暇など与えないとばかりに、ヤツは一瞬にして自分の舌ごと俺を口内に引きずり込んだ!
かくして、全方位から歯が迫ってくる――その瞬間。
「喰えるものなら、喰ってみやがれーーーーーーッ! 必殺アーツ発動、『滅びの暴走召喚』!」
俺の周囲に出現した『百の召喚陣』が、クトゥルフの体内より光を放った――!
そして現れるモンスターたち! 全身から棘を生やした巨大昆虫『ジェノサイド・ビートル』が、十メートル以上の巨体と灼熱の身体を誇る溶岩巨人『ラヴァ・ギガンテス』が、全身が酸と毒液で出来た凶悪粘体『ヴェノムキリング・スライム』が、その他ここ数日の間に捕まえてきた高レベルモンスターたちが、クトゥルフ・レプリカの体内で一斉召喚される!
『ギギャヒィィィイイイイイイイイイイイッッッ!?』
それによって大絶叫を上げる禁断邪竜。内部からは見えないものの、ヤツの身体は風船のようにパンパンに膨らんでいることだろう。
ちなみに俺は全然余裕だ。ペチャンコにならないよう、頼もしい仲間が守ってくれてるからな。
「ありがとうな、マシンゴブ太郎」
『グゴォーッ! ゴシュジン、マモル!』
ゴブリンキングの肉と古代機械を融合させて産み出した鋼の巨人、『キメラティック・マシンゴブリン』に俺は抱かれていた。
どうだクトゥルフ? いくらお前が変幻自在だろうが、中心核となる身体の中をいきなりモンスターの群れで埋め尽くされたら苦しいだろう。
当然お前は破裂して逃げようとするだろうが、
「モンスターたちよ! 好き放題に暴れ回れーーーーーーッ!」
『『『グガァァアアーーーーーーーー』』』
俺の命令に応え、百体ものモンスターがクトゥルフの体内で暴虐を繰り広げる!
何発もの攻撃同士がぶつかり合ったりもするが、その衝撃を一番受けるのはクトゥルフだ。胃の中で鉄球がぶつかってるようなもんだからなぁ。
柔らかな粘膜はズタズタに裂けていき、体内は鮮血と肉片と狂喜乱舞するモンスターたちの咆哮で満たされていく。
これが破裂して逃げることへの対策だった。
ある程度追い詰めたら破裂してしまうのだったら、一瞬にしてHPを削り切ってしまえばいいことだけだ。
さぁ、たっぷりと味わえよクトゥルフ・レプリカ! 矢を百本ほどチクチクと刺したダメージなんかじゃないぞ。
全てがクリティカルポイントな体内で、凶悪な高レベルモンスターたちによる攻撃を一つ残らず食らいやがれッ!
『ギヒィイイイイイイイイーーーーーーッ!?』
洞窟内に響く絶叫。もはや破裂するまでもなく、禁断邪竜はその肉体を肉片へと変えられていった。
そしてついに、ヤツの身体がパァァァァァァンッと音を立てて弾け飛び……!
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おめでとうございます! ハイレベルダンジョンボス:禁断邪竜クトゥルフ・レプリカのソロ討伐に成功しましたッ!
ユーリとポン太郎たちは大量の経験値を手に入れた!
地脈憑依型ボスモンスター『禁断邪竜クトゥルフ・レプリカ』が仲間になりました!
※地脈憑依型モンスターは、所有している土地に一体だけ憑依させることが出来ます。
このとき召喚枠は消費しません。レベルはプレイヤー自身と同等になります。
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「いよっしゃーーーッ! ギルドの守護神、ゲットだぜー!」
俺は地面に投げ出されながらガッツポーズを取った!
クトゥルフの力があれば百人力だ。どんな相手がギルド内に侵入したって、9999体の配置モンスターとコイツがいれば排除できる! これで守りは完璧だ!
つまり、敵のギルドを殲滅することだけに集中できるようになるってことだな!
俺は三日後のギルド大戦を前に、ワクワクと胸を高鳴らせるのだった。
クトゥルフ「えッ、頑張って逃げたのになんで五秒で殺害方法思いついてるんですか……!?」
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