50:まさかのおかわり、新不遇要素ゲットだぜ!
ザンソードに勝利した後、俺はヘルヘイムの街に戻ってきていた。
その途中でスカウトを終えて帰ってきたシルと再会したので、二人でぶらりと街を歩く。
「へ~、それでもう50レベルになっちゃったわけ? アタシはアンタからもらった激レア大剣を振り回して、ようやく40になるかどうかだってのにぃ……!」
「まぁ油断は出来ないけどな。ザンソードみたいに、俺よりもレベルが高いプレイヤーはほんの一握りだけどいるみたいだし」
「あー……そりゃあまぁどのゲームにもいるわよね、無職――ああいや、時間のたっぷりある人は……」
微妙な表情をするシル子さん。
その辺については仕方がないな。代わりにこっちには資金力がたっぷりとあるんだから、それを活かしていくことにしよう。
訓練場の前に辿り着いたところで彼女と別れることにする。
「じゃあね魔王様。アタシも装備を一新したいし、アンタがスカウトしてきたグリムって子のところに向かうとするわ。
あとはそうねぇ、連れてきた傭兵NPCたちに街を案内してあげようかしら。アイツらモンスターがそこら中にいることを警戒して、すぐに居住区に向かっちゃったみたいだから」
「ははっ、ここはそういう街だからな。傭兵どもの指揮権は全部シルに任せるから、イベントまでに仲良くなっておいてくれ」
「了解っと」
ひらひらと手を振りながら、シルは殺人イモムシや人食い虎が徘徊する雑踏の中に紛れていった。
途中で「お疲れ様です、シル子のアネキィッ!」と挨拶してくる(なぜかモヒカンになった)サモナーNPCたちと自然に言葉を交わしているのを見るに、彼女もすっかりこの街の空気に馴染んだようだ。よかったよかった。
サブマスターの姿に一安心した後、俺は『セカンドジョブ』を決めるために訓練場の中に向かって行った。
◆ ◇ ◆
『キシャー!』『キシャシャッ、キシャー!』『キシャ~!』
だだっぴろい訓練場の中、追いかけっこをするポン太郎とポン次郎とポン三郎とポン四郎とポン五郎とポン六郎とポン七郎とポン八郎とポン九郎とポン十郎とポン十一郎たちを微笑ましく見ながら、俺は腰を下ろしてメニュー画面を開いていた。
セカンドジョブを習得するという項目を押すと、ずらりといくつもの職業リストが現れる。
「さーて、どれにするかなー」
候補となるのはザンソードと同じ『エンチャンター』だな。武器に魔法属性を宿して威力アップってのは、単純だけど一番安定する道だ。
次に候補となるのは『アーチャー』かな。弓を持つ者の正規職で、セカンドジョブにこれを選べば様々な弓系アーツが使えるようになるはずだ。
飛ばした矢を分身させるようなアーツとポン太郎たちの分身能力を合わせれば、クソ運営に減らされてしまった分身数を補うことが出来るだろう。矢の雨を再び降らせることも可能かもしれない。
だけど、それじゃあちょっとつまらないよなぁ?
そう思った俺が頼ったのは、長い付き合いになる『ブレスキ攻略サイト』だった。俺を騙してくれたこのサイトだが、有用性はハンパない。
メニュー画面から外部インターネットに接続する機能を使い、『最強ジョブランキング』というページを見ていく。
「ふむふむ、上位陣は剣士や槍使いみたいなオーソドックスなやつばかりか。スキンヘッドが選んでる『グラップラー』系は、安定性が低いから下のほうにあるな」
コメント欄には『魔王と凄いバトルをしてたから選んでみたけど、なんだよこれ。ステータス強化するためにHP削りまくってすぐ死んじゃうじゃねーか』と愚痴のような言葉がいくつか書かれていた。
まぁ仕方がない。スキンヘッドみたいな戦い方が上手いヤツだからこそ使いこなせる上級者向けのジョブってことだろう。
ちなみにアーチャーのジョブも、矢の命中率問題がどうにかなっていないせいでまだ下のほうにあった。
俺の場合は、『サモナー』のジョブスキルで憑依モンスターを仲間にしたからこそどうにかなっただけだからな。まっ、気合と根性さえあれば正規の弓使いたちもそのうち解決策を見出すことだろう。
「お、俺が暴れ回ったおかげかサモナーはかなり上がってるなぁ。まぁ中の下くらいの位置だけど、最弱扱いだった頃よりマシか。
じゃあ今の最底辺にはどんなジョブが……おっ?」
スクロールして見ていくと、ジョブランキングのラストには『クラフトメイカー』というものがあった。
ただし名前の横に注意書きとして、『いわゆる職人ジョブ。様々なアイテムの製造が出来るようになる。戦闘には関係ない職業であるため、最強ランキングには実質含まないものとする』と記されていた。
コメント欄にも、
『戦闘用アーツ、まさかのゼロ。例外扱いで議論の余地なし』
『もはや弱いってレベルですらない。完全に戦えないんだから、ザコ扱いするのは可哀想』
『フィールドで素材を取っているのを見かけたら、優しく声をかけて守ってあげよう。モンスターに襲われたらどうせすぐ死んじゃうからね』
などなど、気を遣いすぎて逆に失礼なんじゃと思う言葉が多数寄せられていた。
あ~、フランソワーズやグリムが選んでるのはこれか。一応サモナーよりもさらに下のジョブがあったんだな。
ただ注意書きの通り、生産職に戦闘力を求めるのは間違っているだろう。アイテムを作ってくれる職人プレイヤーを馬鹿にするわけにもいかないので、実質的な最弱ジョブはサモナーとされていたわけか。
「う~ん。ソロプレイヤーならバトルも生産も出来たら便利だろうけど、俺にはグリムがいるからなぁ。セカンドジョブ候補からこれはポイだな」
とはいっても、ギルドマスターとして仲間のジョブ性能を把握しておいたほうがいいかもしれない。
そんなことを思いながら『クラフトメイカー』の説明ページを見た瞬間、俺は大声を上げることになる。
「なっ……なんだこりゃー!? この職業、俺と相性ピッタリなんじゃないか!?」
思わぬ発見に驚愕する。クラフトメイカーの説明ページにはこう書かれていた。
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『クラフトメイカー』
このジョブを選んだものは、以下のジョブスキルを獲得する。
【生産】:アイテム・装備の合成・強化・製造が行えるようになる。またその際、完成度によって経験値も手に入る。
【運搬】:アイテムを持ち運べる数が、50から200にアップする。
【転送】:アップデートで追加された新ジョブスキル。ギルドに所属しているクラフトメイカーのみが使用可能。
アイテムボックスがいっぱいになった時、手に入れたアイテムがギルドの保管庫に自動転送される。
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この二つ目の【運搬】というジョブスキル、これが大変すばらしい!
以前から武器を射出しまくるスキル【武装結界】を使う時、一度にもっと武器を飛ばせればな~と考えていたんだ。
スキル【武装結界】で出した武器は三秒でアイテムボックスに戻るから弾切れの心配はないんだが、持ち運べるアイテムは50個までだから、せいぜい20個くらいしか武器を持っておけなかった。
つまりはそれが一度に飛ばせる限界量だ。MP回復アイテムや、素材を手に入れるための枠も確保しておかないといけないからな。
それに矢の一本一本がアイテムボックスを圧迫していたため、そりゃあもうキツキツだったさ。これもまた弓矢が最弱武器扱いされる原因の一つだろう。
だがしかし、この【運搬】のジョブスキルと、溢れた素材をギルドに送り付ける【転送】のジョブスキルがあれば、そんな悩みはもう必要ない!
俺はセカンドジョブとして、最強ランキングからはもはや別枠扱いされている真・最弱ジョブ、『クラフトメイカー』を選択した!
「よーしっ、さっそく試してやるかーーーーッ!」
俺は立ち上がって弓を構えた。思わぬ発見から手に入れてしまった超戦闘力、一刻も早く試さなければ!
期待に胸を弾ませながら、訓練場に搭載された『倒したことのあるボスを再召喚する機能』を発動させる。
「現れろ、訓練用ギガンティック・ドラゴンプラントーーーーーーッ!」
『グガァアアアアアアアアアアアーーーーーッ!』
俺の叫びに応え、地面から百メートル級の超巨大怪獣、ギガンティック・ドラゴンプラントが姿を現した!
倒しても経験値の入らないニセモノだが、見た目と性能だけは本物だ。50レベルに達した今でも、かなりの苦戦を強いられるはずだろう。
だが、
「ギルドシステム発動。アイテム保管庫より、全ての武器を俺の下へ!」
ここでアップデートにより追加された特殊機能を発動させる。
ギルドに所属している者は、その敷地内にいる限り、保管庫からアイテムを自由に出し入れできるのだ。
それによって俺は急増したアイテム所持可能枠へと剣や槍を山ほど詰め込んだ。
『グガガァアアアアーーーーッ!』
そんな俺に対し、ギガンティック・ドラゴンプラントが動き出す。
何十もの触手を放ち、こちらを絞め殺さんとしてくるが――、
「スキル発動! 【武装結界】、フルオープンッ!」
もはやその程度の数の触手では、この俺を止められるわけがない。
叫んだ瞬間、俺の背後に無数の召喚陣が現れる。それは二十、四十、六十、八十を超え、ついに『百三十』もの数となって、魔力の光を輝き放った。
俺は後光に照らされながら、ギガンティック・ドラゴンプラントへと告げる。
「悪いな、訓練用ギガ太郎。実験台として死んでくれ――ッ!」
そして放たれる武装の嵐。
収集してきた数多の剣が、槍が、斧が、鎌が、槌が、植物龍の巨体目掛けて射出されていった。
『グギガァアアアアアーーーーッ!?』
圧倒的すぎる暴力を前に、訓練用ギガ太郎は絶叫を張り上げた。
触手によって身を守ろうとしたが無駄だ。俺の極振りした幸運値により、投擲した全ての武装が特殊効果を発動。
炎剣に焼かれ、氷槍に凍らされ、その他さまざまな武器によってありとあらゆる状態異常を引き起こされ、植物龍は一瞬にしてそのHPを吹き飛ばされたのだった……!
「――よっしゃぁッ! 何が例外だよ、強いじゃないかクラフトメイカーッ!」
確かな手ごたえにグっと拳を握り締めた。
あの強力な巨大ボスを、わずか数秒で一方的に倒してしまったのである。他のジョブを選んでいたら絶対にこうは行かなかっただろう。
さぁ、イベントの時に見せてやろう!
俺の新たなる不遇要素、『生産職』の恐ろしい力をなぁーーー!
・全生産プレイヤー「え、そんな力の使い方知らないんですけど……!」
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『生産職、恐ろしい連中だぜ……!』
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