45:開花させなくてもいい才能を開花させたよ、グリムちゃん!
「装備のほうはどうなったかな~と」
グリムを拾ってから一日。俺はログインすると、さっそく彼女に与えた屋敷に向かった。
巨大都市・ヘルヘイムの中でも一番大きな屋敷だ。これをプレゼントした時にはグリムのやつ、ポカーンと口を開けて呆然としてたっけか。その後、いくつかの装備店を潰して職人NPCと素材を全部彼女のものにしてやったら、まーたガックンガックン震え始めたんだがな。「ハイレベルクラスの職人たちと激レア素材を山ほど私に……!? えっ、これ期待に応えれなかったら私どうなるの……?」と慄いていた。
さて、屋敷に着いたな。
「邪魔するぞー」
大きな扉を開けて作業場となったフロアまで突き進んでいく。
ちなみに俺の今の服装は初期装備の黒いワンピースドレスだ。装備の改良というのも出来るらしいから、フランソワーズにもらった『死神のドレス』セットも全部グリムに渡したんだ。そしたらアイツ、また震えながら「えっ、トップ職人のフランソワーズの作品に手を加えろって!? しかも、これでもしも壊しちゃって魔王殿の戦力を下げちゃったら……ふえぇええぇえ……!」と不安で泣き出してしまった。負けん気と信念は十分なんだが、どうにも小心者な職人様である。
まぁ「頼むグリム、俺が頼れるのはお前だけなんだ……!」と言ったら、ちっちゃい身体を奮わせて、なんかすっごくやる気になり始めたが。
ただ本当のことを言ったまでなんだが、奮起してくれたみたいで何よりだ。
昨日のことを思い返しながら作業場にお邪魔する。すると、グリムが腕を組みながら自信満々の表情で俺を待ち構えていた。
「クーックック、来たか魔王殿! そなたの装備はバッチシ出来ているぞっ!」
「おう、期待してたぜグリム。もちろん、注文通りの幸運値一極補正なんだよな?」
「うむ。強化率を上げるために、他のステータスにマイナス補正をつけたほどだ。一般的なプレイヤーが見たらドン引く品々だが、作ってて楽しかったぁ……!」
と言いながら、ツヤツヤとした顔で笑みを浮かべるグリ子さん。そういうイカれ装備が大好きだからなぁコイツ。
そう、彼女に頼んだのは極限までの幸運値補正だ。
実は昨日、グリムの店で買った『呪われし姫君の指輪』というアイテムのおかげで、運営に弱体化させられた【執念】のスキルが再び力を取り戻した。
五秒に一度しか攻撃が耐えられなくなってしまっていたが、指輪の『装備者のHPを常時1にする代わり、極低確率でスキルの再発動までの時間を0にする』という効果により、その制限をなくすことに成功したのだ。
ただしこれからは初期と違い、極低確率でしか発動しない指輪+低確率でしか発動しない【執念】の二つの判定をクリアしなければ、連続攻撃を耐えることは出来なくなっちまったんだがな。
ならばどうする? 決まっている。
「難易度が二倍になったなら、それだけ幸運値を叩き上げればいいってな! さぁグリム、さっそく渡してくれ」
「おうとも! どれもこれも自信作だぞ~!」
むふーっと小さな胸を張るグリム。その微笑ましさに笑いながら、俺は早速アイテムボックスに送られてきた品々を確認する。
さて、補正値30からどれだけ上がったか……!
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・頭装備『呪われし死神姫の髪飾り』(作成者:フランソワーズ 改変者:グリム)
装備条件:プレイヤーの筋力値・魔力値・防御値・敏捷値全て半減 MP+100 幸運+300
・体装備『呪われし死神姫のドレス』(作成者:フランソワーズ 改変者:グリム)
装備条件:プレイヤーの筋力値・魔力値・防御値・敏捷値全て半減 MP+100 幸運+300
・足装備『呪われし死神姫のブーツ』(作成者:フランソワーズ 改変者:グリム)
装備条件:プレイヤーの筋力値・魔力値・防御値・敏捷値全て半減 MP+100 幸運+300
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「って、うっわぁぁああ……! 『30』から『300』って上がりすぎかよ……!? MPの補正値も三倍以上になってるし、すごいなこれ……!」
「フゥーハッハッハッハー! どうだ見たか、これが我の力だ! すごいだろーっ!」
「ああすごい! やっぱりグリムは天才だ! お前に会えて、本当に良かったッ!」
「ふええっ!?」
ギュっと手を握りながら素直な想いを告げると、グリムは顔を赤くして固まってしまった。
だけど本当のことだからもっと言ってやる!
「ありがとう! 偉い! 有能! すごい! お前と出会えた幸運に、俺は嬉しくてたまらない!」
「まっ、魔王殿やめてぇー!? わたっ、わたし、褒められ慣れてないからぁ……!」
プルプルと震えながらいよいよグリムは柱の陰に隠れてしまった。
全部本当のことなんだから、素直に受け止めてもいいと思うんだけどな~?
さてと、彼女を褒めるのはこれくらいにしてさっそく装備することにしよう。
以前はアイドル風のゴシックドレスだったけど、今回はグリムに「男性向けの良いデザインにしてくれ」って頼んでおいたからな。
どうなったか期待しながら装備類のアイコンをタップすると、俺の身体は光に包まれ――、
「――って、なんだこりゃーーーーーーッ!? なんか肌の露出が増えてるんですけど!?」
「えっ、だって魔王殿、『男性受けのいいデザインにしてくれ』って言ってたし、めっちゃ張り切ってみたんだが……」
んなっ、聞き間違えられてるー!?
……些細な伝達ミスにより、死神のドレスシリーズはエロ方面に進化を遂げていた。
ただでさえ肩と脇が丸出しだったというのに、さらに横乳のあたりまで大きく布面積が削られていた。
それにスカートの生地もめっちゃ薄い。これまでの構造通り何重にもなってるからまだいいが、一枚一枚で見てみたら、透けてるぞコレ……!
一応、腕から腰を通す感じで『天女の羽衣』のような細長い薄紫の布が追加されてるが、清楚さなんて絶無だ。むしろ露出多めで生地はスケスケなドレスと相まって、妖艶さが上がってるだけだ。
クッ……しかもなんだこりゃ、胸のあたりがキツくなってボディラインが出やすくなってやがる……! あえてワンサイズ落としてエロく着せるテクニックとか、どこで覚えてきたんだよグリムッ!?
「なぁグリム、このゴシックアイドルエロドレスのデザインは誰かが教えてくれたのか……?」
「えっ? ほとんど直感で作っただけだけど……?」
ちょ、直感でコレ!? こ……こいつ天才だーーーーーーッ!? ちっちゃなくせしてエロ装備作りの天才だッ!?
俺はとんでもない逸材を拾ってきてしまったことに、改めて戦慄を覚えるのだった……!
「えっ、もしかして私ってセンスなかった!? いじり直したほうがいい!? ……そしたら、ステータス補正値が落ちちゃうかもだけど……!」
「……いや、お前は素晴らしい才能の持ち主だ。自信を持って胸を張ってくれ」
「えっ、そう? よかったぁ……!」
ホッと無邪気な顔で微笑むグリ子さん(エロ改造の天才)。性能が下がるかもしれないデメリットも含め、こんな顔を見せられたらとても「ボツだ」なんて言えない。
――よし決めた。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』って言うしな、シルのやつが帰ってきたらアイツの装備もエロくしてやろっと!
・エロ装備から仲間の絆が生まれると信じて――!(※たぶん生まれない)
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