44:いきなりトップ職人だよ、グリムちゃん!
「――フッ、すまなかったな魔王よ! 貴殿の覇気に当てられ、つい正気を失ってしまった……!」
「そうだな、まさか『ひゃぃぃぃいいい』なんて声を上げられるとは思わなかったわ」
「やっ、やめてー!?」
気恥ずかしさから顔を真っ赤にするグリム。こうして彼女と話せるようになるまで数分はかかった。
さて、それじゃあ自慢の商品を見せてもらおうか。それで腕前を判断することにしよう。
ちっちゃな小屋の中、彼女にそう告げると……、
「わ、私の作るやつはよく、β時代じゃ馬鹿にされてきた。フランソワーズのように認めてくれる者もいたが、大概の者は微妙な顔をするばかりだ。とても『王道』になれるものじゃない……」
悔しそうに俯くグリム。だが俺のほうを向き直ると、強い眼差しで言い放つ。
「しかしっ、魔王殿ならば我が創作品を認めてくれるはずだ! 幸運値極振りでトッププレイヤーとなったアナタならば!」
そう言うと、グリムはメニューを操作し、俺の前にいくつかの商品リストを表示させた。するとそこには、
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頭装備『呪われし姫君のベール』(作成者・グリム)
装備条件:HP・MP残量が一割以下のプレイヤーのみ
防御値+500
武器『呪われし姫君の槍』(作成者・グリム)
装備条件:筋力値100以上
威力300 切れ味300 装備者の防御値・敏捷値-300
装飾品『呪われし姫君の指輪』(作成者・グリム)
・装備者のHPを1にする。装備中、極低確率でスキルの再発動までの時間を0にする。
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「な、なんだこりゃ……!」
グリムの作ったものは、どれもこれもHPやMPが切れそうなときのみ装備できるものや、装備すると特定のステータスを大きくマイナスするものばかりだった。
そりゃ王道になれるわけがない。大して売れないのも納得の、安定性の欠片もないピーキーなものばかりだ。
驚愕する俺に対し、グリムは目を潤ませながら宣言する。
「なっ、何かを捨てるからこそ大きな力を得られるッ! これこそがロマンっ! これこそが、我の装備品に対する信念なのだ!
どうだ魔王殿よ、私のセンスは気に入ってくれたか……!?」
訴えるような、すがるような目で問いただすグリム。
……こんな問題作ばかり見せつけられたら、答えは決まってるじゃないか!
「気に入ったッ! 俺はお前の商品も、お前の信念も全部気に入ったッ!
ぜひともギルドに来てくれよグリム! お前の力が必要だっ!」
「う……うんっ!」
自然と握手を交わし合う俺たち。こうして俺のギルドに新しい仲間、職人のグリムが加わることになるのだった。
俺は彼女の腕前に満足しながら、メニューを開いて契約料を渡すことにする。
「お金だけポンと渡すのも味気ないからな……あ、そうだ。ヘルヘイムの街で一番大きな屋敷をグリムにやるよ。そこを店として使ってくれ」
「うむ……って、えッ!? 屋敷!?」
「それと俺が今まで集めてきたアイテム類や街にある資材も全部グリムの自由にしていいから、いい商品を作りまくってくれよ! お前のこと、期待しまくってるからな!」
「ふぇええええええ……!?」
再びガクガクと震えはじめるグリ子さん。尊大な口調のわりに、かなり小心者な子であるらしい。
俺はそんな彼女の肩を叩きながら、ハッハッハと笑うのだった。
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