43:アイドル襲来だよ、グリムちゃん!
※作者のマイページよりジャンプできるツイッターのほうにて、「ユーリくんちゃんは運営から奪った一千万で何か買ったんですか?」という質問をいただきました。
はいお答えします。ユーリくんちゃんは、奪ったお金で両親や闇金のおじいちゃんをお寿司屋さんに連れて行ったみたいです。ほっこりですね。
「ぐぎぎぎぎぎ……おのれ、指定暴力団・運営組め! 勝手に写真集出すとか『宣伝など』の範囲広すぎるだろっ!? そもそもクソアップデートで徹底的に俺を弱体化させたことといい、奴らは俺にどんな恨みが……!」
「あはは……まぁ前者はともかく、後者は仕方ないのではなくって? たとえユーリさんでなくても、プレイヤー個人が三万人を虐殺できる力を手に入れてしまったら……ねぇ?」
クソ運営から姑息な反撃をくらった後のこと。俺はフランソワーズと共に『始まりの街』を歩いていた。
思えばフランソワーズとはあんまり話をしてこなかったからな。初期から支えてくれた恩人として、一度は雑談でもしようと考えていた。
「運営には悪いが、俺はいくら規制されようがトップに居座ってやるからな。気合と根性とちょっとした思い付きがあれば、無理なことはあんまりないんだよ。街をゲットしたりとか」
「う~ん……話を聞く限り、ユーリさんの場合はその『ちょっとした思い付き』が予想外すぎるといいますか……!
いや本当に、まさかユーリさんがここまでのプレイヤーに成長するだなんて思ってませんでしたわねぇ。ぶっちゃけ最初は、『初心者が三大最弱要素を背負ってトップを目指すなんて無理無理』って心のどこかで思ってましたもん」
ちょっとだけ申し訳なさそうな笑みを浮かべるフランソワーズ。
まっ、口だけのヤツはどこにでもいるからな。真の男である俺は不遇なんかに屈しないのだ。これからも悪の運営と戦いつつ、ちょくちょくと金を絞っていくつもりだ。経営までガバガバで破産するなよ?
さて、当面の目標は次のギルド戦争での優勝だな。そこで装備の新調を頼むのと一緒に、フランソワーズにギルドに入らないか誘いにきたのだが……、
「実は、こうして街を歩くまではフランソワーズのことをギルドに誘おうと思ってたんだけどな」
「あら……ごめんなさいユーリさん、もしも誘われていたら、きっとお断りしていましたわ。理由は……わかりますでしょう?」
「ああ。以前の俺と同じような、右も左も分からない初心者たちをサポートしてやりたいんだろう?」
街並みを見てよくわかった。広大な石造りの道には多くの初期装備の者たちが歩くようになっており、ここ数日で十万人を超えるほどの新規プレイヤーが参加したってのが肌で感じられた。
感覚からグラフィックまで全部がリアルなVRゲームでこんなに人が増えたら、データ処理やらで動作が遅くなると思うんだがな。これでまったく影響がないなんて運営も(技術面だけは)やるもんだ。
そこだけは認めてやりながら、俺は言葉を続ける。
「まぁ俺もゲームを始めてから二週間も経ってないから、初心者と言えば初心者なんだけどな。だけど金も武器も充実している俺より、フランソワーズの手助けが必要なやつは多いだろ」
「ふふっ、流石はユーリさん。話が早くて助かりますわ。
それで代わりと言ってはなんですが、ユーリさんに紹介したい子がいますのよ。……ここですわ」
そう言ってフランソワーズはちっちゃい小屋を指差した。ウルフキングことウル太郎の犬小屋にもならなさそうなショボさだが、入口には『万物創世の女王・グリムの装備店』という看板が。
あ~、あの金髪のちっちゃい子の店か。βテスターは金を引き継げるっていうのに、こんな小屋しか買えないなんて……本当に売れてなかったんだな。ドアもないし、居酒屋みたいに暖簾がかかってるだけじゃないか。
フランソワーズは「お邪魔しますわ~」と慣れた様子でそこに入っていく。
「むむっ、よく来たな客人よ! 貴様は本日一人目の客で……って、フランソワーズ!? な、なんだ、借金を取り立てに来たのかー!?」
「違いますからガタガタ震えないでくださいまし。……実はギルドメンバーを探している方がいましてね。そこでグリムの腕を見込んで、アナタのことを紹介しに来ましたの」
「ムッ、我のことを紹介だとぉ? ふふっ、言っておくが我は孤高の天才職人。ハンパな者の下に付くつもりはないぞ? それこそ、かの恐ろしくも美しき至高の魔王・ユーリ殿からの誘いでもなければ~」
「俺だぞ」
「えっ、ファーーーーッ!?」
フランソワーズに続いて店に入ると、グリムは変な声を上げながら飛び上がった。
そんな彼女の様子にフランソワーズがクスクスと笑う。
「うふふふふふふふっ! さぁグリム、自慢の商品を紹介しまくって、みごと魔王様の心を射止めてごらんなさい! ではでは、あとは二人でごゆっくり~!」
金色の髪をなびかせながら優雅に去っていくフランソワーズ。「またなー」と彼女に手を振った後、俺はガックンガックン震えているグリムに向き直った。
「というわけで、ギルド戦に向けて腕のいい職人プレイヤーを探してるんだよ。そこでお前の腕前を見せて欲しいんだが……」
「あっ、あわわわわわわわっ!?」
顔を真っ赤にしながら、柱の陰に小さな身体を隠してしまうグリム。だが決して俺のことを嫌っているわけじゃないらしく、「ス、スクショ撮ってもいいのかな!?」「写真集で見たより綺麗だ~……!」と震えながら呟いていた。ってお前も写真集買ったのかよ。
うーん、とにかくこれじゃ話せそうにないなぁ。俺は彼女に近づいて背を屈め、なだめるように話しかける。
「じゃあグリム、落ち着いたら声をかけてくれ。別に急いでるわけでもないからな?」
「ひゃ、ひゃいぃぃぃい……!」
……どうやら逆効果だったらしい。グリムは涙目になりながら、さらに震えを激しくさせて身体を縮こまらせてしまうのだった。
この子、本当に大丈夫なんだろうか……?
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