42:ユーリくんちゃん、写真集デビュー!
さーて、バトルする前に装備の更新をしなくちゃな。
というわけで、俺はフランソワーズに会うべく『始まりの街』に戻ってきていた。
ヘルヘイムには今まで行ったことのある他の街に転移できるようになる『転移札』というのが売っていたからな。そのアイテムを使ってヘルヘイムからここまでひとっ飛びで来た。
「あっ、魔王ユーリだ!」
「えっ、ホンモノ!?」
「うわぁ綺麗だな~! 運営が発売した『写真集』と同じだー!」
ワーワーと注目してくるプレイヤーたちに手を振ってやる。
はっはっは、すっかり俺も顔が売れたものだ! なんかたまに「写真集買いましたー!」「リアルマネーで500円したけど納得のクオリティでした!」「ドラゴンプラントにレーザーでドレスを焼かれたカットとかエロエロですね!」なんて声が聞こえてくるが、はて何のことやら?
そのことに首を捻りながらフランソワーズの店に向かうと、何やら店先で彼女とちっちゃい女の子が言い争っていた。どちらも金髪で姉妹のようだが、白いドレスを着ているフランソワーズに対してチビ助のほうは真っ黒だ。
チビ助は変なポーズを取りながらフランソワーズに告げる。
「クーックックックックッ! 我が永遠の敵、フランソワーズよ。我も今日からブレスキオンラインを開始だ! せいぜい店が潰れないように必死でいい商品を作りまくるがいいっ!」
「永遠の敵ねぇ……? ねぇグリムさん、βテスト時代にさんざんお金を貸してあげたのは誰でしたっけ?」
「うぐぅっ!?」
「『ぜんぜんアイテムが売れないよ~!』って泣きついてきて、仕方なく作り方をアドバイスしてあげたり材料費を工面してあげたのは? 店舗購入の頭金を出してあげたのは、いったい誰でしたっけ? まだほとんど返してもらってないような……」
「あっ、そっ、それはいつか返すっていうか……ぬ~~~~~~~~~っ! えぇい覚えていろフランソワーズッ! 我はいつか、貴様を超える職人になってやるんだからなーーー! うわあああああんっ!」
……ボロッカスに叩き潰され、泣きながら走り去って行くグリムという少女。フランソワーズはそんな彼女の後姿を見送り、フッと表情を緩めるのだった。
「よぉフランソワーズ。今のは妹か何かか?」
「あらユーリさん、見てましたの? ……まぁそんなところですわ。βテストの時代からやたらと突っかかってきますのよ。『いつか絶対に貴様を超えてやるんだ』って」
へぇ、気合入ったヤツじゃないか。
スキンヘッド曰く、フランソワーズはトップクラスの職人プレイヤーとして有名らしい。やたらとリアルに近い繊細なクラフト作業をすいすいとこなし、デザインと性能のどちらも素晴らしい装備を作ることからファンも多いんだとか。今だって三階建ての立派な店舗を持ってるくらいだしな。
そんな相手にライバル宣言とはやるなーアイツ。ナイス根性!
そうチビ助のことを評価していた時だ。フランソワーズが何やらニマニマと笑いながら雑誌を取り出してきた。なんだそれ?
「ウフフフフフッ、そういえば見ましたわよ~ユーリさん! 運営公式写真集『暴虐の美少女魔王ユーリ ~戦場に咲くチラリズム~』! わたくしの衣装を着たユーリさんがとっても美しく映っていて、もう大興奮でしたわー!」
「ってなんだそりゃー!?」
え、俺の写真集なんて出てるの!? 聞いてないんですけど!?
フランソワーズの手から例のブツを奪い取ってペラペラとめくる。するとそこには、地下墳墓でゾンビの群れと戦う俺の姿や、森でギガ太郎に触手で締めあげられた時の姿や、バケモノと化した教皇と拳をぶつけ合う姿が。
それに加えて『もしも魔王様がカノジョになったら♡』というクソみたいな題名の下に、スキンヘッドとハンバーガーを食べた時の姿がなぜかアイツ目線で映っていたり、シルとフランクフルトをハグハグしていた時の姿もシル目線で映っていた。
ってなんだこりゃ!? 運営のやつ、無許可でこんなもん作りやがって!
「おいフランソワーズ、俺こんなのが出てるなんて今知ったぞ。写真集の発売なんて許可してないぞコンチクショウ……!」
「あらそうなんですのっ!? ……あー、でも、そういえば規約にこんな文章がありましたわねぇ。『グラフィックデータの著作権は、背景・アバター問わず運営のものとします。またゲーム内のプレイヤーの様子は、宣伝PVなどで利用する場合があります。あらかじめご了承ください』って」
「なにー!?」
彼女の言葉にあわててメニューから規約画面を開いてみると、たしかにそのような文言があった。
……うわー、たぶんゲームを始めるときに表示されたんだろうけど、そんなの読み飛ばしてたわ……。しっかり読んでいたとしても「だからなんだ」って感じだしな。
まさか写真集を出されるなんて思わねーだろ普通……!
「ぐっ、ぐぬぬぬ……! 運営のやつめ、せこい商売をしやがって……!」
「あはは……まぁユーリさんもさらに顔が売れたってことでいいのではなくって? 写真集のレビューページにはこうありましたよ。『戦闘狂だと思ってたけど、めっちゃ可愛い顔でご飯食べてて印象変わったわ~!』とか『バトルイベントで虐殺されて憎んでたけど、こうして見ると顔は綺麗だし身体はエッチすぎる……あの日のトラウマがご褒美に変わっていくようだ……!』って」
「可愛くねーしエッチでもねーよバカーっ!」
誰だよそんなアホみたいなレビューを書いた奴らは!?
怒りのあまり本を地面に叩きつけようと思うも、フランソワーズの買ったものだから(買うなよ)それも出来ず、俺は悔しさと恥ずかしさで呻くしかなかったのだった。
チクショウ運営ッ、次のイベントも荒らしまくってやるから覚えておけよーーーー!?
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